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𝓗𝓪𝓶𝓾
809
#アイドル
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26
「……ところで、あの彼氏とは、もういいのか?」
思い出したように訊かれて、こくっと首を縦に頷いた。
「せめて会って話がしたかったけど、彼にはもう別の彼女がいて、話のできる状況でもなかったから……」
駅であった、ありのままを打ち明けると、
「泣いていた本当のわけは、それか」
鷹騰社長が口にして、伸ばした手で私の頭をぽんぽんと二、三度軽く叩いた。
そういえば前にエレベーターで会った時にも、こんな風に頭を叩かれたことがあった。
あの時は距離感のなさにちょっと閉口したりもしたけれど、本当は彼の気取りのない接し方に救われていたのかもしれないと、今さらのように気づいた。
「そうか、既に彼女がいたのか……」
彼がそれだけを口にして、私の目尻に溜まった涙を、やっぱり気負わない無造作な素振りで、その親指でぐいと横に拭った──。
不意討ちで、息が詰まりそうなくらいに強く胸に抱え込まれて、
「……泣きたかったら、泣いとけ」
そんなさりげない優しさを見せられると、泣かずにはいられなくなる。
「私だって、いけないのはわかってる……でも、彼との関係があんな形で終わるなんて思っていなくて……」
ぐずぐずと涙声で話すことしかできないでいると、
「ああ、わかったから……」
彼が私の背中に手を回して、なだめるようにくり返し撫でさすった。
「悪いのは、俺だから。俺が、おまえに誘いかけたりしなければよかったんだ」
そう続ける彼に、「そうじゃないから……」と、頭を何度も振る。
「……私も、あなたを拒めなかったから。ずっとあなたのことが気にかかっていて……部屋へ連れて行かれた時だって、もっと一緒にいたいとさえ思って……」
「……そうか」とだけ、彼が応じる。
「あの雨の日にたまたま出会っただけだったおまえのことが、こんなにも気になるなんてな。だが俺も、おまえに会えてよかったと思ってるから」
抱く腕にぎゅっと力が込められると、
私が思っていたのと同じことを彼の口から聞けたことに、涙が溢れた。
「……ありがとう」
一言を吐き出して、涙を止めようと無理やりに笑い顔を作る。
そうして彼の胸にふっと顔をうずめると、
「泣いたり笑ったり、忙しい奴だな」
大きな手で鷲掴むようにして、くしゃりと髪が撫でられた。
「麗華のこともちゃんとするから、少し待ってろ」
耳元に唇が寄せられて、
「今夜は、こうやって抱いて寝てやるから」
固く筋肉の張った両腕の中にがっしりと包み込まれると、穏やかな眠りに落ちていくのを感じられた……。
コメント
1件
ああ、このエピソードは……沁みるわ。 彼氏に別の彼女がいたって知って、泣きながら「私もあなたを拒めなかった」って打ち明ける主人公と、それを「悪いのは俺だから」って全部受け止める鷹騰社長。抱きしめて「泣きたいなら泣いとけ」って言うシーン、不器用なのに優しさが刺さるよ。前回のエレベーターでの頭ポンポンが伏線みたいに効いてて、二人の距離が縮まったのがちゃんと感じられる展開だった。 「今夜は抱いて寝てやる」のラスト、穏やかな安心感が伝わってきて、じんわりした。蒼乃さん、この空気感の描き方、ホント好き。