彼に捨てられる夢を見た。
夢だと頭では認識はしているものの、やけにリアルだったからか不安な気持ちが収まらない。
心臓はばくばくと今にも破裂しそうなくらいに跳ね、冷や汗がつーっと肌を伝う。そして涙がこぼれ落ちた。
「きょ、さ、んっ」
どうしても恐くて。可愛くないって言って俺を捨てた夢の中のきょーさんの顔をやけに鮮明に覚えている。
不安で不安で、ベッドから起き上がって彼を探す。
「どこ、ね、どこなの、きょーさ、ん」
涙は溢れるわ足取りはふらふらしてるわでとても不格好なんだろうと予想はついたが、そんなの気にしてられなかった。
彼は起きるのは遅くない。部屋にいないならリビングにいるはずだ。そう思って、からりとリビングの扉を開けた。
きょろきょろと彼を探すと、ベランダで煙草を吸っている彼が目に入る。気遣ってだろう、彼は出入りする窓を開けてないためまだ気づいていないようだ。
ぺたぺたとベランダの方へゆっくり歩いていく。
「きよー、さ、んっ」
か細い僅かな声で名前を呼ぶと、彼はくるりと此方を向いた。
すると表情を変え、まだ長かったであろう煙草を灰皿に押し付けて、窓を開けて此方へと急いで向かってきた。
「っど、どうした? らっだぁ?」
焦ったような表情の彼は、夢の中の冷たい瞳とは違って、暖かい瞳をしていた。
「……きょーさんに、すてられる夢みた」
ひっくひっくとしゃくりあげ、震える声でなんとか説明する。すると、彼はぎゅっと優しくも強く抱き締めてきた。
「んなことする訳ないやろ。夢ん中の俺見る目ないなぁ。こ~んな可愛いのに」
たったそれだけの彼の行動で、今までの不安が嘘のように消え去った。
また涙が溢れてくる。
これは嬉し涙だ。
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rd受け … 良いかも