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「あー、やだなあ。ニキビできそぉ」
顎の、違和感があるところを、つん、と指先で確認した。楽屋で鏡を見ながら独り言を呟く。
後ろで椅子に座って雑誌を読んでた若井が、涼ちゃんにしては珍しいね。と反応した。
聞いてたんだ。
鏡越しに見遣れば、長い足を組んで椅子に座り、 雑誌をペラペラめくっている。めくる速さから見て、流し読む程度なのかな。
ここ数日、こんな感じで楽屋に籠って自分たちの出番を待って、終わればまたしばらく楽屋待機。
車で局を移動して、また同じことの繰り返し。
忙しいと言うより、忙しないって感じかな。
バタバタはしてるけど、 意外と僕と若井は楽屋にいる時間が長い。
元貴だけが、ずっと誰かの楽屋だとか知ってる人に挨拶だとか、インタビュー撮りだとかで、忙しい。
(元貴、大丈夫かな)
一人だけ忙しいことに妬みとかそういうのはない。僕も、若井も。
才能溢れた人だって言うのは、他の誰よりも僕たちが知ってる。
誇らしい気持ちだけど。
元貴が、色々溜め込んじゃうから。それだけがすごく心配だ。
二日ほど前に、ここから数日バッタバタだから!体調管理しっかり。
と、マネージャーよりお達しがあって、
『しばらく、涼ちゃん接禁だって言われた…』
その後個別でマネージャーに呼び出された元貴が絶望的な顔をして戻ってきた。
どうやら、スケジュールが詰まってる間は、僕に触っちゃダメ、と言われたらしい。
苦笑した。
さすがマネージャー。元貴の行動パターンをちゃんと把握してる。
しょうがないよ。
だって、活動が忙しくなる時、元貴は多分、僕たちの倍は忙しくなるはずだもん。
毎日のように僕と過ごして、…なんていうのかな。…そういう、仕事外で体力使ってる場合じゃない。
『そりゃそうだよ。僕に構ってる暇ないでしょ』
カツカツなスケジュールだからこそ体調管理しっかりしないと。
そう僕も、受け入れたんだけど。
『涼ちゃんが、足りない』
今朝、仕事で会った瞬間にそう言ってきた元貴の目が死にかけてた。
若井が、わお。と茶化して元貴にギッて睨まれてて。
マネージャーが、とりあえず車の中で言ってそういうの。と心底呆れた顔で言った。
僕は、とりあえずマスクをしてて良かった。とだけ思った。多分顔が真っ赤だろうから。
現場に向かう車の中でも、元貴は覇気のない表情で。
ずっと僕の服の裾を掴んでる。
『…元貴、あの…手、繋ぐ?』
人のいるところであまりそういう事言わない僕だけど、さすがに心配が過ぎた。
珍しいことを聞いた、と言わんばかりにちらっと若井に見られて、少し恥ずかしい。
でも、俯きがちな顔を覗き込んで言ったけれど
『我慢する』
今日で終わりだから。あと少しだから。と返された。
元貴は精神的に弱いわけじゃないんだよね。ものすごく強いかっていったら、それも違うけど。
ただ、ちょっと色々溜め込む体質で、強い弱いじゃなくて、脆いだけ。
緩く巻かれた髪は綺麗にセットされていたけど、時間の経過と共に巻が外れて顔にかかる。それが煩わしくて、耳にかけた。
僕のどこにそんな魅力があるのかわからないけれど
俺は、涼ちゃんじゃないとだめなのよ。
藤澤涼架が、欲しいの。
…そう、元貴が言ったから。
元貴のこいびとっていうところに僕は居る。
だから。
最後に触れられたのはいつだっけ。
抱き締められたのは。キスもいつからしてないかな。
接触禁止だって言ったって、 抱き締めるくらい、手を繋ぐくらい全然いいのに。と思ったけど、 元貴はきちんとそれを守っていたから。
(足りないのは、僕も同じだなんだけどなあ)
そう思ってため息をついて、顔を上げたら鏡の中の若井と目が合った。
椅子に座った体勢のまま苦笑いを浮かべてる。
雑誌はいつの間にか閉じられて、無造作にテーブルに置かれていた。
「どうしたの?」
「いや、あー…今元貴が帰ってきたらやばいだろうなーって」
何かあったかと尋ねれば、よく分からない返答。
なんで、ここで元貴の名前が出てくるの?やばいってなにがやばいの?
若井の言葉の続きを待ったけど続かなくて。
どういうこと?
と問いかけようとしたところで楽屋のドアが開いた。
「ただいまー」
元貴が案外元気そうな表情と声で戻ってきた。
てっきりぐったりして帰ってくるって思ってたのに。
おかえりぃ、と返事をした若井。
直前の会話が寸止めになって、出遅れた僕も彼を出迎えようとして。
言葉より先に、目が合った。
明るかった表情がスっと能面みたいになって、足早に僕の元へやってくる。
「…ちょっと若井あっちむいてて」
「はいよー」
元貴の低い声にすんなり従う若井。
まるで言われるのがわかっていたみたいな。
さすが親友?阿吽の呼吸?
…じゃなくて、一体なに??
若井が何か意味深なこと言ってて、元貴が楽屋に戻ってくるなり僕のところに来て。
声が低くて目が笑ってなくて。
唐突に、ぐっと元貴が顔を近づけてくる。
あと数センチでキスしそうな距離に、心臓が跳ね上がった。
「…なに、物欲しそうな顔してるの?」
言われて、何度か瞬きをする。
…物欲しそう?僕が?
全然自覚はなくて、っていうか、物欲しそうってなに。自分のことだからどういう顔かわかんないけど、それが事実ならものすごく恥ずかしい。
頬に触れた指先の感触がすごく久しぶりで、びく、と体を揺らしてしまう。
口付けられることなく少し離れた元貴の唇が耳元に来て
「若井になんかされた? 」
と囁いた。
すかさず、巻き込むんじゃねーよ!と律儀にあっちを向いたまま若井がつっこみを入れる。
確かに?
元貴が朝言ったみたいに、僕だって元貴が足りないって思ったけど…。
そんな、なんか、あれな感じの?だらしない顔してたの?
ぶわーって顔に熱が上がっていくのがわかる。
何か言いたくても言葉が出なくて、羞恥心に全身包まれてしまった。
元貴からの言葉に、何一つ答えられないくらい、恥ずかしくて言葉が出ない。
耳元で感じる元貴の吐息が熱くて。
「ね、もういいよね?涼ちゃん、いいかな」
熱を含んだ元貴の声が耳孔から入り込むと、脳みそ溶けそうになる。
「っん」
体の芯が疼くような感じがして、息を飲んでしまった。
いいってなに?なにがいいの?いいのかな?いいって言っちゃってもいいの?
なんだかふわふわした感覚に浸って、よくわからなくなっていると
「よくねーわ!」
と若井がさらにつっこむ。
同時にマネージャーが楽屋に入ってきて
「とりあえず、車の中でやって、そういうの」
眼前に広がる光景に一瞬絶句し、ものすごく呆れた顔で今朝と同じようなセリフを言った。
マネージャーの運転する車に乗り込んで、帰路に着く。数日続いた慌しい日々が落ち着いて、ようやくゆっくり休める。…はず。
車に乗り込む際、元貴に3列シートの一番後ろに追いやられる。有無を言わせない強い力で。
僕の隣に当然のように元貴が座って、両肩を掴まれて、一息つく間もなくキスされた。
展開が早すぎて、僕はついていけない。
「もと、っ」
止める間もなければ、名前を呼ぶ隙もない。
触れて、直ぐに離れて、またすぐ触れる。
啄むみたいなキスを延々と。
待って待って、まだ若井も乗ってないしドア開いてるってば!
なんてそんなことも当然言えるわけない。
「ゃ、ん、んっ」
口付けの合間にくぐもった声が出るだけで。
何も言わせてもらえない。
「…ぅわあ」
2列目のシートに乗り込んだ若井がギョッとした後に苦笑いしてフリーズしたのが視界の隅に映って、恥ずかしくて死ねそう。
急展開すぎない?
…まだ家に着くどころか車発進すらしてないよね?
一応、元貴の中で線引きはしてるはずなんだけど、狭い車内で、若井もいるところで、キスなんて、当たり前だけど今までにされたことなくて。
パッと元貴が顔を上げて、無限キスから開放される。
はぁっ、と何度も荒く息をついた。
「見ちゃダメだよ」
怒ってるのか揶揄してるのかわからない元貴の声。
え、今、俺、見せられたんじゃないの?
なんて笑いながら、若井が目の前の座席に座る。
僕はといえば、何をどうすることもできず、されるがままで。
メイクを落として少し疲れた顔をした元貴に迫られて、至近距離でずっと体を寄せられてる。
自覚なく、胸の前で両手をぎゅっと握っていた。
何かを期待する女の子みたいでとても恥ずかしいんだけど。
狭い3列目の座席に大の男2人。下手に手を動かせば捻ったりしそうで動けない。
「涼ちゃん補給、してい?」
「補給て、お前www」
「ちょっと黙っといて」
「大森、それだと外から見える」
待ってよ。置いてかないでよ。周囲の会話のテンポが早すぎる。
元貴、若井、運転席に乗り込んだマネージャー。僕を差し置いて会話が進んでいく。
「やるなら、もうちょっと体勢低くして」
いつもの冷静な声のトーンでマネージャーが言い、車を発進させる。
とめるんじゃないんかい!ってまたまた律儀に若井がつっこんでた。
座ったまま座席に横倒しに押し倒され、器用に元貴が僕の上にのしかかってる。
もう深夜の時間帯で、窓が遠くなって、僕の視界は真っ暗に近い。
通り過ぎていく街灯やテールランプがたまに差し込んで元貴の顔を照らす。
車内BGMのラジオの音量が少し上がって、
「俺イヤホンしてるからさー、ごゆっくりー」
独り言調で若井の声が聞こえて。
誰も止めてくれない。
多分、こうなった元貴をどうやったって止められない事を、みんな理解してる。
…もちろん、僕も、知ってる。
「…も、とき、ここは、ちょっと…」
知ってるけど、敢えて言う。
だって、わかってるけど、ここでなんかすんなり受け入れるのもおかしくない?
みんな、僕をなんだと思ってるの?
そこまで僕、理性ガバガバじゃないよ?
だけど。
心臓がバクバク鳴ってて、全身が痺れるみたいに熱くて。
期待してないって言ったら、それは嘘。
「やっと、さわれる」
涼ちゃんに。
なんて、疲れた顔で、ちょっとだけ目元が赤くて、少し口の端をあげた笑み。
(…ずるいなあ)
さっき、あれだけ、僕が物欲しそうだとか言っておいて。
そんな気怠そうな表情で、目を細めて、妖艶な色纏わせて。
物欲しそうなのは、そっちでしょ。
「涼架」
顔が近づいてきて、表情が見えなくなって、反射のように顔を横に背ける。
構わず落ちてきた唇が耳に触れて、すき。と囁いてから耳のふちを舐められた。
「…っあ、」
聞きたくもない、高くなった自分の声が聞こえて、胸にあった両手を口元に持っていく。
かわいーね、と笑いを含んだ声が聞こえて、耳朶を噛まれた後に、耳の下にチリッとした痛み。
「あっ、ゃ、だめ…ッ」
キスマークをつけられた。
しばらく忘れてた熱が一瞬にして体を疼かせて、抑えきれない声を上げてしまう。
(…は、ずかしい、声…っ)
こんな。
他の誰かがいるところで。
身動きの取れない狭い車内で。
「…っ!だ、だめ、こんな…ぁ」
到底やめるつもりのない指先が、服の裾から潜り込む。
同時に、耳孔に舌先が入り込んできて、びくん 、と跳ねてしまう自分の正直な体が恨めしい。
もうこのまま流されちゃえばいいの?
全然だめ。
ぐじゅ、と潰れたような湿った音が耳から直接入ってきて。
聞きたくないのに、 逃げたいのに逃げられない。
のうみそがとけちゃう。
何も考えられなくなってしまう。
快楽に流されそうで、でもここには若井もマネージャーもいて。と。
脳内で壮絶なせめぎ合いを繰り広げている僕の単純な思考は、きっと元貴にはお見通しだ。
ふふ、と揶揄するように笑った元貴は
「大丈夫、入れないから」
安心して、涼架。
帰ったら、いっぱい入れてあげるからね。
だなんて。
完全に言葉で嬲られて。
「…っ」
悪戯をする子供のような元貴の笑みを、安易に想像できる。
こんなところで。醜態晒して。大の大人なのに僕。恥ずかしくて逃げたくて、どうしようもなくて。
だけど、元貴はとても満たされているかのように楽しそうで。
脇腹を撫でて滑った指先に、知らない間に硬くなってた乳首をぴんっと強く弾かれて
「やっ、ぁっ」
抑えていても声が漏れちゃう。
元貴の声。ラジオの音。
そういうこと、直で思い出させる卑猥な音。
僕の僕じゃないみたいな声。
(だめ、まともに考えられない)
元貴が、安心して。って言うなら…
もう、いいのかな。
わかってはいたけれど、僕には選択肢は残されていなくて。
悪あがきはもう限界。
僕は現実逃避するように目を閉じて、元貴に体を委ねることしか出来なかった。
とりあえず終わり
毎回寸止め。すぐにえろから逃げる私の悪い癖。
元気があれば
おうちに帰ってでろでろにされちゃう涼ちゃん…書けたらいいなあ…
えろいのってむずかしいね!
あと短編なんだから
もっと短く文章かけるようになりたい
精進
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