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四日間。
秘術を放ったオリバーが目覚めるにそれほどの期間を要した。
その間に、カルスーン王国とマジル王国の戦争は終戦を迎える。
マジル王国が投降し、結果カルスーン王国の勝利で終わった。
オリバーが秘術を放ってから、わずか二日後の出来事だった。
☆
「オリバーさま、体調はいかがですか?」
目覚めたオリバーは、急激に痩せたことにより身体の感覚をつかむのに苦労していた。
失った魔力はある程度、体内に吸収できたものの、本調子ではないようで、時折、めまいと頭痛がするらしい。
目覚めたあとも、オリバーの体調が回復するまで、私たちは基地の救護室にいた。
兵士たちは終戦を迎え、基地の解体が始まり、撤退するものもいたが、救護室だけはオリバーが回復するまで撤去を待ってくれた。
「支えがあれば、歩けそうだ」
「ああ、よかったです」
オリバーが杖をついて歩けるようになるまで一週間を要した。
歩けるようになると、オリバーはまず、残っている兵士たちに激励の言葉をかけていった。
いままで、祖国のために戦ってくれてありがとうと一人一人に気持ちを伝える。
兵士たちは伯爵貴族らしからぬオリバーの行動に困惑しつつも、戦争を勝利に導いてくれたソルテラ伯爵を讃えていた。
挨拶回りを終えると、オリバーは私の元へ戻ってきた。
そして、私にニコリと微笑む。
「さあて、歩けるようになったから、あとは屋敷でゆっくりと療養しようかな」
「はい。では――」
「エレノア、屋敷に帰ろう」
ああ、私が待ち望んでいた言葉。
私が十回【時戻り】をして成しえた偉業。
オリバーが生きてソルテラ伯爵邸に帰還する。
「はい!!」
私は感極まり、目元に涙を流しつつ、オリバーの提案を受け入れた。
そして、私とオリバーはあの馬車に乗り、四日かけて屋敷へ帰ったのだった。
☆
「着いたね」
「はい。約三週間ぶりですね」
「その間に、国王はマジル王国と話をつけたみたいだ」
四日馬車に揺られ、私とオリバーはソルテラ伯爵邸に帰ってきた。
出立してから約三週間ぶりの帰還である。
その間、オリバーは宿泊先から貰った情報誌を読み、戦後の状況を把握していた。
勝利したカルスーン王国の首都ではお祭り騒ぎになっており、兵役で戦地にいた男たちも故郷へ帰り始めているらしい。
勝利をもたらしたオリバーの秘術は”奇跡の光”と呼ばれ、三百年前の再来だと大きく報じている。国王も、オリバーに勲章を授与し、爵位を上げることを検討しているとも書かれていた。
「このお屋敷も伯爵邸ではなく”侯爵”邸になりそうですね」
「エレノア、あの情報誌に書かれていることを素直に信じてはいけないよ。大げさに書いてるときもあるんだから」
私たちは雑談をしつつ、屋敷の中へ入った。
三週間、主人が不在の屋敷。
その広間では見覚えのある光景が広がっていた。
「義母上、一体何をなさっているんですか?」
仮の家主である、スティナがメイドと使用人を広前に集めていたのだ。
スティナの隣にはブルーノもいる。
きっと、私が【時戻り】で何度も見てきた「オリバーは死んだ!」という演説を始めようとしていたのだろう。
「え、お前……、オリバーなの?」
「はい。三週間の間に痩せてしまいましたが、僕はソルテラ伯爵家の当主、オリバーです」
「あのおデブちゃんが、三週間の間にここまで痩せるわけないでしょ!? お前は偽物よ!!」
皆の視線が私とオリバーに集中する。
スティナはやせ細ったオリバーを目にするなり、彼を偽物だと決めつけた。
確かにあの体型からたった三週間で、体型が変わるほど痩せるのは難しい。
「オリバーは死んだの! だからこの屋敷の当主はブルーノちゃんなの!!」
「へえ、そうなのかい? ブルーノ」
「……」
スティナは甲高い声で、目の前にいるオリバーの存在を否定する。
そして、次期当主は息子のブルーノなのだと叫んだ。
オリバーは義母に拒絶されても落ち着いていた。そして、”次期当主”と呼ばれたブルーノに話しかける。
ブルーノは言葉を発することもなく、ずっとオリバーの姿をぽかんとした顔で見ていた。
「その姿は……、三年前の兄さんそのままだ」
ブルーノは踊り階段を降り、メイドと使用人を掻き分け、オリバーを抱きしめた。
「兄さん、兄さん!!」
「ブルーノ、ただいま。今まで心配かけてごめんね」
「昔の兄さんに戻ってくれて、嬉しいよ……」
オリバーはブルーノの背中をさすり、彼に優しい言葉をかける。
私は兄弟の抱擁をただ見つめていた。
ブルーノは過度な食事を繰り返し、激太りしたオリバーを許せなかっただけで、それが元に戻ればただの尊敬する兄なのだ。
「ブルーノちゃん! あなた、何をしているの!? オリバーから離れなさい!」
「嫌です」
「嫌じゃないの! あなたは私の可愛い子。そのソルテラ伯爵家の落ちこぼれから、当主の座を奪うのよ!!」
「どうして、俺は兄さんから当主の座を奪わないといけないのですか?」
ブルーノはオリバーにしがみついたまま、後ろで文句を言っているスティナの要求を拒否した。
スティナはブルーノの反抗的な態度に腹が立ち、怒りに任せてとんでもないことを彼に告げる。
「あなたは、私と愛しいグエルの子だからよ!! 私たちの子供の方がこの落ちこぼれよりもソルテラ伯爵家の当主にふさわしい!」
「……母上? その、グエルという男は……、誰のことですか?」
思いもよらないところで、ブルーノは真実を知ることになる。
スティナの発言に、ブルーノは震える声で自身の母親に訊ねる。
「俺はローベルト・アレ・ソルテラの子供では……、ないのですか?」
「ブルーノちゃん! あの、今のは――」
「スティナ義母さん」
失言をしたと気づいたスティナは、慌てた様子でブルーノに弁明する。
しかし、それをオリバーが遮った。
「僕に対しての失言はいくらでもしてもらっても構わない。未亡人であるあなたの浪費を今まで黙認してきましたが……、弟の出生についての暴露は許しがたい発言です」
オリバーは珍しく怒っていた。
散々スティナに罵られていても、笑顔で返していたあのオリバーが眉を吊り上げて、スティナを睨みつけていた。
「ソルテラ伯爵家当主として、義母スティナをこの屋敷から追放処分とします」
オリバーは、スティナに厳しい処分を言い渡した。