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るあ
32
*ご本人様には一切関係ございません
__目を覚ましたら、ベッドにいた。
仁「……っ、あー……痛てて……」
ズキズキと頭の奥を鳴らす微かな二日酔いの鈍痛。
俺は重い瞼を持ち上げ、遮光カーテンの隙間から差し込む朝の光に目を細めながら、ゆっくりと上体を起こした。
__ あれ、俺、どうやって帰ってきたんだっけ……?
二日酔いと寝起きのせいで、思考がまるで回らない。
自分がどうやって居酒屋を出て、どうやってここまで帰ってきたのか、昨日の終盤の記憶がすっぽりと抜け落ちていた。
仁「…今、何時だ?」
チラッと時計を見ると、もう朝の7時になっていた。
仁「準備しないとやばいか」
ズキズキと頭の奥を鳴らす二日酔いの鈍痛を力技で無視して、俺は焦りながらベッドから跳ね起き、大急ぎで身支度を始める。
俺は慌しく鞄に荷物を入れ、現場へ向かった。
廊下をバタバタと駆け抜け、楽屋の扉を開けた。
仁「おはよう」
走ってきたせいでぜえぜえと息を上らせて、楽屋に入る。
舜「おはよう仁ちゃん、珍しく最後やな」
普段なら誰よりも早く30分前には現場に入っているのに、今日は5分前に来てしまった。
仁「ちょっと寝坊しちゃって…」
上がった息を落ち着かせながら、俺は慌てて自分のカバンを開け、中から今日使う台本や必要な物を取り出した。
柔「よっしーが寝坊なんて本当に珍しいね、大丈夫?体調悪いとかじゃない?」
顔を覗き込み、ピトッと俺のおでこに手を当ててきた。覗き込んできた柔太朗のその声は、どこまでも優しく、俺を本気で気遣う温かさに満ちていた。
舜「ちょっと仁ちゃん!距離近すぎやで!柔は俺の恋人なんやから、もうちょっと離れて!」
ババッと音を立てるような勢いで、舜太が俺と柔太朗の間に割って入り、過剰なほどに柔太朗の躰を自分の後ろへと引き隠した。
__今の俺悪いか?
柔太朗がおでこに手を当ててきただけなのに、なんで俺が怒られなきゃいけないんだと、最初は理不尽に思った。
だけど、二日酔いと寝起きのせいでまるで回っていなかった俺の脳細胞が、一拍遅れてあいつの言葉の異常さに気づく。
__……ん?舜太くん今なんて?
仁「あっ、わりぃ。……って、は?!舜太今なんて言った!?」
慌てて謝りかけた俺は、そのままホワイトボードを落とさんばかりの勢いで飛び上がり、見たこともないくらい目を丸くして舜太に聞き返した。
舜「いやー、実はな昨日みんなと解散した後俺ら付き合ったんよ」
舜太は、照れくさそうに頭をかきながら、だけどこれ以上ないくらい幸せそうな、とびきりの笑顔を浮かべてさらりとそう言い放った。
慌てて隣を見れば、柔太朗が顔を耳の付け根まで真っ赤に染め上げたまま、小さくコクンと頷いて、舜太の服の裾をぎゅっと掴んでいる。
__うっわ、マジじゃん……
昨日、セットの裏であんなに悩んでいた後輩の恋が完璧に実っていた衝撃と、あまりにもぶっ飛んだ事後報告に、俺の頭は完全にパンクしてしまった。
仁「太智と勇斗はなんも思わねぇの?!」
なんでみんなそんなに落ち着いていられるんだよと、俺はたまらなくなって、メイク中の太智とソファの奥の勇斗に向かって大絶叫のツッコミを投げかけた。
すると、ヘアセットをしながら太智がひょいっと肩をすくめ、確信犯の意地悪なニヤニヤ顔をこちらに向けた。
太智「もう吉田さん来る前に聞いてたしな」
__嘘だろ……
太智「吉田さんが二日酔いでぜえぜえいいながら遅れてくるからやん」
鏡の向こうからケラケラと笑い声を響かせてくる太智。
普段なら絶対にあり得ない5分前の滑り込み。俺が必死に廊下を走っている間に、この楽屋ではとっくに舜太と柔太朗の特大のハッピーサプライズの報告会が終わっていたのだ。
__柔太朗は俺に先に言えよ!
勇「まあ、そりゃびっくりしたけどな」
__あっそうだ、俺勇斗に今日言わないと……
チラッと太智の方を見るとニヤニヤとしながら、「いけいけ!」と言わんばかりに顔で猛烈に指示を出してくる。
俺は、上がった息を落ち着かせるように少しだけ深く息を吐き、カバンを握る右手の拳をグッと強く握り締めた。
仁「は、はやと、今日って雑誌の撮影終わったら少し時間ある?」
緊張のあまり、出だしのあいつの名前を少しだけ噛んでしまった。
だけど、俺は逸らしたくなる視線をぐっと堪えて、ソファの奥に佇む勇斗の瞳を、今度は俺の方から真っ直ぐに見つめつづけた。
勇「…あー、ごめん。雑誌の撮影終わったら次ドラマの撮影があって…」
申し訳なさそうに視線を泳がせてポツリとそう呟いた。
仁「あっ、そっか。」
人気俳優としてのあいつの過密スケジュールという、どうしようもない現実の壁。
仕事なら仕方ないと、俺が少しだけ寂しさを滲ませて引き下がろうとした、その瞬間。
勇「撮影終わるの遅くなるかもしれないけど、俺ん家で待っとく?鍵渡しとくし」
勇斗は弾かれたように顔を上げると、俺の言葉を遮るようにして、必死に、だけど掠れた声を絞り出した。
仁「い、いいの?」
飛び出してきたあまりにも特別すぎる提案に、俺は顔を真っ赤に染め上げながら、蚊の鳴くような声でようやくそれだけを聞き返した。
勇「いいよ、てか前まで、俺の家の鍵持ってただろ笑」
勇斗は、耳の付け根まで真っ赤にしたまま、少し照れくさそうにふにゃっと口元を緩ませてそう笑った。
勇「ん、家の勝手に食べてていいから、風呂とか入るなら俺の服使いな」
あいつはそう言いながら、ポケットから小さな金属の塊を取り出して、俺の手のひらにそっと握らせてきた。
__勇斗の服……
必死に邪念を振り払おうとするけれど、耳の付け根まで真っ赤に茹れ上がった顔のまま、俺の手を包むように鍵を握らせてきた。
勇「仁人の為に頑張って急いで帰るね」
__……俺のため…
あいつのその真っ直ぐな瞳に見つめられて、俺の心臓はドクドクともう破裂しそうなほどの音を立てて暴れ出す。
仁「……うん…///待ってる」
自分の顔が一気にカッと熱くなっていくのを感じながら、俺は消え入りそうな声で、だけど逃げずに勇斗の目を真っ直ぐに見つめてそう呟いた。
__……って、あいつ…
2人だけの世界に入りかけて激しくドギマギしていた俺が、ふと我に返ってチラッと視線を動かした、その時だった。
メイク鏡越しに俺たちのその一部始終を完璧に見届けた太智が、心底興味なさそうな顔をしているのが見えた。
さっきまで鏡の向こうであんなにニヤニヤしながら猛烈なサインを送っていたはずなのに 、いざ俺たちが約束を交わした途端、あいつは「はいはい、ごちそうさま」と言わんばかりの冷ややかな無表情で、すんっと自分のスマホの画面に視線を戻していた。
__まあ、太智はそうだろうな
一瞬でドライに切り替わる相棒のその落差に、俺は心の中で盛大にずっこけそうになりながらも、おかげで茹で上がりかけていた脳内が、いつもの日常のテンポへと心地よく引き戻された。
カバンの奥に仕舞い込んだ合鍵の重みを手のひらに感じながら、俺がふっと小さく息を吐き出した、まさにその時だった。
スタッフ「ミルクのみなさーん、撮影開始します!スタジオへ移動お願いします!」
楽屋の重い扉がガラッと開き、スタッフさんの威勢のいい声が室内に響き渡った。
勇「はーい!よろしくお願いします!」
隣のソファから、弾かれたように一番に声を張って立ち上がったのは、他でもない勇斗だった。
__切り替え早っ。
すでにその顔には、いつもの誰もを惹きつける非の打ち所がない『トップアイドル・佐野勇斗』の完璧なプロの笑顔が張り付けられている。
だけど、勇斗は楽屋を出るために俺の横を通り過ぎるその一瞬、他のメンバーには聞こえないくらいの低く、熱い声を、そっと俺の耳元へと残していった。
「……じゃあ、後でね」
胸の奥の心臓が再びドクンと跳ね上がるのを覚えながら、俺はカバンの奥にある合鍵の重みをもう一度そっと確かめた。
コメント
3件
ほんと好きすぎます!!🤍❤️付き合ったのをさりげなく言う感じ神すぎますね😇 🤍❤️大好きなのでこの作品にたどり着けてほんと良かったです😭🫶🏻
いやー、9話もめっちゃ良かった!ついに舜太と柔太朗付き合ったのか!昨日あんなに悩んでたのがウソみたいだな。そして仁人と勇斗の進展もヤバい…「俺ん家で待っとく?」ってさらっと言う勇斗カッコよすぎるし、鍵渡されて顔真っ赤にしてる仁人も可愛すぎて悶えたわ笑 太智の「はいはいごちそうさま」な塩対応も、長年の相棒ならではって感じで好き。次の話が待ちきれん🔥