コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
早くも週末となり、住宅展示場へ行こうと予定をしている土曜日が訪れた。そのため気合を入れてお洒落した。
切れ長の一重瞼にダークピンクのシャドウを乗せ、真っ黒のラインを薄く目じりに引いた。
バンドをやっていた時はもっとメイクを濃くして妖艶な女を演じていた。メイクをしたら容姿はそこそこ、手足は長い方でバストは人並み以上にあるから、舞台(ステージ)映えはしていた。
もっと歌唱力と表現力があれば光貴と一緒にメジャーの舞台に上がり、バンドで大成していたかもしれない――と、絵空事が頭に浮かぶ。気合入れたメイクをするその都度、バンド活動の片鱗を思い出す。
自前のストレートの長い黒髪によく合う、バンド時代に愛用していた百合クロスデザインのジャケットに同じデザインのスリムなボトムスを合わせた。
バンドを辞めてから運動不足が祟り、少し太ってしまったのでお気に入りの服が入らなくなったのでは、と心配だったがなんとか大丈夫だった。こういう服を着ると気持ちが引き締まる。普段からお洒落をすればいいけれど、面倒くさい考えの方が勝ってしまい、お洒落を手抜きしがちな女子となりつつある。よくない傾向だよね。
結婚した相手が幼馴染だから、余計にそうなってしまうのかもしれない。互いの存在が近すぎて、もうすでに家族だから。
公共機関を使って行くことを考えたけれど、駅から離れているので住宅展示場まで愛車で出かけることになった。
バンドをしていた頃は商用車と同レベルの大きな車に乗っていたが、今は買い替えてファミリーワゴンに乗っている。色は黒。私たちが好きな色だ。
「よし、行こか」
普段カジュアルルックな光貴も今日はキマっている。黒のジャケットスーツに濃紺のGパン姿。光貴のトレードマークだ。いつものカジュアルラフな大学生のおさるさんとは違ってカッコいい。
早速助手席に乗り込んで光貴を見つめた。私は免許を持っていないので、運転できる男性に魅力を感じる。自分に出来ないことをする人は心から尊敬する。
特にギターを弾いている時と、運転してる時の光貴が好き。
「どうしたん。顔に何かついてる?」
熱っぽい視線を送っていたようで、光貴が嬉しそうにはにかんだ。「もしかして僕に見とれてる?」
「うん。今日の光貴、カッコいいもん。普段からずっとそういう恰好をしてくれたらいいのに」
「相変わらず、スーツ好きやなぁ」
「うん、めっちゃ好き! 鬼畜メガネとか、白衣が特にサイコー!」
「今度、僕が白衣着てメガネ装着しようか?」
「……遠慮しておく。光貴はカワイイから、鬼畜じゃないもん」
「コラ。旦那に向かってカワイイって言うなよ」
他愛もない会話を交えながら、目的地に車を走らせた。高速沿いにあるという住宅展示場を目指す。
この後、訪れる出会いが、私たちの人生を大きく狂わせることになるとは
それはまだ、誰も知らない――