テラーノベル
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「いるま、もう俺のこと好きじゃねえのかなぁ…」
ぽつりと零した俺の声は、居酒屋のざわめきに溶けていった。
「流石にあのいるまが、なっちゃんのこと嫌いになるわけないでしょ。笑」
向かいに座るらんは、軽くグラスを揺らしながら笑う。 その余裕が、今の俺には少しだけ眩しかった。
「でもさぁ……」
言葉を探すみたいに、指でテーブルの水滴をなぞる。
「素っ気ないんだもん、最近。」
今、俺が吐き出してるのは、同棲中の恋人である、いるまのことだ。 家に一緒にいるはずなのに、心の距離だけがどんどん遠くなってる気がして。
スマホを見てばかりで、俺には視線すら向けてくれない。 すぐ外に出て、帰りは遅い。
ベッドで誘っても、疲れてるの一言で終わり。
「……はぁ、」
ライブのためにずっと食事制限してて、 やっと解禁された肉料理が目の前にあるのに、喉を通らなかった。
「……じゃあさ」
沈黙を破ったのは、らんだった。
「嫉妬作戦は?」
「……嫉妬作戦?」
思わず顔を上げると、らんは少し悪戯っぽく笑っていた。
「ほら、いるまって独占欲強いじゃん。 なつが他のやつに取られそうになったら、流石に黙ってないでしょ」
「……そんな単純かな」
そう言いながらも、胸の奥がわずかにざわつく。
「単純だよ、人間なんて。 それにさ、本当に冷めてたら、嫉妬すらしないから」
らんの言葉が、妙にリアルで痛かった。
嫉妬してほしい。
怒ってほしい。
俺を見てほしい。
そんな自分の情けなさに、グラスを握る手に力が入る。
「……怖えよ」
「何が?」
「もし、それでも何もなかったら」
らんは一瞬だけ真顔になってから、静かに言った。
「その時はさ、ちゃんと話せばいい。 逃げるより、確かめるほうがマシでしょ」
確かめる。
その言葉が、胸に重く落ちた。
家に帰ったら、いるまはまたスマホを見てるだろうか。
それとも、俺に気づいてくれるだろうか。
冷めた肉を口に運びながら、
俺はまだ答えの出ない不安を、アルコールで誤魔化すことしかできなかった。
「ぁ、じゃあ試しに俺がいるまに通話して
『いるまー見てる?君の可愛い彼女と今から(自主規制)しちゃいまーす』って言おうか?」
「その場合、お前が殺されるぞ。」
……いるまって、嫉妬、するっけ? いや、するだろうけど、表に出さないタイプだろうな 。
『束縛はしたくない』とか言ってたし、俺が誰とどこに行こうが、「楽しんできな」って言うし。 そのくせ、夜遅く帰ると、機嫌が微妙に悪いのは何なんだよ。
「……無理そうだな」
ぼそっと呟くと、らんが眉をひそめる。
「無理って何が?」
「嫉妬。あいつ、束縛したくない派って言ってたし。そもそもあんま表に出さないじゃん」
「んー…でもさ」
らんは顎に手を当てて、少し考える素振りを見せた。
「束縛しない派って言うやつほど、 ‘’自分からは言わないけど取られるのは嫌”なタイプ多くない?」
「………」
図星すぎて、言葉に詰まる。
確かに、いるまは何も言わない。 言わないけど、 俺が他のやつの名前を出すと、空気が一瞬だけ冷える。
ほんの一瞬。 気づかないふりもできるくらい、微妙な変化。
「……じゃあ、どうすりゃいいの?作ある?ぁ、 らんを犠牲にしない方法でな」
グラスの中身を飲み干して、俺は天井を見上げる。構ってほしい。 好きって、言ってほしい。
でも、嫉妬してほしいなんて、 こんな子供みたいなこと、言えるわけないだろ。
下手に煽ったら逆効果。
らんを危険に晒すのも論外。
……じゃあ、何が一番効く?
「ぁ、……」
「ん?どしたん?」
「らん、このあと俺の家に来てくんない?」
自分でも驚くくらい、声は落ち着いていた。
「なぜに?」
即座に返ってきた問いに、俺は一瞬だけ言葉を探す。 冗談でも、軽口でもない。ちゃんと理由が必要だった。
「……ただの作戦」
「ほう?」
らんは眉を上げて、少しだけ興味深そうに身を乗り出す。
「らんは、俺と喋るだけでいい。……ぁ、ボディタッチとかも」
言い切った瞬間、らんが一瞬きょとんとしてから、にやっと口角を上げた。
「なるほど、そーゆう嫉妬ね。じわじわ攻めてくるタイプかァ。 いやぁ、なっちゃんSやねぇ!笑」
楽しそうに笑う声が、やけに大きく聞こえる。
完全にテンション上がってんな。 酒のせいか? それとも面白がってるだけか。
「おっけ、おっけ!」
らんは勢いよく頷いて、わざとらしく俺の肩に腕を回した。
「俺はめっっっちゃ、なっちゃんにボディタッチするし、話しかけるね!」
「……あぁ」
俺は視線を落とす。
「もし、俺が他の男と一緒にいる日常を見て、 何も思わないなら…それが答えだと俺は思う。そのときはそのとき、振るわ!笑」
「………… 」
らんはしばらく黙って俺を見ていた。
からかうでもなく、笑うでもなく。
「なっちゃん、結構追い詰められてるね」
「………うるせ」
そう言い返しながらも、否定はできなかった。
「ま、いいよ。 別に変なことするわけじゃないし」
「サンキュー」
「ただし」
らんは指を一本立てる。
「修羅場になっても、俺を盾にしないでね?」
「それは約束できん」
「まじか、笑」
苦笑しながらも、らんは立ち上がった。
作戦通り、俺とらんは家に帰った。
ガチャ
ドアを開けると、リビングの奥にいるまの姿が見える 。
「……ただいま」
少し間を置いて、視線だけがこちらに向いた。
「……らん?」
名前を呼ぶ声は低く、温度がなかった。
「やっほー! 遊びに来たよ!!」
らんはいつも通り、いや、いつも以上に明るく手を振る。
「……」
いるまは何も言わず、眉間に深く皺を寄せた。
これ完全に、「なんでお前がここにいるんだよ」って顔だ。
「めっちゃ嫌そうな顔すんじゃん」
らんがわざとらしく笑いながら言うと、
そのまま自然な動作で俺の肩に腕を回した。
「なっちゃんとめっっっちゃ話盛り上がってさぁ! まだ飲み足りないって言ったら、なつが
『じゃあ家来れば?』って言ったんだよね」
肩に乗った腕の重さが、やけに意識に残る。
「……あぁ、そう」
いるまはそれだけ言って、俺たちに背を向けるようにソファに腰を下ろした。 スマホを手に取る動作が、妙に乱暴だ。
「……」
リビングに、微妙な沈黙が落ちる。
俺はちらっとらんを見る。
らんも同時に俺の方を見て、口元だけで笑った。
「結構、嫉妬してるっぽいね」
声を限界まで落として、耳元で囁かれる。
「……そうだな」
俺も小さく返す。
らんは当たり前みたいに俺の隣に腰を下ろした。
「……」
距離が、近い。
「なっちゃん、お酒飲もっかー! あっ、グラス借りていい?」
「ん? あぁ、取ってくるわ」
キッチンに向かう途中、無意識にソファの方を見る。 いるまは相変わらず背中を向けたまま、微動だにしていなかった。
(…見て、ないよな。)
グラスをふたつ持って戻ると、 らんは既にボトルを手に取っていて、慣れた手つきで酒を注ぐ。
とく、とく、と静かな音。
「よし……はい、なっちゃん」
差し出されると思った次の瞬間。
「口、開けて」
「……は?」
理解する前に、手首を掴まれた。
「俺が飲ませるね」
「の、飲ませるって…なに……うぉ!?」
視界がぐらりと揺れて、 気づいた時にはソファに押し倒されていた。
「ちょ、らん!?」
腕を動かそうとしても、びくともしない 。
力、強すぎだろ!?
「暴れないで、零れるから。」
耳元で、冗談みたいな声。
心臓がうるさい。 これは演技、作戦、そう分かってるのに。 ふと、視界の端で影が動いた。
ソファの背後。 さっきまで無関心を装っていたはずの、いるまが立っている。
「なにしてんの」
低く、抑えた声。
空気が、一気に張りつめた。
らんは一瞬だけ口角を上げて、 俺から視線を外さずに言った。
「見て分かんない? なっちゃんに、飲ませてあげてるだけ」
その言葉に、俺 の身体を押さえていた力が、ほんの一瞬だけ強まった。 これ、 嫉妬作戦、効きすぎてないか?
すると、らんは俺の顎を指先でクイッと持ち上げた。
「俺なら、冷たくなんかしないよ?」
低く、甘い声。
「沢山構ってあげるし、優しく抱きしめてあげるし……毎日、ね?」
「ら、らん……?」
耳元で囁かれて、思わず肩が跳ねる。 くすぐったいし、近いし、何より…
(こいつ、感情移入しすぎてねーか!?)
「俺にしたら?」
囁きは止まらない。
「こんな冷たい彼氏なんかよりも……」
(ぇ、か、顔近……!?も、もしかしてこれ… もしかしなくてもこれ!キ…
ばっ、と視界が遮られた。
「……っ!」
俺とらんの顔の間に、割って入る一本の手。
指には、見慣れたオシャレな指輪がいくつも光っている。
反射的に息を呑んだ。
「………ぇ、」
低く、震えるような声が落ちた。
「らん、…辞めろ。」
いるまだ。
いつの間にかすぐ後ろまで来ていて、
らんの手首を掴み、強引に引き剥がしている。
「俺の彼女に、何してんの。まじで 。」
抑えた声なのに、怒気がはっきり滲んでいた。
らんは一瞬だけ驚いた顔をして、すぐに笑う。
「やっと動いたね。 ずっと無関心ぶってたくせに。笑」
「……黙れ」
らんを睨みつけるその目は、 今まで俺が見たことないくらい、感情を露わにしていた。
掴まれたままの俺の手が、微かに震える。
(ぁ…これ、嫉妬だ。)
確かに、はっきりと。
「……なつ」
俺の名前を呼ぶ声だけ、急に低くなった。
「こっち、着て。」
有無を言わせない声音。
けれどその手は、乱暴じゃなくて、確かに俺を守るみたいだった。
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
(…やっと、見てくれた。)
「…………」
「……いるま……?」
呼びかけた声は、情けないくらい震えていた。
返事はない。
その代わり、腕が回されて、 ぎゅっと、息が詰まるほど強く抱きしめられる。
「……」
何も言わない。 ただ、逃がさないみたいに、力を込めて。
心臓の音が、すぐ近くで聞こえた。 早くて、乱れてて、ちゃんと動揺してる。
そこで、空気をぶち壊す声が飛んできた。
「てってれーん。ドッキリだいせいこー」
今まで聞いたことないくらい、感情のない棒読み。
「散れ れ、前髪の部分だけ。」
低く、即答。
「ちょっと!? ふたりの関係を戻してあげた、恋のキューピットに 何その言い草!」
「距離が近ぇんだよ!この脳内ピンク!
二度となつに近づくな!」
「ひどっ!」
俺はというと、
まだいるまの腕の中から出られない。
というか、出してもらえない。
「……」
抱きしめる力は、さっきより少しだけ緩んだ。
でも、離す気はなさそうだ。
胸元に顔を埋めながら、 俺は小さく息を吐いた。 ちゃんと、嫉妬してくれた。 ちゃんと、掴んでくれた。それだけで、嬉しかった。
コメント
2件
え、ちょっと神すぎてどうしよう 桃くんいいことしてくれたぁぁぁ !!! 赤くんのこと大好きだもんね紫くんは … 可愛すぎやしませんか ??
神作品すぎるッ✨!!独占欲が強いまにきってめっちゃ良いッッ!! 僕の勝手な解釈なんですが、らんくんはもしかしたらなつくんの事が本当に好きだったのでは………!?と感じました!だから嫉妬作戦の時にちょっとやり過ぎちゃったとか……?勝手な妄想ですけどね☆