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オリバーの厳しい処遇に、スティナはわなわなと震えていたものの、すぐに強気な態度に戻った。


「オリバー! 赤子のあなたをここまで育てたのは誰だと思っているの!?」

「スティナ義母さまです」

「育ての親にこんな仕打ちをするなんて! 親不孝者!!」

「……産後亡くなった母上の代わりに、僕を立派な大人に育てたのはあなたです。それには感謝しております」


スティナが強気に出られたのも、オリバーが彼女の暴言を受けても耐えていたのは幼少期の恩、ソルテラ伯爵家としての体裁を最低限保っていてくれたからだろう。

先輩たちの話によると、オリバーの母親は産後すぐに亡くなってしまったそうだ。


乳児のオリバーを育てる母親が必要だと、前ソルテラ伯爵はスティナと再婚した。

彼女にはオリバーの世話をまかせ、他は何も求めなかったという。


スティナは言いつけ通り、乳児のオリバーの世話をした。今の関係では考えられない話だ。


「なら――」

「ですが、ブルーノの存在は父上も死の直前まで悩んでおられました」

「ブルーノちゃんは」

「僕はブルーノを義弟として魔法の道を共に極めてきたつもりです。ですが、父はブルーノを最後まで息子だと認めませんでした」


スティナは、愛情には発展しなかったものの、前ソルテラ伯爵と良い関係を築いていた。

ブルーノを妊娠し、出産するまでは。


前ソルテラ伯爵はスティナが愛人と疑似恋愛をしていることは許していたらしいが、ブルーノの存在については良くないものととらえていた。

そのため、前ソルテラ伯爵はオリバーには優しくし、ブルーノにはきつい教育を施していたという。

オリバーの発言を聞き、ブルーノはうつむき、落ち込んでいた。

親だと思っていた人物から、裏で息子ではない、と言われていた事実を知ってしまったからだ。


「遺言では『ブルーノが十八歳、成人となったら他の伯爵家の婿養子とすること』と。ブルーノがこの家を継ぐことは……、ないのです」

「それは、無効よ!! あんたは偽物だもの。オリバーは死んだのよ!!」

「僕は死んでいません。当主オリバー・ソレ・ソルテラは戦争を終わらせ、屋敷に帰ってきました」


オリバーは父親の遺言をスティナに告げた。

それは間接的にブルーノにも伝わる。

事実をスティナに暴露された今、隠す必要がなくなったと判断してのことだろう。


スティナはそれでもオリバーを非難し、存在を否定する。


「スティナ義母さま、父はあなたにとても感謝していました」

「ふんっ、あの不細工が何を――」

「愛人とブルーノという存在は目に余るが、ソルテラ伯爵夫人として十分に勤めてくれたと」

「……」

「あなたが選ぶ服や宝飾品を身に着けると、皆が自分の姿を褒めてくれるととても喜んでいました。流行りものかつ、自分の年齢に見合ったデザインで、同年代の紳士が欲しがったと。それが誇らしかったと」

「そう……」


愛情は芽生えなかったものの、前ソルテラ伯爵はスティナに感謝していたらしい。

彼女は浪費するものの、商品を選ぶセンスには優れていた。

衣服、装飾品、屋敷の調度品すべてがスティナが買い付け、設置したものだ。

それらはどれも品が良く、貴族の屋敷としてふさわしい内装に仕上がっている。

時折、流行りものを飾り、飽きさせないところも夫人として大いに活躍したのだろう。


オリバーの話を聞き、スティナがまんざらではない表情を浮かべる。


「ですので、スティナ義母さまには僕が所有している別荘の一つを差し上げます。月の仕送りもいたします。いままでのような贅沢は出来ませんが、元伯爵夫人としての振る舞いはできるかと」

「あんたの施しなんて――」

「それも父上の”遺言”です。『スティナには不自由をさせるな』と仰っておりました」

「え……」


オリバーがスティナの浪費について文句一つ言わなかったのは、その遺言を守っていたから。

追放と言い渡しても、守り通すつもりらしい。


「海が見えるところにしますか? それとも年中涼しい気候の場所にしますか?」

「……海の別荘がいいわ」

「では、そこで暮らしてください。掃除も行き届いていますので、すぐに住めると思います」


複数ある別荘のうち、どれにするかとスティナに訊ねると、彼女はぼそっと要望を応えた。

オリバーはにこりと微笑み、遠まわしに『速く屋敷から出て行け』とスティナに告げる。


「メリル、スティナ義母さまの荷物はいつまでにまとめられる?」


行き先が決まり、オリバーはメイド長に新たな仕事を与える。

メイド長は少し考え、近くにいるメイドの表情をうかがった後、オリバーに答えた。


「明日までには。最低限の荷造りと目的地までの段取りを済ませることができるかと」

「じゃあ、それで」

「かしこまりま――」

「君の仕事はそれで最後。次はスティナ義母さんの専属メイドとして向こうで働いて欲しい」

「……はい?」


オリバーはさらっとメイド長を解雇し、スティナの専属メイドとして別荘で働くことを命じた。

メイド長は頭を下げたものの、オリバーの命令に耳を疑い、聞き返す。


「メリル、君はメイド長としてエレノアを含む、メイドたちをまとめ上げてくれた」

「でしたら、何故解雇を――」

「だけど、庭の小屋に度々忍び込んでいたよね」

「っ!?」

「あと、地下室にある資料の情報を外部に流してるでしょ? マジル王国とかにね」

「……」


それは私も初耳だ。

だが、メリルはマジル王国のスパイ。

ソルテラ伯爵家の魔道研究所や資料室からマジル王国に有益な情報を吸い上げ、流していたとしてもおかしくはない。

その二点だけでメリルをソルテラ伯爵家のメイドとして解雇する理由は十分だ。


「君は僕の信用を裏切った。この屋敷にいてはいけない存在だ」

「……いままでお世話になりました」

「明日中に荷物をまとめなさい」

「かしこまりました」


スティナのように食い下がると思いきや、メリルはあっさりと解雇を受け入れた。

これで、屋敷内からマジル王国のスパイが追い出されたことになる。

家出中の私には嬉しい出来事だ。


「さて、話もまとまったね! メイドたちはスティナ義母さんの荷造りをして」

「かしこまりました!」


大まかな話を終えたオリバーは、手をパンと打ち、各々に命令をする。

メイドたちは、元気よく返事をし作業へ移った。


「執事と家令には屋敷の収支を聞きたいんだけど……、僕、立ってるのがやっとでさ」

「兄さん、そうだったのか!?」

「ブルーノの支えがなくなったから、今にも倒れそう……」

「なら、報告は客間でやろう。横になっていれば聞けるよな?」

「うん。そうする……」


先ほどまで毅然とした態度で、スティナとメリルに対応していたオリバーだったが、話を終えると脱力し、その場にへたりこんでしまう。

ブルーノは兄を立ち上がらせ、自分を支えにして客間へとゆっくりと歩いてゆく。


(ソルテラ伯爵家の日常がこれから戻ってゆくんだろうな)


私はその光景を噛みしめていた。

オリバーが戦死する運命から外れた世界。

これからそれが見られるのだと思うと、感極まって涙が出てきそうだ。


「エレノア!」

「は、はい!!」

「夜になったら、僕の部屋にきてくれるかな?」

「かしこまりました」


別れ際、オリバーは私に約束を取り付ける。

私はオリバーに頭を下げ、それを承諾した。


その夜、私は約束通りオリバーの私室の前に立っている。

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