「…….え」
潮見くんの表情が、固まる。
思考が停止したかのようにみんなの動きが止まり、俺たちに注目する。
数秒経ってようやく、楡井くんが、震える声を振り絞って聞いた。
「…..どういう、ことですか….」
「…..桜を、差し出した….?潮見が…?」
「だって、これを見せた時、潮見くんだけが反応してたじゃない」
ピクりと、潮見くんの体が反応する。
みんなもあっ…っという風に俯く。
しかし、そんな中でも、信じられない、というように楡井くんが抗議した。
「か、彼は、風鈴です!!…う、裏切るなんて、そんなこと……」
可哀想に。楡井くん。
人が好きで、仲間意識が強い楡井くんにとっては、辛い話だろう。
でもね。
君は、お人好しが過ぎるんだ。
…….彼は、潮見くんは、君の尊敬する、大好きな桜くんに危険を犯したんだ。
_____もっと、憎んでいい。
もっと、疑っていい。
それは、君にとっても、楽だろうから。
「うん、そうだね。潮見くんは、風鈴だ。……それが?どうかした?」
「っ!!」
楡井くんが、弾かれたように顔を上げる。
その顔には、怒りが滲んでいた。
「…..っして…..どうして、そんなこと言えるんですか!!」
楡井くんらしい、熱に任せた叫び。
それを見て、また胸が少し痛み、だけど、俺が1番いいと思う答えを口にする。
「…..楡井くん。彼は確かに風鈴だ。….でもね、風鈴に入った理由は、なんだと思う?」
「……は…….?」
「みんなみたいに、本当に街を守りたくて入ったのかな」
ビクッと潮見くんの肩が再び震える。
その反応を見て、俺の調べは合っていたんだと、確信を持てた。
「ちょっと、彼について調べてみたんだ。….時間がなかったから、少ししか調べられなかったんだけどね」
「……調べた……?」
みんなが固唾を呑んで、俺が次に発する言葉を待った。
こくり、と頷き、すぅっと息を吸う。
「….彼、隣町から来たんだ。….そう、ちょうど、事件が多発している町から」
「え…….?」
「で、でも、それが、なんの…….!」
____「潮見くんは、今まで、この街以外あんまり行ったことないって、言ってたよね」
「っ!」
ハッとしたように息を呑んだ。
追い討ちをかけるように、俺はゆっくりと続ける。
「君がやたら隣町に詳しいのは、君の生まれがそこだからだったんだね。……じゃあなんであんな嘘ついたの?」
「…….」
「あともう1つ気になった事があって」
ずいっと完全にだんまりになった潮見くんに顔を寄せる。
俺は湧き上がる怒りを瞳に燃やしながら、笑った。
「君、いつもは静かなくせに、あの時だけやけに騒がしかったよね。しかもなんで君が、街と風鈴をまとめる梅宮さんよりも早く、そんな超重要な情報、知ってたの?」
「…………..」
ぐっ、と下を向き、黙秘を続ける潮見くん。
その様子を見て、埒が明ないと思ったのか、珍しく、楡井くんが潮見くんの胸ぐらを掴んだ。
「黙ってないで、なんとか言ってくださいよ!!」
ぷるぷると震える手で胸ぐらを掴む楡井くんの顔は、驚く程、青白かった。
「…..どうして、なんですか…..。」
ぐっ、と楡井くんが俯く。
彼の声は、震えていた。
「…….ど……して…..否定、しないんですか…….」
「……楡井くん……」
あぁ、やっぱり。
楡井くん。君は。
______優しいな。
「潮見くん。君の事情とかどうでもいいし、聞きたくもないけど、楡井くんは聞かないと、納得しないよ。」
俺の言葉に、ぶんぶんて頭を縦に振る楡井くん。
「まぁでも、まずは桜くんの居場所、教えてくれる?」
ニコニコと、怒りを隠しながら、いつもの様に聞く。
数秒間、沈黙がおりたあと。
「隣町の、パン屋の、裏路地に、廃工場がある」
ぼそりと、呟いた。
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