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アリエッタの朝は早い。100日以上森で暮らしていた為に身に付いた習性である。
ミューゼ達の家に住み始めてからは、暗い時間でも活動出来るようになった為、少しずつ目が覚めるのが遅くなっていた。
今日も目が覚めると同時に、朝の洗礼から始まる。
「ん……む……」(朝だ……動けない……やわら……はっ!)
本日の少女の布団代わりになっているのは、パフィの身体である。なんだか柔らかすぎるモノに包まれて、アリエッタは目を覚まし、毎回驚いて完全に覚醒するのだった。
前世の記憶の影響で、動いたらマズいという思考に至り、起きたのに微動だに出来ないという事態に陥る。しかも美人のお姉さんに包まれているという事実に緊張し、二度寝も出来ないのであった。柔らかさは減るが、顔を近づけて眠るミューゼの時も同様である。
しばらくするとパフィが目を覚ました。
「はふぅ……起きてたのよ? おはようなのよ、アリエッタ」(今日も可愛いのよ。ずっとこのまま寝ていたいのよ)
「おはよ、ぱひー」(やっと動ける……毎朝これじゃ心臓破裂しそうだよ……)
身体的な欲望は無くなっても、知識や記憶の存在は緊張を引き起こす。それに加え、2人とも同性から見ても魅力があるというのも大きかった。それはアリエッタ自身にも言える事なのだが、本人は全く気づいていない。
そして大人のパフィは、お姉さんとして遠慮なくその先の行動を起こす。
「ほら、おはようのチューなのよ……チュッ」
「!? ほわやっ!!」
おでこに感じた柔らかい感触に、思わずのけ反……れなかった。パフィによって掴まっているせいで、少し身じろいだだけである。
「照れちゃって可愛いのよ~、今から朝ごはん作ってあげるのよ」
(チューされた……今日もチューされたぁぁぁぁ)
大人だった過去もどこへやら。幼い体に現れる敏感で初々しい反応は、記憶と理性では全く抑えられなかった。
照れて顔を隠すアリエッタを抱えたパフィは、洗面台でアリエッタを降ろして身支度。その後キッチンへ行って朝食の準備をしていく。
「ぱひー……」(うむむ……料理手伝いたい。あれって森の家にあった芋だ。あれを増やすなんて、みゅーぜも凄いなぁ。)
アリエッタの家にあった野菜は、ミューゼによって家のベランダで育てられていた。ベランダは小さいながらも立派なガーデニングスペースとなっており、初めてミューゼに見せてもらったアリエッタは、驚きで口が開きっぱなしになっていたのだった。
そんな小さな空間の小さな畑では、大きな芋っぽい方は4つ、葉野菜の方は3束で栽培している為、クリムや客が来ても充分な量がある。
「あら、アリエッタ? もしかして手伝いたいのよ?」
後ろの視線に気付き、森で自分から料理している姿を見たパフィは、すぐに手伝いたいのだと理解した。しかし、やって欲しい事を伝える手段が無い。
仕方なく箱を置いて、後ろでアリエッタに見学させてみる事にした。
「……そんなに真剣に見られてると、ちょっとやりづらいのよ。途中で絵を見せたがらない気持ちが分かったのよ」
強い眼差しを我慢しながら、パフィは料理を進めていく。その工程をじっくりと観察していくアリエッタだったが……。
(あれ? 沸騰してないのに入れたら……沸騰してる? さっき水いれたばかりなのに? え……えぇっ!? 鍋からお湯が飛び出てきた! どうなってるの!? 魔法!?)
(あはは……ミューゼと同じ反応なのよ。これは一緒に調理は出来そうにないのよ)
初めて家で、パフィの料理を見学したアリエッタは、目の前で起こっている現象に驚きっぱなしだった。
外では調理器具が少なかった為に、アリエッタもよく知る方法で調理していたが、今までアリエッタが立ち入らなかったキッチンでは、パフィがその力をフルに活かし、驚きの速さで朝食を作っていった。
その結果、テーブルにはオムレツと茹で芋とベーコンとパンが並んだ。
(意味が分からない、どうやってこの料理になったんだっけ?)
すぐ傍で見ていた筈なのに、アリエッタにはパフィの調理方法が全く理解出来なかった。そんな悩む姿に申し訳なさを感じながらも、アリエッタの頭を撫でるパフィ。
程なくして匂いに釣られたミューゼがやってきて、朝食タイムとなった。お味はもちろん……
(おいし~い!)
「あらら、パフィの本当の料理風景を見ちゃったのねー。やっぱり驚いてた?」
「そうなのよ。初めて私と一緒に料理したミューゼと同じ顔だったのよ」
「うーん、早起きすればよかったなぁ」
結局作り方に関しては、美味しければ問題ないという事で、考えるのを止めた。ミューゼも通った道なので、その何かを放棄した笑顔に、親近感を感じていた。
「それじゃ、いってきまーす」
「気をつけるのよ」
(今日はぱひーと留守番なのか)
ミューゼが出かけ、家に残ったアリエッタとパフィ。
アリエッタはパフィの後にくっついて、常に一緒に行動している。
「まったく、なんでこうまで可愛いのよ。もっとじっくり観察して、貴女の事知りたくなっちゃうのよ」
(もっとよーく観察して、ぱひーの事知らなきゃダメだ。ぱひーの出来る事を手伝うんじゃなくて、出来ない事を手伝わないと!)
偶然にも2人の考えは一致していた。
この後も、アリエッタは親について行く小鳥のように一緒に動き、パフィのやる事なす事を常に観察していった。
一方…観察するつもりで、されているパフィはというと……
(んああああ可愛いのよ可愛いのよ! 部屋から出ようとするだけで慌ててついてくるのよ! ヨダレ出ちゃうのよ!)
人に見せられない状態の顔を、決してアリエッタに見せないように、内心全力で悶えていた。
(この事は観察記録にちゃーんと書いておくのよ。グフフ……)
完全に危ないお姉さん状態である。
尚、トイレに行く時もついてきた為、アリエッタは強引に連れ込まれてしまい、出てきた時は真っ赤になりながらリビングに逃げていった。何をしていたかは…本人達のみぞ知る。
アリエッタは「トイレ」を覚えた。
「たっだいまー!」
「みゅーぜ!」
程なくして、出かけがミューゼが帰ってきた。
出迎えたアリエッタの頭をすれ違いざまに撫で、リビングへと向かう。もちろん後ろをトコトコとついていくアリエッタ。
「どうだったのよ?」
「ばっちり出来てたよ! まだ材料は余ってるから、希望があったら作ってくれるって」
ミューゼは嬉しそうに、小さな箱をテーブルに置いた。
「アリエッタ、ここにおいで」
ソファをポンポンと叩き、アリエッタを座らせる。名前を呼んで場所を示すと、なんとなくそこに来てくれる為、2人にとってはとても助かっていた。
座ったアリエッタを撫で、箱を近づける。既に興味深々といった感じで見ている。
(これなんだろう、僕にくれるのかな?)
「ふふふ……アリエッタにプレゼント。えいっ」
面白がっているミューゼは、蓋を勢いよく開けた。
「お~~~~!!」
「思った通り、良い反応なのよ」
アリエッタのキラキラした視線の先には、アリエッタの銀髪で作った毛筆が、2本入っていた。
我慢出来ずに手を伸ばし、筆を手に取ると、掴み心地や毛の感触などを確かめるように触れていく。一通り確認した後、握って真剣な顔になった。
「どうしたのよ?」
「シッ……何かを始めるのかも……」
(よーし、これで……)
筆を持ってイメージをすると、髪の毛の先が赤くなる。それと同時に筆の毛も赤くなっていった。そのまま色が黄色に変化していく。
「不思議なのよ……色が変わるのよ……」
「相変わらず綺麗ね~。まるで光ってるみたい」
(女神様の言ってた通りだ。これなら描きやすいし、どこにでも持って行ける)
一通り試したアリエッタは、筆を箱に戻し、笑みが抑えられない顔をミューゼ達に向けた。
「みゅーぜ!ぱひー!」(……お礼の言葉が分からない!! ど、どうしよう)
笑顔のまま困惑するアリエッタだったが、言葉がなければ行動するのみという結論にたどり着き、ミューゼに向かって突進した。
「きゃぁ♡ 喜んでくれたのねー」
「よかったのよ、ずっと欲しかったのよ?」
アリエッタはしばらく無邪気に喜び、ミューゼとパフィはそんなアリエッタを愛で続けたのだった。
その夜から、アリエッタは上がったテンションのまま、2日かけて2人の立ち姿を1枚の絵に仕上げ、その絵は喜んだ2人によって、リビングに飾られる事になる。
そして、その絵を見たクリムは、心底羨ましがりながら夕食をヤケ食いしていた。
アリエッタが筆を手にして、数日が経ったある日の事。
「あら、手紙なのよ。誰なのよ?」
パフィはポストを覗いて手紙を取り出し、差出人を見た。
「!?」
その名前を見て驚いたパフィはその場で封を切り、内容を読む。目を通したパフィは、慌ててリビングへと向かったのだった。
「ミューゼ~!! 大変なのよ~!!」