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「××ー!」
後ろから小春の声がして、私は振り返る。
小春に、これだけは言わないといけない。
「ごめんね、結局お昼戻れなくて!」
小春はいつもの表情で両手を合わせて私に謝った。
「いいよいいよ。…大丈夫?」
「…うん!お昼も食べて元気もりもり!この後ダンスもあるしね!気合い入れなきゃ!」
小春の言葉に息が詰まる。
言わなきゃ。
「小春、あのね、ダンスの…ことなんだけど。」
声が震える。
けど私は意を決して息を飲み込んだ。
「私のペア…孤爪くんになっちゃったの…。」
小春の顔が見れなくて、反射的に俯く。
小春は「うん。」と私の前で頷いた。
顔を上げて小春の優しい顔を見て、言葉を続けた。
「私…その…。」
「××。」
小春の呼ぶ声で、私は口を止める。
「私に気を使ってダンス楽しまないとか、絶対しないでね。」
ドキリとした。
そう言った小春は私に近づき私の両頬を手でつまむ。
「ほら、ちゃんと笑って!うちのクラスで言われたの、ダンスは、笑顔が70%だって!」
小春は私に満点の笑顔をおくった。
胸が締め付けられる、凄く、苦しかった。
小春、ごめんね。
ちゃんと、ちゃんと言うから。
終わったら、全部ちゃんと話すから。
それまでお願い。どうか許して。
「さぁー続いての競技は本校の体育祭目玉!部活対抗リレーです!全部活の皆さんがユニフォームで着飾っています!」
「あ!あれだ!黒尾先輩たち!」
小春が遠くの方に指をさす。
奥には真っ赤と白を含んだユニフォームを着た、男子バレー部の姿があった。
そのほかサッカー部、バスケ、などと6つの部活の1走者目がスタートラインに並ぶ。
走順は1年生からと決まっている。
人数にも限りはあるので、学年それぞれで3人までと決まっていた。
1チーム9人で走る200メートルリレーだ。
男子バレー部の1走者目を見ると、センター分けで少し背の小さめの子。
部活に行った時、1度見た事があった。
待機してる人の中を見ると、黒尾先輩がアンカーだった。
「バレーボールってあんまり走るスポーツじゃないけど、どうなんだろう?」
小春がふと疑問に思い呟く。
「確かに。けど体力はあるからね。」
「なるほど、スピード落ちなそう!」
人差し指を立てて閃いたように小春は言う。
「位置についてー!」
スタートの合図がする。
周りは自然と声の大きさを落とす。
「よーい、ドン!」
ピストルが鳴り響く。
その瞬間、弾くようにしてわーっと歓声が上がった。
全力で走る6人の走者達。
現在、陸上部、サッカー、バスケ、バレー、野球、テニスでほぼ僅差。
次々と2走者目にバトンが繋がる。
「頑張れー!」
小春も私も声を張って応援をする。
2走者目は茶髪で髪がつんつんした背の高い男の子。
犬のようにキラキラした笑顔で走り抜ける。
すぐ目の前を走るバスケ部の男の子を抜いた。
「わーすごいすごい!」
小春はぴょんぴょん飛び跳ねる。
3走者目。
1年生のラストは、周りとは比べ物にならないほど背が高く、190近いその男の子は、前を走る小柄のサッカー部の男の子を「うおー!」と叫びながら追う。
その光景はまるでネズミとネコ。
応援席中が「こえー!」「何あの子でか!?」と笑いをあげる。
サッカー部の男の子は恐怖のあまり全力で逃げる。
何とかサッカー部が逃げ切り、4走者目にバトンが渡される。
4走者目、学年が切り替わる。
「福永くんだ!」
バレー部の走者は小春と同じクラスの福永招平くん。
福永くんはバトンを受け取る瞬間、応援席の方を向き、グーサインをした。
観客は困惑しながらも、次の瞬間、わーっと笑いが広がる。
「あっははなんだあれ!」
福永くんは右脇をしめ、腰あたりでグーサインをしながら走り続ける。
しかも目線はコーナーを曲がる時でさえ応援席の方だった。
正面向いてなくて、片腕は振れていないはずなのに、スピードは落ちない。
全力で走るサッカー部の男の子とさほど変わらない。
「福永くんすっご!?」
そんな爆笑が起こる中、次の走者にバトンが渡された。
5走者、福永くんから同じクラスの山本くんにバトンが繋がる。
「うおおおおお!!!」
山本くんはそう叫びながら前のサッカー部を追いかける。
山本くんも十分に早いが、なかなか距離が詰められない。
「距離縮まるかな!山本くん頑張れー!」
小春が隣でそう叫ぶ。
すると山本くんは走りながら耳をこちらに傾ける。
その瞬間、「うぉぉぉぉ!!!女子が俺を応援しているー!!!!」と叫び散らかし、サッカー部を抜いた。
「やった!」
小春と私ははもる。
私は次の走者を見た。
目を大きく見開く。
午前中に見た、ハーフアップ姿の孤爪くん。
初めて見るユニフォーム姿で、孤爪くんの背番号は5番だった。
いつもと違う彼を見て、鼓動が早くなる。
孤爪くんは山本くんが突っ込んでくるのを少し怖がるように眉間に皺を寄せていた。
私も小春も息を飲んだ。
バトンが繋がれる。
孤爪くんは走り出す。
現在バレー部は2位。
孤爪くんのサラサラの髪が、走る振動とともに揺れる。
顔はげっそりしていて、今にも止まりたいといった様子だった。
それが少し面白くて口角を上げる。
私はふーっと息を吐いた。
そして弾き出すように、
「孤爪くーん!頑張れー!」
口元に両手を広げて叫ぶ。
自分でもびっくりするぐらい大きな声が出た。
小春は驚いたように目を丸くした。
もう、自分に嘘をつくのはやめる。
ここの底から、彼を応援したいから。
彼に、応援の声を、届けたいから。
徐々に距離を縮めていくサッカー部。
その瞬間、孤爪くんは表情を変え、スピードが上がる。
私は心の中で何かがぶあっと広がる感じがした。
追ってくるサッカー部をなんとか切り抜け、3年生にバトンが渡された。
7走者目。
3年生のターンになり、場は一気に盛り上がる。
孤爪くんから、坊主で優しい顔の先輩にバトンが渡る。
「海頑張れー!」
後ろの3年生が名前を呼んだ。
海先輩は綺麗なフォームで走る。
しかし、後ろから足がとても早いと噂のバスケ部の先輩がサッカー部を抜いて一気に距離が縮まった。
海先輩はなんとか逃げ切り、バトンが夜久先輩に渡ろうとした瞬間。
海先輩が隣のレーンのバスケ部と体がぶつかり、その勢いでバトンが手から離れ、夜久先輩の前方に吹っ飛ぶ。
それはバスケ部も同じ状態だった。
私たちは肝が冷える。
その光景がとてもスローモーションに感じられた。
「落ちちゃうっ。」
口を両手で抑えながら呟いたその時。
バトンが落ちるスレスレのところで夜久先輩は滑り込むようにバトンを拾った。
その勢いのまま2回回転し、立ち上がり走る。
「お、お、おおおおお!!!なんとも素晴らしいファインプレー!!!!バレー部の” 繋ぐ ”がここで発揮されるー!!!!」
これには会場は大盛り上がり、大歓声。
バスケ部は困惑したせいか、慌ててバトンを拾い遅れをとった。
「えっえっ!?何今の!???」
私も小春も一瞬の出来事で頭が「すごい」としか出てこなかったが、夜久先輩は走り続ける。
夜久先輩は小柄だけれど、ものすごい足の回転率で、最初からずっとトップを走る陸上部に距離を詰めていた。
「すごい!?すごいすごい夜久先輩がんばれー!」
私と小春は興奮のあまりジャンプしながら大声で応援する。
陸上部とバレー部の距離は約4メートル。
「黒尾!」
「おう!」
そのままバトンはアンカー黒尾先輩に繋がった。
「トップで走り続けた陸上部にバレー部が今追いつきました!!怒涛のレースです!!」
バトンを渡す瞬間に一気に距離がつまり、黒尾先輩は陸上部のすぐ後ろを走る。
周りの歓声は止まらない。
黒尾先輩がスピードをあげる。
残り半分、2人が並んで走る。
「黒尾先輩頑張れー!!」
私たちは声が枯れそうなぐらいに叫ぶ。
ラスト直線に差し掛かり、ゴールテープが現れる。
怒涛のレースを繰り広げ、ゴールまで残り2メートルになった瞬間、走る2人が足をからませ、いっせいに前方へ転ぶ。
その光景に場は固まったと思いきや、大歓声が広がった。
よく見るとテープはしっかりと切られている。
「なんと、なんということだー!!!バレー部アンカー黒尾鉄朗!!倒れた衝撃と、鋭い逆立った髪でゴールしたー!!!優勝バレー部ー!!!」
周りにどっと笑いが起きる。
あんなゴールの仕方があっていいのかと私は眉を寄せて苦笑いをしたが、隣で小春が爆笑する声を聞いて、私もつられて声を上げて笑う。
(夜久)
「あいつダサすぎるだろ。」
(孤爪)
「まぁいいんじゃない。らしくて。」