熱と頭痛と日常と

渡辺もいつもいつも熱を出したり、頭痛がするわけではない。概ね、毎日は、平和だ。

ただ、低気圧だったり、湿度だったり、人間がどうにも出来ないことで、熱が出たり、頭痛がする。

ちょっとくらいなら、我慢出来る。ただ、岩本が過保護で、病院に連れて行くのだ。

今日は、熱もないし、頭痛もないし、快適な日を過ごしている。だが、こういうときに、落とし穴があるのだ。

階段を踏み外して、爪が剥がれた。出血もしている。

飯島先生に電話した。

診てあげるからいらっしゃい。と言われた。

付き添いは、目黒。岩本はダンスの練習を見なくちゃいけない。

渡辺ーひかる・・。

目黒ー仕方ないでしょ。

渡辺ーん、目黒も迷惑かけてごめん。

目黒ーいいんだけど、何か分かんないけど嫌な予感がする。

渡辺ー大森さん、電話したけど、出なかった。

目黒ー今日は休みなんじゃない？

渡辺ーあの、高桑さんだったら、大変かも。

目黒ーあぁ、めめなべ担ね。

渡辺ー軽く言うな。

目黒ー無視するから。

案の定、大森さんは非番。

先生に処置してもらって会計に行く途中、出会ってしまった。高桑さんに。

高桑ーどうされましたぁ？

渡辺ー足の爪を剥がしてしまって。

高桑ーふふふ、ラッキーだわ。

目黒ー人の痛みが分からない人が、よく看護師やってますね。

高桑ーあらぁ、こわ〜い。

渡辺ー行こう。

高桑ーちょっとくらい、時間ないですかぁ？

渡辺ーあっても、あなたと話すことないし。

目黒ー車、回してくるよ。

高桑ーあっ、めめ！

渡辺ー仕事あるでしょう？

高桑ー今は休憩中でぇす。

渡辺ー俺たち、忙しいんで、失礼します。

高桑ーあっ・・。

杖をつきながら、ひょこひょこ歩く。

目黒が、車から降りて来て、背負って出て行った。

渡辺ー嫌な予感、当たってたな。

目黒ー仕事は？

渡辺ー休憩中だと。

目黒ーあの、話し方無理。

渡辺ーだな。

スタジオに戻って、目黒が岩本に説明している。

爪を剥がしてしまったので、治るまでしばらくかかる。

痛み止めはもらったが、熱が出るかもしれない。

深澤ーナベ、しばらく見学な。

渡辺ーは〜い。

深澤ー照、仕方ないけど、見学だな。

岩本ーあぁ。

岩本がチラッと渡辺を見た。

渡辺は、何も反応しなかった。

岩本の、「片想い」という設定だから、知らん顔をする。

岩本の家。

渡辺ーひかる・・痛い・・。

岩本ーそりゃ、爪が剥がれたんだから、痛いだろうさ。

渡辺ーんっんっ〜んっんっ。

岩本ー泣いても、すぐに爪は出て来ないし、痛みもすぐには引かない。

渡辺ーひかる・・冷たい。

岩本ー大森さん、休みだったんだって？

渡辺ー高桑さんに捕まった。

岩本ーめめなべ担には、堪らんだろう。

渡辺ー知らない。

シーツを被って拗ねてしまった。岩本が、横に座り、優しく身体を撫でる。

爪を半分剥がしたと聞いた。

治るまで、どれだけかかるだろう。

岩本ー翔太、治るまでどれくらい？

渡辺ー知らない！

岩本ー拗ねるな。

渡辺ー痛いし、熱あるし！

岩本ーはぁ？測ってみろ。

渡辺ー今日は、大森さん、休みだから、病院行かないし！

岩本ー何で？

渡辺ー高桑さん無理！

岩本ー38.2度。大人しくするな？

渡辺ー足がズキズキする。

岩本ー薬は？

渡辺ーバッグの中。

岩本ーちゃんと飲め。

シーツから手だけ出してくる。

水なしで飲む気か？

岩本が口移しで、水を飲ます。

しばらくすると、眠ってしまった。

続く