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涼ちゃんが加わって、リズムが少しずつ変わり始めた。
三人の音が重なることで、ふたりで作っていた頃とは違う空気が流れている。
「なあ、元貴、涼ちゃん」
若井がギターのコードを軽く弾きながら言った。
「なんか……昨日のセッションで、少し音がズレた気がするんだ。意図的じゃなくて、無意識に」
元貴はその言葉に眉を寄せた。
「ズレ?」
「うん。たぶん、俺たち二人が作ってきたリズムや呼吸が、涼ちゃんのピアノの感覚と微妙に違うんだと思う」
涼ちゃんは遠くを見つめてから、静かに答えた。
「僕も感じてたよ……でも、それは悪いことだと思わない。むしろ、これが新しい何かの始まりかもしれないなって。」
元貴は優しく頷く。
「そうだね。揺らぎがあるからこそ、音楽は深みを持つんだ」
若井はギターを弾きながら、微笑みを浮かべた。
「よし、じゃあこのズレを活かして、俺たちらしい音にしよう」
その言葉に僕達は一斉に頷き合った。
夜のスタジオ。ライトがほんのり照らす中、三人は新たなメロディを紡いでいく。
音がぶつかり、交差し、時に調和しながら、ひとつの形になっていく。
そして、僕の声がその中に静かに溶け込んだ。
──揺らいだ音が、君と僕の距離を埋めていく。
涼ちゃんが言った。
「この曲、きっと誰かの夜を灯すと思う。僕たちのズレも、きっと誰かの旋律になる」
若井が元貴に目を向けて言う。
「なあ、元貴。俺、この三人で作る未来、楽しみだよ」
元貴は照れたように笑いながら答えた。
「僕もだよ、若井。そして涼ちゃんも」