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「薄情な奴だな、お前。しかも嘘つきだし。あーあ、芝田さえ居ればこんなことには……」
そう言ってはちらちらと私の方を向いてくるのが何とも鬱陶しい。
「信じらんねぇよ、いい奴だと思ってたのに……裏切られたぜ」
まるで私が全面的に悪いかのように責める彼。
(え? これって、私が悪いの? ううん、悪くない……はずよね?)
こんなことに首を突っ込んだら苦労するのは目に見える。
しかも相手はあの有名なナオだ。
もしバレたら日本中……下手すると世界にまで私とナオが繋がっていることが知れ渡ってしまう。
頭では理解していても、約束もしたし、話を聞いてしまった以上、私に断るという選択肢はなかったようだ。
「ああもう、分かりました! 約束なのでとりあえず少しの間だけ、ここに居ても構いません!」
何だかすごく腑に落ちないが、これ以上ごちゃごちゃ文句を言われるのが面倒だった私は仕方なく、暫くの間、彼を住まわせることを決めた。
「マジか! やっぱりお前、いい奴だな」
ついさっきまで散々人の事を貶していたくせに、全くもって調子のいい奴だ。
(あーあ、私の馬鹿……何でこんなことに……)
とは言え、彼についてまだまだ知らないことが多過ぎる。
数日間にしろ共に過ごす以上、もう少し知っておかなければならない。
「ねぇ、あなたが久遠のボーカルのナオってことは分かったけど、こんな大騒ぎになるって分かってて、どうして行方をくらませるなんことしたの?」
「……それは……まぁ、色々あるんだよ」
「色々って?」
「色々は色々」
どうやら理由は言いたくないらしい。何度聞いても、頑なに拒まれてしまう。
まぁ、芸能人には一般人に分からない事情もあるだろうし、それについては仕方ないのかもしれない。
「――なぁ、それより腹減ったから何か作ってくれよ。朝から何も食ってないんだよ、流石に空腹で死にそう」
「はぁ?」
この人は、どれ程の図太い神経の持ち主なのだろうか。
「頼むよ。そーだなぁ、俺、オムライスが食いたい」
しかも、作ると言ってもいないのにリクエストまでしてくる始末。
遠慮って言葉が全くと言っていい程ない上に余りにも自分勝手過ぎる。
「な、いいだろ?」
(あ、ありえない……)
と思いながらも、子供のように無邪気な顔を見せられると何だか断りにくい。
まぁ料理は嫌いじゃないし、私もお腹が空いていたし、作ろうじゃないの。
「分かった、作るよ。その代わり、理由は良いとして、他のことはもう少しきちんと話、聞かせてよね」
事務所やメンバーに内緒にしてまでバンドから離れたい理由なんて余程のことだと思う。
言いたくないというなら無理に聞くのはよそう。芸能人ゆえの複雑な事情があるのだろうから。
だけど、他のことについて話せる限りは話して貰わないとこっちも困る。
「……まぁ、答えられる範囲内なら」
渋々と言った感じではあるけど、どうやら彼はもう少し自分のことを詳しく話をしてくれる気になったようだ。
「あ、そうだ、俺のことは『尚』って呼べよ。さん付けとかいらないから。後、敬語もいらねぇよ」
「うん、言われなくてもそのつもり」
芸能人で彼は年上だけど、何だかそんな感じがしないし、半ば無理矢理転がり込んで来た厚かましい人に気を遣うというのも何だか違う気がするから、彼に言われなくても『尚』と呼ぶつもりだった。
「……あっそ。俺もお前のことは『夏子』って呼ぶから」
「お好きにどうぞ」
とまぁこんな感じで、私と彼――尚の出逢いと、少し奇妙な関係はこうして始まりを告げたのだった。