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「響が…響がスキップしてる」
「え!?ホントにしてた?」
教室に入ってくる俺に、あさ美が指摘する。
「浮かれすぎでしょ」
「いやーほんと無意識」
そう、奏(そう)ちゃんとやっと付き合えることになった俺は史上最高に浮かれていた。
「あさ美。今日も空が美しくて、学校日和だね」
「やめてやめて、怖い。お花畑すぎる…ないから。学校日和とか1日もないから」
あさ美が本当に嫌そうな顔をしている。
「でもさ、響と藤村先輩がちゃんとくっついてあたしも安心したよ」
「その節は…本当にあさ美にお世話になりました」
あの花火大会の日、あさ美が背中を押してくれたから俺はまた奏ちゃんといられる。
「ほんとだよ、花火大会来て一人残される女の気持ちわかるぅ?」
「それは今度埋め合わせを…」
「あっ、でもちょっといいことあったんだ!」
「なに?」
「ちょうど同じクラスの女子グループに会ったから合流したの。そしたら他校の男子達にナンパされて」
「ほう…」
「一人タイプの人がいて、連絡先交換したんだ」
「お前、俺のこと好きなんじゃなかったっけ?」
「成就しない恋なら、次に行かないと!」
「女はつえーなぁ」
俺なんて奏ちゃんのこと、ジジイになるまで引きずる自信あったけどね。
「まぁ、ナンパしてくるような奴らはちょっと気をつけろよ。遊ばれないように」
「えっ嫉妬?響、今さらあたしに嫉妬なの!?」
「親友としての忠告だよ」
「ですよね〜」
親友という存在が出来たのも俺には大きな出来事だ。
ちょっと前までは友達も学校もくだらないって思っていたからな。
高校に入って、奏ちゃんに出会って、環境も考えも変わっていく。
やっと奏ちゃんの恋人になれた。
願いが叶った。
高校生活を楽しみたい…と思う反面、付き合うことで悩むところもあった。
「そーちゃん!」
放課後はまた奏ちゃんの教室に迎えに行くルーティンが復活した。
「お前ら、部活ない日も一緒に帰ってるの?仲良すぎね?」
合唱部の先輩だ。
「仲良いよ、すごく」
奏ちゃんが笑って先輩に言う。
「ねっ、響」
俺の顔を見る奏ちゃんにドキッとする。
奏ちゃん、それは反則…。
そんな綺麗な顔で微笑まれたらさぁ。
みんな貴方の虜だよ?
付き合えてからも、奏ちゃんのことがどんどんずっと好きになる。
怖いぐらいに幸せ。
「俺も彼女欲しいなぁ」
先輩が言う。
「頑張って作りなよ。あっという間に受験になるよ」
奏ちゃんがサラッと交わす。
「だよなぁ、夏休みは彼女と過ごしたい!」
奏ちゃんと先輩が笑い合う。
あ、奏ちゃん強くなったな。
前に俺との事からかわれた時は、必死で否定していたのに。
これは俺が愛されてるってことでいい?
俺の愛の力って思ってもいい?
「奏ちゃん、帰ろう」
「うん、待たせてごめん」
上履きから靴に履き替えて校庭に出る。
もう手を繋ぎたい。
奏ちゃんにもっと触れたい。
いやいや、まだ人目が多いからさすがにダメ。
欲望を打ち消そうと、頭を横に振ってみる。
俺の髪が揺れると、奏ちゃんが俺の頭を上からポンと撫でてきた。
「なんか頭についたの?」
そう言われて、見上げた奏ちゃんの顔が近い。
やべ、顔が赤くなる。
奏ちゃんの顔なんて何度も見ているのに。
「何でもないよ…」
恥ずかしくてうつむく俺に、奏ちゃんは
「響の髪さらさら。可愛いね」
と微笑む。
すごいパワーワード。
無理無理!本当に奏ちゃんのその顔で、可愛いとか言われたら体が抑制できなくなるんだよ!
俺は、奏ちゃんの制服のシャツの背中側を指で掴んで話す。
「奏ちゃん、可愛いとかそんなこと他の女子とかにも言ってない?その顔面で言われたら全女子、全国民が恋に落ちるからね!」
「言うわけないよ。響だけ」
「本当に?」
「うん。だって響が本当に可愛いから」
うわぁ。やめてー!今すぐここで抱きつきたくなる。
奏ちゃんの一言一言に振り回されて、まだ俺だけが片思いしているみたいだ。
好きが爆発していく。
それと同時に俺の男の部分がどうにも歯止めが効かなくなる。
夏の制服に変わって、奏ちゃんの露出度が増えた。
それは嬉しいことだが、今こうして俺が手で掴んでいる奏ちゃんのシャツの背中も透けていて、うっすらと汗をかいている。
汗で濡れたシャツが妙にエロい。
半袖から見える腕が細いのに、程よい筋肉がついていて今すぐ触りたい。
俺は、このあふれる欲望をどうしたら良いのか困っている。
男と女でも皆そうだよな?
好きだったらしたいよな?
セックス。
そんな言葉ばかりが最近の俺の脳内を占めていた。
「あ、夕焼け」
奏ちゃんが言った。
今でも夕焼けを見るとなんだか切ない。
「奏ちゃん、夕焼けって見てると寂しくならない?」
「うーん。響がいない時は少し寂しかったかな、一人で帰るこの時間が」
「少し?少しなの?」
「だいぶ寂しかったけど、今は響がいるから大丈夫だよ」
何で俺の欲しい言葉を、そんなにスラスラ言っちゃうんだよ。
奏ちゃん。大好き。
あ、もうすぐ分かれ道だ。
嫌だな、ずっと奏ちゃんと一緒に居たい。
「響」
俺の名前を呼ぶと、奏ちゃんが俺の手をつないでくれた。
「響の家まで送るよ」
奏ちゃん。あんた、最高の彼氏だよ。
奏ちゃんが強く握ってくれた手が、大きな手が俺の全てを包みこんでくれているようで安心した。
幸せ。
ただただ幸せだけを噛み締めて、夕暮れの道を二人で歩く今日という日が幸せだ。