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夜は、水の匂いがする。
ぽちゃん。
らむねは、静かに夢へ降りる。
今日の夢は、暗い廊下だった。
電気はつかない。
足音だけが響く。
廊下の奥で、
小さな背中が震えている。
らむねは隣に座る。
何も言わない。
ただ、手を握る。
水色の波紋が、床に広がる。
廊下の闇が、少し薄まる。
でも、消えない。
闇は、らむねの足元に絡みつく。
冷たい。
抱えようとするほど、
黒は深くなる。
そのとき。
遠くで、ぱち、と音がする。
「また無理してるでしょ。」
線香花火が、廊下の角から顔を出す。
明るい。
いつも通りの笑顔。
火花が、ぱちぱち弾ける。
闇の端が、焦げる。
らむねは目を伏せる。
「……だいじょうぶ。」
嘘だ。
線香花火は、知っている。
でも問い詰めない。
代わりに、悪夢の中心へ歩いていく。
一歩ごとに、火が短くなる。
ぱち。
ぱち。
闇が焼ける。
でもそのぶん、
火は小さくなる。
らむねの胸が、きゅっと痛む。
今まで触れなかった距離。
でも今日は、違う。
線香花火の火が、
今にも消えそうだから。
らむねは、そっと近づく。
「……ありがとう。」
はじめて、言葉にする。
そして、触れる。
水と火が重なる。
消える、と思った。
でも消えたのは“形”だった。
火は光をほどき、
水は輪郭をなくす。
しゅわ、と白い霧が広がる。
廊下は、朝焼けみたいな色になる。
小さな背中が、静かに眠る。
悪夢はもう、ない。
ただ、やわらかい霧だけが残る。
弾ける音も、水の音も、もう消えた。