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突然、地響きがおきた。
真っ二つに割れた岩が泉に沈む。
すっかり存在を忘れていた人魚が口を開いた。
「始まりましたね。ベルティーナ様専用、スローン・ギアの爆誕です!」
すぐさま、玉座がせり上がってくる。
王女の安否は、どうでもよくなってきた。
ヒロシ、メイド隊の興味は、玉座に向けられている。
メイド一号が、バンジー専用ロープをメイド長に巻き付ける。
「なぜにメイド長に括り付けるの?」
「メイド長を水たまりにぶん投げて、玉座を水揚(回収)します」
「なるほど。水平タイプのクレーンゲームって感じか」
「なるほどじゃねぇよ! ヒロシさま……笑ってないで止めてください……」
「メイド長は、ダマラッシャイ!」
戦闘に特化したメイド(三号)が、メイド長のアタマをグリグリっと押さえつける。
「このドチクショーがっ!」
メイド(三号)が、水たまりに向かってメイド長を放り投げる。
メイド長が玉座をホールドしたことを確認。
メイド隊全員が、ズンドコ節を歌いながらロープを引く。
数秒後。
がっちりと玉座を抱きかかえたメイド長を釣り上げた。
1/10の確率で切れるロープは、役割を果たしている。
ベルティーナに巻き付けたロープは、すべてぶっちぎれたのに。
「メイド長というか、玉座長ですね」
メイド一号がつぶやく。
ヒロシたちは、陸揚げされた玉座に集まる。
背もたれの上部には、十本のツノ。
電気が流れそうなヤバそうなイス。
人を寄せ付けない禍々しいオーラを放っている。
座る主を玉座が選びそうな雰囲気を醸し出す。
「魔王が座ると似合いそうだよね。で、このヤバそうなイスはなに?」
「新型の玉座です。ベルティーナさま専用スローン・ギア『(タイプS)』です」
スローン・ギア。古代の技術で作られた玉座だ。
目をキラッキラにした人魚が力説する。
「レイジング・ブル。直訳すると激怒する(激しい)牛。ブレーキのないベルティーナ王女にぴったりだと思います」
メイド全員が深くうなずいている。
人魚の疾走はとまらない。
「レイジング・ブルの諸元は、ざっとこんな感じです」
人魚が地面に書きだした。
魔法が存在する世界なのに、けっこうアナログだった。
自走式(旧型は王女の脚で動かしていた)
ベルティーナ専用玉座『レイジング・ブル』スペック
型番:SG5000RB
ボディカラー:ショッキングピンク
エンジン:魔導核2基+呪符式ターボチャージャー2基
トランスミッション:6速AT
ブレーキ:なし(王女の足で制動)
最高出力:600馬力/6000回転
駆動方式:フルタイム4WD
最高時速:350キロ
ハンドリング:1
スピード :5
加速度 :5
使用燃料1:無鉛プレミアム王女パワー(ベルティーナの気合い)
2:カワグチ・ヒロシの王女に対する恋愛感情
特徴:四輪ドリフト対応、ホバーモード搭載、百段階リクライニング
オプション:消臭機能(カレー臭対応)、 盗難防止機能(アラームで警告後に自爆)、
目覚まし機能(設定時間に爆発)
オーディオ:40チャンネル・魔導サラウンドシステム(最大出力:心臓停止レベル)
※ヒロシのズンドコ節1~5番まで設定済、ワルキューレの騎行ロックバージョン 他、50万曲収録
「とにかくすごいんです!」
人魚いわく、旧型とは比にならないほど速いらしい。
ヒロシとメイド隊は、人魚の力説そっちのけで、玉座をいじり倒している。
ひじ掛けの収納スペースからゲームソフト(カセット)が出てきた。
『ひろしのズンドコ節』という、リズム系のゲームだ。
水がズブズブと染み出てくるカセットの裏面を、ヒロシが確認する。
油性ペンで“ひろし”と名前が記されている。
ハミデール国王に貸してた俺のゲームじゃん……。
新型玉座とゲームソフトを回収したヒロシは、帰路につく。
ハミデール王都に近づきつつある頃。
馬車内の雰囲気に、なんとなく違和感を覚えたヒロシは、玉座に座る“ピンクの人物”に確認をとった。
「ドピン子王女殿下。まもなく王都に到着します。ハミデール城までお送りします。って、人魚やないかい!」
「ヒロシさま。六時間ほど王女さまと談笑していたではありませんか。紛れもなく王女さまです。って、人魚やないかい!」
と、メイド長。
「そんなバカな。ピンクの衣装からして、どう見てもピーチ姫ですよ。って、人魚やないかい!」
メイド一号から十九号も同様のリアクションだった。
ベルティーナは依然として行方不明。
人魚は王女ということにしておいた。
「ヒロシさま。遠くのほうで何か燃えています……」
メイド長の指さすほうに体を向けたヒロシは、視力八・〇の目で、火柱をあげる何かを凝視する。
「あぁ、やっちまった……。これは土下座で済まない案件かもしれない……」