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防衛省の庁舎の中には、自衛隊の別班が使う秘密の施設もある。
その一画は査問会のような空間だった。
別班の大河内和夫二等陸佐が中央の椅子に座らされ、弁を強いられる。
「ですから! 映画シーマンシップの撮影企画について、疑わしい点があると……!」
なぜテロリストが海上自衛隊イージス艦を武装占拠するというシナリオの映画に防衛省自衛隊が協力するのだろう。
上官が手を組み、瞑目する。
「やめたまえ。シーマンシップへの撮影協力は上層部の意向だ」
大河内は公安警察のゼロが裏で動いている可能性を考えた。ゼロとは警察庁警備局警備企画課直轄の作業班を指す。だがそれもありえないとかぶりを振った。
「これは、決定事項だ」
* *
横須賀の海上自衛隊基地には朝日が差し、日の丸を誇らしく照らし上げる。
ワンボックスカーで港にやってきた塚崎陽斗と吉積ひなた。車を降りると、海上自衛官が整列して迎えてきた。
「おはようございます。アクション演技指導で参りました、警察OBの塚崎です」
「同じく吉積です」
塚崎と吉積に応え、自衛官がきびきびと敬礼する。
「護衛艦きりしま、艦長の坂東です」
「副長の宮本です」
宮本の目つきが気になる塚崎。鋭くプロ意識を感じさせる。何かを警戒するかのような目に、塚崎こと桜祐警部は緊張感を覚えた。
「ではご案内します」
……百数十メートルもある巨大なイージス艦きりしまを背景に、グラウンドにてアクションシーンを演じる塚崎と吉積。互いにタンクトップ姿だ。
宮本は淡々と感想を述べる。
「いやあ、芝居がリアルですね、その調子で頼みます」
塚崎と吉積、顔を見合わせてひやりとする。公安警察の身分がバレるかと思った。
「そういえば艦長が艦橋で呼んでいましたよ」
「本当ですか。わざわざありがとうございます」
……イージス艦きりしまの通路を通ると、気になる会話が聞こえてきた。
「まさか堅物の副長が結婚するとはな」
「相手は中国の美女らしいぞ」
「マジで?」
「(え?)」
塚崎は目を見開いた。
* *
イージス艦きりしま艦橋には坂東武彦艦長がいた。
「おや。艦橋へようこそ」
「私たちをお呼びだと伺いましたが」
「え」
「え」
坂東は顎に手をやる。
「何か行き違いがあったのでしょうか」
考え込む吉積。
と、警報音が鳴る!
「艦長! 右舷第二甲板で発砲音!」
「映画撮影の効果音ではないのか」
「違います、実銃です!」
坂東がいきなり関西弁になる。
「なんやと!」
艦橋要員が騒がしくなる。
「CICに肉薄されています!」
「監視カメラ、映像出せ」
見覚えのある顔だった。副長の顔がアップになる。どうやら主犯格らしい。
坂東は顔をこわばらせた。
「ふ、副長……」
吉積が驚く。
「副長!?」
「まさか、副長によるイージス艦の強奪!?」
塚崎は目を細めた。
坂東は受話器を取った。
「こちらイージス艦きりしま、本艦は工作により艦内を武装占拠された」
乗員が塚崎と吉積に銃を向ける。疑いの目は彼らに向けられた。
坂東は顔を険しくする。
「お前たちはいったい何者だ、副長とグルか」
くぐもった爆発音が響く。
塚崎は意を決して、正体を明かすことにした。
「私たちは潜入捜査中の公安警察です」