「…あそこもだめだったか」
スマホのホーム画面に表示された、無機質な文字を見て、思わずため息を吐く。
『こっちもだめだった』
その文面を真似るように、俺も文字を打つ。
すぽっと、聞き心地の良い音と共に文字がグループLINEに送られる。
『こっちもだめでした』
はぁ、と何度目かのため息をつき、上空を仰ぎ見る。
もう太陽はすっかり沈み、星が真っ黒な空に浮かんでいた。
今何時だろうと、1度しまったスマホをもう一度開く。
ぼんやりとした光に目を細め、表示された〖23:14〗という数字に、胸がきりきりと内側から引っ掻かれた。
桜くんは、今頃どうしているのだろう。
もし、変な奴に暴行を受けていたら。
もし、ヤクザとか暴力団に売られていたら。
もし、もし、….変態に身体をぐちゃぐちゃにされていたら…..。
想像するだけで吐き気がしてくる。
桜くんを絶対に無事に助けるんだ。
…無事でいてくれ….。
『蘇芳。』
え?……この声は…..。
桜、くん…..?
『……..蘇芳。』
何で
『蘇芳。俺なら大丈夫だ。』
え…..?
『だから、もう、』
『さがさないでくれ』
え?桜……くん………?
どうして、そんな、こと……
『もう、飽きたんだ。』
『そもそも俺は、てっぺんを取るために風鈴に来た。』
『それなのに、街を守る?』
『そんなん、つまんねぇよ』
『だから、もっと俺に合う所に行きたいんだ。』
『じゃあな。』
『偽善者共。』
なんで。
桜くん。なんで?
どうして、そんなこと、
言うんだ……。
そんな、苦しそうな顔で。
『蘇芳。』
蘇芳。
_____
耳の奥を貫くような大声で呼ばれ、ぱちりと目を覚ます。
目の前には、柊さんや梅宮さんが、心配そうに俺の顔を覗いていた。
ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。
……ここは、公園…..?
どうやら、すっかり眠ってしまったようだ。
もう日は上りきり、青い空が俺たちを包んでいた。
「桜くんは……?」
一閃の希望にすがり、彼の名前を出すが、2人共、良い顔をしなかった。
「…..残念ながら….」
「………」
ギリィッと歯を食いしばる。
悔しくて悲しくて、どうしようもない。
桜くんを攫った奴らよりも、
弱い自分が、
1番憎い。
「それより蘇芳てめぇ、メシ食ってねぇだろ 」
「…え、あ….」
そういえば、昨日の昼から何も食べてない。
それに気づくと、途端に腹が減ってきた。
ぐぅー。
「っ!」
「ぷはっ」
突如鳴り出した腹の虫の音に、顔を赤くすると、柊さんと梅宮さんに笑われた。
恥ずかしさを誤魔化すように頬を膨らますと、梅宮さんが懐から何かを差し出してきた。
「ほれ 」
「…?あの….」
差し出された物を手の平に乗せる。
小柄な割にずっしりとしたそれは、手作り感のあるおにぎりだった。
「梅宮特製おにぎりだ!たんとお食べ!」
「え、いや、さすがに、………」
そんなものを用意してもらうなんて、申し訳なさすぎる。
そう思っておにぎりを返そうとすると、怖い顔をした柊さんに止められた。
「いいから食え。腹減って何もできなくなるよりマシだ」
「……」
正論すぎて、ぐぅの音もでない。
2人の顔を交互に見た後、俺は諦めたように、おにぎりのラップを剥がし始めた。
「………いただきます」
「おぅ!」
思ったよりでかいおにぎりに、豪快にかぶりつく。
「!」
あ、美味い。
もちもちした、熱々の白米に、その旨みを引き立てる、香ばしいパリパリ海苔。
おにぎりにかかった塩も、ちょうどいい味加減だ。
そのままもぐもぐと、我を忘れて食べていると…..。
「蘇芳」
と、真面目な雰囲気で梅宮さんが切り出した。
「?なんですか」
おにぎりをしっかり食べてから、答える。
すると、彼は
「学校に着いたら、桜のことをみんなに話そう。それで、今日は手分けして桜を探すんだ」
「……..」
うん、それが1番いいかもしれない。
もしかしたら、敵に動きを察せられてしまうかもしれないが、風鈴のみんなで探せば、きっと、敵に気づかれる前に見つけられるだろう。
「はい」
こくりと、重だるい頭で頷く。
それを見て、梅宮さんたちは、ほっとしたように笑った。
っと、その時。
ピロリン♪
スマホの通知音が、ポケットの中で鳴った。
どうせ相手は楡井くんだろうと思いつつ、スマホ画面を開く。
メッセージの相手はやはり楡井くんで、能天気な絵文字と共に文字が表示されていた。
『蘇芳さん!昨日から桜さんと連絡とれないんですけど、何か知ってます?そうそう、潮見さんが、隣町に良い店知ってるらしくて、また今度、皆さんで是非行きましょ!』
潮見くんが….?
彼、確かあんまりこの街から出たことないって言ってなかったっけ?
…..ちょっと探ってみるか。
『へぇ!なんて所?』
ポンっと、音が秒刻みに交わる。
『えーっと、確か、新しくできた店らしくて、名前は【シナール・ミシェル】でした』
…..聞いた事のない店だな。
すぐさま同じ名前を調べる。
っと…。
「っ!?新しい、どころか、最近できたばっかじゃないか!」
「おはようございます!蘇芳さん、珍しく遅かったですね!」
「あー、うん、まぁね」
「?あっ、それより、今朝のLINE、見てくれましたか?」
「うん。もちろん」
むしろ、それを確認しに来たようなもんだ。
「潮見くん」
「?何だ」
いつもみたいに、爽やかな笑顔を浮かべる、彼。
あぁ、ダメだな…。
「あのさ、これ、見てくれる?」
そう言って、1枚の紙をだす。
「!!」
彼の爽やかな笑みが消え、衝撃の色が浮かぶ。
いつもなら、どうしたんだろう?って思っただけだろうな。
本当に、ダメだ。
本当に__、
「これ、なんだと思う?」
______すっかり騙された。
「何ですか、この、変な模様」
そう。普通なら、この紙に描かれた紫の螺旋にそんな反応は、起こさない。
その証拠に、みんなが不思議そうに紙を覗いている。
____ただ一人を残して。
「潮見くん。」
はっと、彼が白くなった顔で、こちらを見た。
いつもの余裕そうな態度は、どこへ行ったのやら。
でも、風鈴だろうがクラスメイトだろうが。
_____桜くんに危害を加えたからには、許さいよ。
「君だよね?橘さんを攫って、桜くんを組織に差し出したのは」
みんなが、潮見くんに注目した。
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