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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「もし僕が月人に腕と足だけ全部持ってかれたらどうする?」

見回りの帰り、エイティが急にそんなことを言ってきた。

「え?ルチルに直してもらう??」

「ううん、ダメ。僕に合う良い素材がない場合。」

「うーん、なら僕の腕と足を使ってエイティを元に戻すかなぁ」

「でも、そしたらサーティの腕と足が無くなっちゃうよ」エイティが心配そうな顔をする。

「大丈夫。全部使うわけじゃないよ、半分だけ使うの。」

「半分だけ?ってことは、例えば、僕には左腕と左足だけあって、サーティには右腕と右足だけしかないっていうことになるってこと?」「そういうこと。」

「でも不便じゃぁない?片手片足しかないのよ?」

エイティに聞かれると、僕はくすりと笑って彼に言った。

「でも、僕らは2人でも1人、『2人で1人』なんだから。僕が左腕と左足になって、サーティが右腕右足になれば、全く支障はないよ。」「確かに。僕らは2人で1人だもんね。僕もサーティと同じことするかも。」「そう。だからどっちかが傷ついても……—————————————————————————————————————————————………              どっちかで補えばいいんだよ。」





ある日、僕は腕を月人に持って行かれてしまった。

片腕ならまだ良かったものの、両腕を。

その場にいたみんなが集まる中、「僕と同じだ……」ってフォスが呟いた。

途中、急に「はっ!サーティも僕みたいに合金つけたら?」なんて思いついてたけど、

後ろにいたジェードに「お前みたいに合金が付く可能性は限りなく低いぞ…無理だな。」って言われて

「そんな……いい案だと思ったのに。」なんて落ち込んでいた。

「落ち込まないで、フォス。フォスがすごいのよ。」ダイヤが励ますも、フォスは昔に戻ったみたいに拗ねてしまっていた。

「どうしましょう…良い素材が無いですね……。」

「えっ!?」

ルチルが引き棚を引きながら唸った。

ジェードが反応し、フォスは何故か目を輝かせていた。

「ならやっぱり合きn」「ダメだ。」

「……でもやっぱり、合金をつけるしかないのか……?」「素材が無いんじゃぁ仕方ありませんね…」

みんなが本気で合金をつけるか考え始めた時。


「ねえ、ルチル、僕の腕を使える?」


エイティが、そう、ルチルに言った。

「………エイティ?」僕もみんなもびっくりして、顔を見合わせた。

「貴方でサーティの腕を治すんですか?……宝石もインクルージョンも同じだから出来なくもありませんが……それでは貴方の両腕が無くなりますよ?」ルチルは困惑した表情でそういった。

「両腕じゃないよ、片腕。僕の左腕をサーティにつけて。それなら僕も両腕無くならないでしょ。」

ルチルはあんぐりと口を開けていた。

エイティは食い入るようにルチルに歩み寄る。

「う、うーーむ…………」


「………いいでしょう。」

暫く考えた後、ルチルはその条件を飲んだ。

「……いいよね?サーティ。」エイティが、こそりとこっちへ耳打ちをしてきた。「当たり前だよ。」

僕は、喜んで了承した。



「正直こういうことは初めてなので興奮してます。」エイティの腕を切る時、ルチルはそう言った。

声はちょっと荒ぶっていた。

「うわぁ変態ヤブだ……キモー」ってフォスが煽ってた。

そんなこと言ったら……


案の定、僕の想像通りルチルにノコギリを向けられて、「あら?こっちのほうが切り心地良さそうですねぇ……?💢」って言われてた。

「ひいぃ!ボルツみたいなこと言わないでよ!!神医者!神!天才!!!」

フォス、威勢だけはいいんだから。

同じ白いベッドに仰向けになった僕らに対して、ルチルは言った。

「ではいきますよ。」

その声とともに、僕らの意識は途切れた。





目が覚めると、本当に僕の左腕にはエイティの腕がついていた。

横を見ると、エイティも同時に起きたらしく、彼の左腕は無くなっていた。

『成功したね。』

僕らが安心していると、

「いや、まだ分かりませんよ。貴方のインクルージョンが彼と同じなのは分かってますが、万が一何かあったら大変です。当然白粉はまだ塗らず、経過を見ましょう。」

と、ルチルが忠告してきたので、僕らは今日1日、あまり過激に動かないようにした。

「エイティ、これ、この前話してやつでしょ。」

「ふふ、バレた。思い出したから言ってみたんだ。成功してよかった。」

『これからも、片方が怪我したら、もう片方で補おうね。』

足を組んで、手で体を支えて、僕らは頭を合わせる。

カツーーーンという甲高い音が、静かな学校中に響いた。


それから100から200年くらい時間が経った。

その間も僕らはたまーにどっちかが欠けて、その度にもう片方のかけらを使って修復していた。

今の時点で、僕の左腕と左足(下から10センチくらいのところ)はエイティのものだ。

逆に、僕の右肩の先端と右目は、エイティのものになった。

僕らは、

『これでもし離れても一心同体だね。』

と、いつも言っているほどになった。

ある日、みんなが冬眠の準備をしてる時期。

南北の空に月人がでた。

あーん…………眠いのに……。

みんなも同じようなことを言いながら、月人と戦ってたその時だった。


パキイィィッ


背中を、月人に射抜かれた。

一瞬背中を向けたその隙を。

エイティが庇ってくれたけど、エイティも一緒に射抜かれた。

その衝撃で僕らは綺麗に真っ二つに割れた。

雲の上に崩れ落ちた。

今、雲の上にいるのは僕らしか……………。

最後に目に映ったのは、僕らの方に手を伸ばしてくる沢山の月人の手だった。











気がつくと、僕らは助かっていた。

眠くてよく周りが見えない。

けど、隣にいるんだよね?エイティ。

(うん。隣にいると思うよ。今僕も起きたところ。)

2人で心の中で会話していると、遠くにいたフォスと目があった。

「おっ、起きた!」

フォスの大きな声で、僕らの眠気は一気に何処かへ飛んだ。

『び、びっくりした……なぁに?どうしたの?』

僕らが尋ねると、「どうもこうもないよ!やっと起きたんだ。そりゃ声も上げるさ。」と、フォスが走ってきた。

どうやら僕らは、あの日から10年間も眠ってしまっていたらしい。

周りの人に聞くと、どうやらあの後、ボルツが駆けつけてきて、僕らの体全てを持って行かれることは防げたらしい。

ただ、僕らの体の片方は月人から奪い返せなかったと。

エイティの右側、サーティの左側。

綺麗に半分。

持って行かれたらしい。

『そんな……』

『あれ?でもなら何故僕たちは今話せているの?どちらも欠けていないし……』

「………」

僕らが尋ねると、みんなは気まずそうな顔をした。

「…あーー……えっと…じゃぁ、エイティは手をパーに、サーティはグーをしてください。」と、急にルチルが意味深なことを言ってきた。

『?いいけど……』

エイティは両手をパーに、僕は両手をグーにした。

『はい。これでいいの?』

みんなに見せると、ルチルは言った。

「……貴方、自分の両手を見てみてください。」

え?と思って両手を見る。

右手はグーに。


左手は、パーになっていた。


『あれ、何で?僕、パーにしてたはずなのに……』

         グー

「っ……」

ジェードが、今にも泣きそうな顔をした。

どういうこと?

僕の左手がパーになってる??

  右手 グー

その時気づいた。

医務室の奥にある鏡。

そこに映っていたのは、僕でも、エイティでもなかった。

僕とエイティを合体させたような、「アメシスト」だった。


画像 『…………え?』

そういうことか。

一瞬で理解してしまった。

僕の左側がない。

エイティは右側がない。

僕は右側がある。

エイティは左側がある。

くっつけたんだ。

僕らを。

右はサーティ・スリー。左はエイティ・フォー。

白粉が塗ってあってつなぎ目はよく見えないけど、触って見ると少し違和感があった。

僕の体だけど、僕の体じゃなかった。

インクルージョンも宝石も同じだけど、少し、ほんの少しだけ、違和感があった。

(ど、どうしよう……エイティ?)

心の中でエイティに話しかける。

(心の中でなら話せるよ。サーティ。)

どうやら、僕らは心の中でなら会話ができるらしい。

(よかった。エイティと離れ離れになったらどうしようかと思ったよ。)

(僕も。こうなっちゃったけど、別にこれでもいいのかもね。)

『これから僕たちは、「アメシスト」として生きていこう。』


そう、高らかに宣言した、冬の去りどき。






140年後………。

学校から少し離れた草原にて。

1人の宝石と手を繋いだユークレースが、草原を彷徨うようにして歩いている。

「あら、いいところにいた。モルガーー、ちょっと今いい?」

丁度よく近くを散策していた1人の宝石の方へ声をかけ歩み寄る。

「ん?……あっ!ユークレース、そいつ、まさか戦闘にはいるの?」

モルガことモルガナイトが、ユークレースの右隣にいる宝石を指差して聞く。

「えぇ。硬度も7だし、靭性も5級だから、戦闘向きだって先生が。」

ユークレースは優しく微笑み、モルガに返す。

「〇〇〇、詳しいことは先輩方に聞いてちょうだいね。じゃぁ私はこれで。」

彼をモルガに引き渡し、ユークレースは集計表を持って学校へと戻っていった。

「あーえっと、名前はたしか〇〇〇だったよな?」

「はい。〇〇〇です。」

「じゃぁ呼びにくいから●●●でいいか。モルガナイトだ。これからよろしくな!」

「はい!」

「おーいモルガ、何してるの?あれ、新入り?〇〇〇だっけ。戦闘班になったの?」

「あぁ。さっきユークレースと一緒に来てな。先生直々のご判断だ。」

「僕はゴーシェナイトだよ。よろしく。とりあえずまずは他の人にも挨拶してみたらどう?ダイヤとかボルツとか、あとはアメ……」

「おーーい、何してるの?」「あ、噂をすれば。」

ゴーシェが微笑む。

「あ、犠牲者1人目。」

モルガが意味のわからないことを言った。

「え、何?犠牲者??」

困惑している彼に、〇〇〇は挨拶をする。

「えっ、と、〇〇〇です!今日から戦闘班に入りますっ!よ、よろしくお願いします!」

「おぉ、元気いいねぇ。」

くすりと笑って、彼は自己紹介をした。


『僕たちは「アメシスト」。硬度は7だよ。』

『よろしくね。』


彼らは、にこりと笑顔を作って、彼のことを見つめた。新しい風吹く春の匂い。


2人でも1人の、双晶アメシスト。










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