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無事、”蜃気狼”ちゃん改めウルミラが一緒に暮らしてくれることになり、家に案内しようかと思ったのだが…。
〈ノア様!もういいでしょ!私達お腹がすいたわ!〉〈”死者の実”を食べるのよ!せっかく持ってきたのよ!〉
〈えっ……。アレって食べられるの…?確かに甘い匂いがしてたけど…〉
帰ろうとしたところでレイブランとヤタールが果実を食べたいと要求してきた。やはり森の住民達にとってあの果実は、匂いは良いが食べられない物、というのが共通認識のようだ。
果実を切り分けて皆に手渡す。
〈匂いの期待を裏切らない味…!ボク!これ大好き!〉
〈飽きない味だわ!〉〈毎日食べられるのよ!〉
〈これが、毎日…!?ご主人、ホント!?〉
「私の住まいの近くに沢山実っているからね。好きなだけ食べられるよ。ただし、食べすぎには気を付けようね?」
ウルミラも果実の味を気に入ってくれたようだ。持ってきた果実三つ。皆であっという間に食べ終えてしまった。この辺りに実っていたとしたら、レイブラン達がまた満腹で動けなくなっていたかもしれない。ウルミラには食べすぎに注意するように言っておこう。
「それじゃあ、そろそろ私の住まいへ行こうか。ウルミラ、君を抱きかかえさせてもらっても良いかな?」
〈ボク、ご主人より大きいけど大丈夫?動きづらくない?それに、ボクだって速いよ?〉
ウルミラが訴えてくるものの、抱きかかえること自体を拒否するわけではないようだ。彼女は走って私の家まで行こうと思っているのだろうけれど、当然、移動方法はいつものアレだ。
〈舌を噛まないようにしなさいよ!すっごく速いわよ!〉〈あっという間なのよ!ひとっ跳びなのよ!〉
〈えっ…?どういうこと…?〉
「ウルミラ、今から跳躍して私の家まで跳んでいく。かなりの速度になるから、目を瞑っていてもいいよ?一度跳んだら、後は家まで直ぐに着く」
〈えっ?跳ぶ?えっ?〉
流石に困惑してしまうか。ラビックの時は何も告げずに跳んでしまって怖がらせてしまった。怖がりなウルミラに同じことをやってしまったら、トラウマどころじゃないだろう。最悪、嫌われてしまうかもしれない。それは避けたい。
「準備は良いい?」
「えっ、あっ、う、うんっ!目、つむったよ!」
「それじゃ、行こうか」
背中から抱え上げたウルミラが、両前足で自分の目を抑えている。なにその仕草。物凄く、可愛い。思わず顔をウルミラの体に埋めてしまった。
〈ご主人、まだ?〉
〈ノア様!またいつもの悪い癖よ!〉〈我慢するのよノア様!家までノア様ならすぐなのよ!〉
「ごめん、ごめん。さぁ、行くよ」
足にエネルギーを集中させて、家の方角へ跳躍する。さぁ、帰ろう!
ちょうど、家の扉の前に着陸する。いつも通り、レイブラン達よりも早く到着した。
「到着したよ。もう目を開けてもいいよ」
〈ホントにあっという間だった…。ご主人、途中、変な動きしてなかった?〉
変ではないよ。尻尾で破裂した空気を叩きつけただけさ。
「この建物が私の家だよ。今は、出かけていて、レイブラン達の他にも紹介したい子達がいるんだ」
〈どんなのがいるの?〉
〈ノア様、お帰りなさいませ。そして、新たにノア様に仕えることとなったお方。私、ノア様にラビックの名をいただきました。どうぞ、よろしくお願い致します〉
ラビック達のことを伝えようとした直後、ラビックが帰ってきて自己紹介を始めた。はて、彼は修練に行くと言っていたけれど、何処へ行っていたのだろう。
〈あぁ、キミかぁ…。ご主人は、ホントに強いやつらを集めてるんだね。ボクはウルミラだよ。よろしく。他には誰がいるのかな?〉
〈帰ってきたわよ!お知らせがあるわよ!〉〈ただいまなのよ!アイツがいたのよ!〉
ラビックに訊ねようとしたら、レイブラン達が帰ってきた。アイツというのは”角熊”くんと”老猪”、どちらのことだろうか?
「ヤタール、アイツっていうのは、熊と猪のどちらかな?」
〈熊よ!熊が川にいたわ!〉〈魚よ!魚を食べていたのよ!私も食べてみたいのよ!〉
〈では、次はいよいよ”彼”を誘いに行くのですね?〉
そうか。”角熊”くんか。不思議と魚を一口で食べている光景が目に浮かぶし、とても似合って良そうだ。そしてヤタール。君、やっぱり食い意地が張っているね。構わないけれど。これは、果実の他にも魚も捕ってくる必要があるかな?
「そうだね。まだ日も高いし、熊の所へ行こうか。レイブラン、ヤタール、案内をお願いできるかな?」
〈今ならきっと動いていないわ!魚ってどんな味かしら!?〉〈任せて欲しいのよ!案内するのよ!〉
〈あの熊もここに呼ぶんだね。ボクだけだったら怖くて絶対無理だけど、ご主人には関係ないのかぁ…〉
ウルミラにフレミーを紹介していないけれど、私が帰ってくる前にフレミーが帰ってきて、ウルミラが驚かないようにラビックにフレミーのことを説明しておいてもらおうか。
〈ただいま、今回は早かったね。初めまして、ノア様の配下で友達の、フレミーだよ。〉
〈………〉
ウルミラが固まってしまった。なんとなく分かってはいたが、やはりこうなってしまったか。ウルミラの顔を撫でて落ち着かせておこう。
「ウルミラ、大丈夫?彼女は怖くないよ?」
〈ご主人がそう言っても、急に声を掛けられたらビックリするよぉ…。どうして、匂いがしないのぉ…?〉
〈驚かせてごめんね?ヤタールから怖がりだって聞いていたけれど、想像以上だね。匂いがしないのは、そういうものだと思ってもらうしかないかな?〉
ウルミラは周囲を察知するときにエネルギーよりも嗅覚を頼るらしい。確かにフレミーは長い体毛が臭いを抑え込んでしまっているためか、まるで臭いがしない。驚くのも無理ないのか。
「それにしても、フレミーもラビックも、随分とタイミングが良いね?」
〈ノア様がご帰還する音が聞こえてきましたので、お出迎えに参りました〉
〈この辺りに糸を張っていたから、ノア様が帰ってくると分かるんだ〉
どちらも凄いことをしていた。方法は別々だが、私が帰ってくることを察知できたのだ。
それはそれとして、そろそろ移動しようか。レイブラン達をあまり待たせるものでもないしね。
「それじゃあフレミー、ラビック、これからレイブラン達と熊の所まで行ってくるよ。ウルミラのこと、任せていいかな?」
〈構わないよ。私としても、同居人に怖がられっぱなしっていうのはいい気分ではないからね〉
〈ノア様、お任せくださいませ。ではウルミラ殿。この広場全体の案内をさせていただきます〉
〈ラビックって、そういう性格だったんだね。呼び捨てで良いよ?立場としてはボク達、同じでしょ?〉
少し心配だったが、あの様子だと問題は無さそうだ。それでは、”角熊”くんの所まで行くとしよう。
レイブランとヤタールの案内で到着したのは、私が魚を捕った場所から、三万歩以上は下った場所だった。河原に出る前に、果実を3つ取っておく。
2羽とも、さっき食べただろう。そんなに食べたそうな顔をするんじゃない。後で食べさせてあげるから。
河原に出てみれば、”角熊”くんが此方を見据えていた。私が会いに来たことが、事前に分かっていたようだ。
確かに、ここ数日はレイブラン達の跳んでいる場所に私が跳んでいったからな。自分の頭上に彼女達がいたら、自分の元に私が訪れると予測できたとしても、何の不思議もない。
まずは、挨拶をしておこう。
〈ついに、我を食らいに来たか…。覚悟は出来ている。一思いにやってくれ〉
と、思っていたら、”角熊”くんから先に発言されてしまった。
レイブラン達と言い、ウルミラと言い、君と言い、何故、私に食べられると感じているの?