この前の音成、妃馬さん、匠、僕の4人で帰ったときも新鮮だったが、この5人もまた新鮮だった。
「音成さんとはガッツリ話すのは初めましてか」
「ですよ。ビックリした。おーとなしさーんて呼ばれて、あれ?幼馴染かな?って思いましたよ」
「たしかにね。ごめんごめん」
笑う鹿島。微笑む音成。
「これでフィンちゃんいたらすごいのにね」
「たしかに」
「スゴいって?」
「いや、あれでしょ?グループLIMEのほとんど揃ってる的なやつでしょ」
「それ!さすが暑ノ井くん」
「鹿島も森本さんいたほうがいいだろうし」
小声で鹿島だけに聞こえるように言う。
「うるさいよ」
鹿島も小声で言う。
「森本さんもレアキャラだよねぇ〜」
「負けじとレアキャラの匠が言っとる」
「いや、最近は顔出してるし」
「音成がいるからだろ…」
小声ではなく普通の話し声のボリュームでつい言ってしまった。
少し申し訳なく、匠のほうをゆっくり見る。匠はなにも気にしていない顔をして
「うん。まあそれもあるけど、単純に怜夢とか京弥もいるかもしれないから」
と言ってのけた。さらっと「それもあるけど」と言う辺り、無自覚イケメンなのだと思い知る。
こう言われた音成はどんな反応なのかと、音成を見ると妃馬さんとイチャイチャしていた。
「きゃー!匠ちゃん好き!」
「ん。ありがとありがと」
「おぉ。匠も鹿島の変な発言を流せるとこまできたか」
「そうだね」
「おい。誰の発言が変だって?」
「ゲームで言ったらどんな感じかな?」
「んん〜まあ基本スキルじゃない?チュートリアルが終わったとこくらい」
「うわぁ〜。まだまだじゃん」
「おい。なんでオレの変な発言を流せるスキルがチュートリアルやねん」
「鹿島と仲良くなるのには必須スキルだろ」
「んなことないだろ」
「いいか音成。鹿島と仲良くなると意味不明の絡み増えるから流すスキルは基本だからな。覚えておけよ」
「りょーかい」
「りょーかいしてる」
「いいもーん。妃馬さんにかまってもらうから」
「おい。優しい妃馬さんに迷惑かけんな」
そんなバカなやり取りをしながら、楽しく5人で歩いていると駅につく。
5人で改札を抜け、ホームで電車を待つ。
「鹿島くんそっちなんだね」
「そうなのよぉ〜。匠ちゃん家住んで、みんなと同じ方向に帰れるようにしよーかなー」
「あぁ〜…」
「音成まだまだだな。鹿島の宇宙語は流さないと」
「誰の発言が宇宙語だよ」
「おでこテレパシーしないと」
「匠もなに言ってんの?」
5人で笑う。アナウンスが流れ、僕たちの乗る電車がホームに入ってくる。
「急に4人いなくなんの寂しいんだけどー」
「たしかにな」
「京弥ポジだったら寂しいな」
「マジで小野田さん家に住むって言いそう」
「マジ勘弁してほしい」
「ちょっとーお2人さーん?聞こえてますよー?」
「んじゃ、鹿島またな」
「またねぇ〜」
「お先です」
「宇宙人ばいばーい」
「みんなまたねぇ〜。音成さ〜ん、オレ宇宙人ちゃうでぇ〜」
鹿島以外の4人で電車に乗り込む。電車内から鹿島に手を振る。
扉が閉まり、寂しそうな顔でこちらに手を振る鹿島がどんどん遠ざかる。
「めっちゃ寂しそうやん」
「あれ冗談ぽくて半分マジだと思う」
「わかる」
「私も鹿島さんの立場なら、リアルに小野田さん家に週2、3で通うこと検討するかもです」
「今検討してるかもですね」
「オレの家族と会ったこともないのに」
「気まずそうだな」
その後も鹿島について話しているとすぐに大吉祥寺駅につく。4人で降りる。
そして井の蛙線への改札に行こうとしたとき
左腕の二の腕辺りの服がツンツンと引っ張られるような感覚がある。
振り向くと妃馬さんが僕の服を引っ張っていた。「ん?」と思うのと同時にドキッっとした。
「じゃ、私と怜夢さんはちょっと用事があるので」
と音成と匠に向かって言う。
「あ、そうなの?」
「なんか買うん?」
匠が僕に聞く。僕は妃馬さんにはきっとなにか考えがあるんだろうと思い
「あ、うん。まあ買うかはわからんけど、とりあえず見たいもがあって」
と言った。
「へぇ〜。じゃ、ここで?」
「そーゆーことだね。じゃサキちゃん、暑ノ井くんまたね」
「じゃ、怜夢またな。妃馬さんもまた大学で」
「ん。またね2人とも」
「うん、またね〜。はい。また大学で。あ、怜夢さんお借りしますね」
「あ、どうぞどうぞ。使いに使ってください」
「お前オレの所有者か」
4人で笑って、改札前の階段下の広場で音成と匠と別れる。
「妃馬さんどうゆーことですか?」
ワック(ワクデイジーの略称)のある方向に歩く妃馬さんに問いかける。
「いや、こないだ4人で帰ったときにLIMEでお邪魔だったかもですねぇ〜って話したじゃないですか」
「はいはい!なるほどね。それで?」
「それでです」
「そんな気にせんでいいのに」
「いや、そんな気にしてる訳ではないんですけど、3回に1回くらいは2人で帰ったほうがいいのかなって」
「気にしてないとか言いながらめっちゃ気にしてる」
つい笑ってしまう。
「そっか。気にしてるか」
「気にかけてるってほうが正しいかもですね」
「まあ、親友として恋ちゃんには幸せになってほしいんで」
「そうなると僕も親友として匠には幸せになってほしいしなぁ〜」
「じゃあ決まりですね」
妃馬さんがクルッっと振り返る。
「3回に1回くらいで帰り、私とどこか行きましょうね」
そう言う妃馬さんの笑顔は無邪気なものだった。その笑顔と言葉の可愛さに心臓が跳ね
妃馬さんにフォーカスが合い、妃馬さん以外がボヤけているように感じた。
ライトもいつもより煌々としているように感じ、雑踏もどこか小さく聞こえた。そんな気がした。
「はい。よろこんで」
頭のどこを探しても「はい」以外の選択肢が見つからなかった。
その後ワック(ワクデイジーの略称)のある通りに行き、買いもしないのに靴を見たりした。
音成と匠を先に2人だけで帰らせるというためだったので、すぐに駅に戻ってホームに入った。電車を待つ。
「厚底とか買うんですね」
「身長低いんで」
「でも厚底って歩きにくくないんですか?」
「まあ歩きやすくはないですよ」
「あ、やっぱそうなんですね」
「でもほら、オシャレですから」
「ん〜。それ言われるとなんも言えんのよなぁ〜」
アナウンスが流れ、ホームに電車が入ってくる。電車内から乗客がそこそこ多く降りてくる。
降り切るのを待ってから妃馬さんと僕で電車に乗る。
大吉祥寺ということもあり、乗る人もそこそこ多く、シートはもちろん扉サイドも埋まった。
仕方なく、シートの前に立つことにした。いつも通り吊り革のプラスチックの輪の部分ではなく
鉄のパイプとそのプラスチックの輪を繋ぐ「吊り革」部分に掴まる。
「怜夢さんはモンターニュのスニーカー好きですよね」
妃馬さんが視線を落とし、僕の靴を見る。
「あぁ、そうですね。安いしデザイン良いし」
僕も自分の靴を見る。
「たしかに可愛い」
今日履いていたのは白ベースに墨汁のついた筆でシャッってしたような柄のものだった。
「可愛い…かな?まあでも気に入ってます」
「可愛いっていうかカッコいいかな?」
「独特なデザインですよね」
「そうですね」
と言いながら自分の靴を足の角度を変えてまじまじと見る。
「私のは〜割とシンプルか」
妃馬さんも自分の足の角度を変えながらまじまじと見ていた。
「ですね。でもオシャレ」
「ありがとうございます」
嬉しそうな顔をする妃馬さん。
すると妃馬さんが左足を僕の右足にピタッっとくっつける。ドキッっとする。
「怜夢さん足大きいですね」
「そうですか?27か8ですよ」
僕の靴下、そして靴、妃馬さんの靴、そして靴下を介しているいるので
温かさを感じるはずもないはずなのに、どこか温かさを感じる気がした。
それを意識すると心臓がどんどんうるさくなっていく。
「わー!大きいですよ」
「結構平均的だと思いますよ」
「そうなんですか?」
「妃馬さんは?」
「私も平均的ですよ。23か4です」
「そうなんですね。23、4が平均なんだ」
「たぶん?姫冬も同じくらいだし、フィンちゃんも同じくらい。恋ちゃんはちょっと小さいかな」
「あぁ〜音成だけ小さいのなんかそれっぽい」
「そうですか?」
妃馬さんの足が僕の足から離れる。なんとなく少し寂しい感覚になる。
「音成身長低いし」
「あぁ、まあたしかに言われてみれば」
身長のことを思い出す。
「あ、そういえば森本さん、もっと身長あるイメージだったんですけど、案外なんですね」
「あ、そうですね。私よりちょい大きいくらい」
「ハーフってので勝手に身長あるって思ってました」
「たしかに。私もハーフって聞いたら、身長高いイメージ持っちゃう」
「森本さんて、どちらがドイツの方なんですか?」
「あ、お父さんですね。お父さんがドイツの方でお母さんは日本人です」
「お父さんが。はえぇ〜。妃馬さんはお会いしたことあるんですか?」
「はい。ありますよ〜」
「日本語は話せるーんですか?」
「んん〜。日常会話は支障ないって感じですかね」
「えぇスゴ。お母さんはドイツ語話せるんですか?」
「お母さんはペラペラですよ。頑張って覚えたらしいです」
「じゃあ日常会話は基本的にドイツ語?」
「私がいたときは日本語でしたね。たまにドイツ語でしたけど」
「想像つかない」
「今はどうなのかな」
「今?」
「今フィンちゃんのご両親ドイツに行ってるんですよ」
「2人とも?」
「はい」
「あ、へぇ〜。あ、そうなんですか」
「だから最近は私も会えてないんですよ」
「へぇ〜。お父さんどうでした?イケメンでした?」
「まあカッコよかったですよ。海外の人は基本スペックが違いますから」
「まあ、たしかにそうですね」
「髭がすごいダンディーな感じでした」
「あぁ〜イメージできるな」
そんな話をしていたら、すぐに自分の家の最寄り駅を過ぎ、妃馬さんの最寄り駅について2人で降りる。
「もうめちゃくちゃ慣れたな」
見慣れた景色を見て、見慣れた道を歩く。
「何度目かわからないくらいですもんね」
「ですねぇ〜。「あ、あの家車変えた」とかもわかるかも」
「それは私でも気づかないですよ」
妃馬さんが笑う。
「マジですか?妃馬さんいろんなとこ見てそうなのに」
「まあ、怜夢さんより遥かに見慣れてるので
たまに見ると、あ、変わったって思うかもですけど、最近はもうなんも気にせず通り過ぎてます」
「あぁ〜でも僕もそうかもなぁ〜。
バァーって一応見てるけど、そんな気にかけてないもんなぁ〜」
「ですです。車〜変わったらわかるかな」
「自分で言っといてなんですけど、僕も僕の家周辺の車変わってもわかんないかも」
「ほんと自分で言っといてですね」
「すいません。よく考えたらでした」
そう笑いながら2人で歩く。
「そういえば決めてなかったですけど、土日どっちがいいとかあります?」
「あぁ、いや特にないです。妃馬さんの都合の良いほうでいいですよ」
「私もどっちも空いてるんだよなぁ〜」
「じゃあ、僕が土曜日、妃馬さんが日曜日ってことで」
「へ?」
「じゃんけん。いきますよー?」
「え?あ、はい」
「「じゃんけん」」
「「ぽん!」」
僕はグーを出した。妃馬さんもグーだった。
「あー」
「「いこーで」」
「「しょっ!」」
僕はまたグーを出した。妃馬さんもまたグーだった。なぜだか、口元がニヤける。
「もっかい。あー」
「「いこーで」」
「「しょっ!」」
今度は僕はチョキを出した。妃馬さんもチョキだった。ニヤけが加速する。
「決まんねぇ〜」
つい笑ってしまう。
「じゃ、次私グー出しますよ」
妃馬さんが仕掛けてきた。
「ほー?なるほど?じゃあ僕がパーを出せば勝てると」
「そうですね?」
「じゃ、いきますよ?」
「じゃーんけーん」
「あーいこーで」
「ん?あーいこ」
「あ、じゃーんけーん」
出す手は同じなのに、そこでバラける。
「じゃんけんでいきましょ」
「オッケーです」
「せーの」
「「じゃーんけーん」」
「「ぽんっ!」」
僕はグーを出した。妃馬さんはパーを出していた。
「やったー!勝ったー!」
無邪気に喜ぶ妃馬さん。単純に可愛いと思った。
「負けた…」
「じゃ、えぇ〜と私どっちでしたっけ」
「あれ?あ、ちょっと待って」
妃馬さんも僕もじゃんけんを楽しみ過ぎて、肝心な部分を忘れていた。
「えぇ〜。あ、妃馬さんが日曜です」
「じゃ、日曜ですね」
いつもの角を曲がる。根津家の入っているマンションのエントランスが見える。
「日曜。オッケーです」
「どこ行きましょうか」
「雑貨屋さん。繁華街であれば探せばありそうですよね」
「スマホケース。可愛いのがいいですよね」
「ですね〜」
「そこは軽く検索しておきます」
「お願いします」
会話が一段落し、ちょっとした間がある。
「匠と音成なに話してんだろーなー」
僕から新しい話の種を蒔く。
「なんでしょーね。ロナンの話とか?」
「あぁ〜。ありえますね。それか他のアニメの話とか」
「あるある。小野田さんよりは見てないって言ってましたけど」
「それはそうだと思います。匠くらい見てたらスゴい」
「そんな?」
「毎シーズン新アニメの第1話は必ず見るって言ってました」
「え、スゴ」
「んで、まあ、あいつも描いてるからそこから絞って、描く時間も計算に入れて見るアニメ決めてるそうです」
「めっちゃオタクですね」
「ですよね?でもあいつは「オレなんてまだヲタクを名乗れないよー」って言うんですよ」
「向上心?の塊ですね」
「ね」
そんな話をしているとエントランス前につく。
「じゃ、日曜日」
「はい。楽しみにしてます」
妃馬さんの「楽しみにしてます」という言葉とその表情に心臓が跳ねる。
「はい。いいの買いましょうね」
「あればですけどね」
「あることを祈ります」
「ですね」
「じゃ、また日曜に」
「はい。またLIMEします」
「はい。じゃ、また」
「はい。また」
踵を返して駅までの道を歩き出す。
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