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ある日の昼過ぎ、ニーニルの町。
3人の男女が歩いていた。
「いよいよ会えるのね」
「交渉時は注意してくださいよ?」
「分かってるってー。さすがに小さい子に変な事言わないって!」
「そういう事ではないのですが……」
両側には軽装の男性が2人、その中央を歩くのはパフィと同じくらいの年ごろの黒髪の女性。
「仲良くなるなら早い方が良いじゃない? もしかしたら将来……くふふっ」
「そうなるのは構いませんが……絶対に強要はしないでくださいね?」
「……うんうん、とーぜんでしょ!」
「今の間は何ですか?」
なにやら楽しそうにこの後の事を話しながら、3人は1軒の家の前へとやってきた。ミューゼ達の家である。
隣の男性が前に出てドアを叩く。
「すみませーん! どなたかおいでですかー?」
呼ぶも、返事は無い。
「居ないんでしょうか?」
「おかしいわね。ちゃんと手紙は届けた筈よ?」
「手紙……って、そこにあるソレですかね」
「へっ?」
ポストから、綺麗な封筒がはみ出ているのが見える。
女性は慌てて近寄り、ポストから出さずに封筒を確認していった。
「これよ! なんでまだ読まれてないの!?」
「ちなみにそれを出したのは何時ですか?」
「一昨日だから……昨日には届いてる筈よね?」
「という事は、少なくとも昨日から不在という事になりますかね」
「嘘でしょ!? 調べさせたら、仕事は受けてないって言ってたのに!」
家の前で大騒ぎする3人を、近所の人がチラチラと見始めている。
その視線を感じた男性は、一旦この場を退散する事に決めた。
「このままでは無駄足になってしまうので、少し足取りを追ってみますか」
「そうね。せっかくここまで来たのにーっ!」
納得できない雰囲気の女性は、最初にパフィの親友でもあるクリムの食堂へと足を運んだ。一緒にいる事が多いクリムならば、何か知っているかもしれないという、最も妥当な線……だったのだが──
「本日休業……ですね」
「なんでっ!?」
男性の1人が周辺の人々に聞いてみたところ、3日前にしばらく休業するという報せがあったようだった。理由は特に知らされていないらしい。
「これは困りました……残るはリージョンシーカーですね」
「もうっ、手間取らせてくれるわねっ」
3人はすぐにリージョンシーカーへと向かう。
ミューゼとパフィは受付嬢リリと親しい…という情報があった為、迷う事なく当人を呼び出し、話を聞く事に成功した。
「パフィさん達でしたら、昨日の朝早くからラスィーテに行きました」
『はい?』
まさかの別リージョンの名に、3人とも目が点になった。衝撃だったせいか、何故かコソコソと話し合い始める。
「ちょっと……仕事はしてない筈でしょ!?」
「ええ、聞いた情報では間違いない筈ですよ」
「今日になって急に仕事でも始めたのでしょうか……」
その話が少し聞こえ、なんだかちょっと申し訳ない顔になるリリ。別に隠す事でもないので、普通に教える事にした。
「ええと、仕事ではなく里帰りですよ。パフィさんとクリムさんの」
『…………へ?』
再び3人の目が点になったのだった。
流石にプライベートの事前情報までは、得られなかった様子である。
リージョンシーカー内の一部に、ちょっと寒い風が吹いた……ように思えた。
── ラスィーテ ──
そっちに行けば甘い匂い、あっちに行けば香ばしい匂い。
木からは出汁が取れ、岩は砂糖の塊。土も家も何もかもが食材で出来ている。
そう、ここはとってもお菓子なリージョン。
だけどご注意、丸々太るとたちまち悪魔がやってきて、お城で焼かれて食べられちゃう!
異世界から来たアナタ……食べ過ぎない覚悟はおありですか?───
「おいしー!!」
「ん~♪」
(あま~い! それにずっと美味しそうな匂いするから、いくらでも食べられちゃいそう!)
ラスィーテにやってきたパフィ、クリム、ミューゼ、アリエッタの4人は、塔のある町『シュクルシティ』で食べ歩き……もとい立ち往生していた。
その理由は……
「困ったし。橋が直るまでまだ何日もかかるし」
「まさかアリクルリバーが氾濫してたなんて思わないのよ」
「これじゃムーファンタウンに行けないし」
パフィ達が得た情報によると、原因不明の川の氾濫によって橋が壊され、パフィの故郷である『ムーファンタウン』に行く事が出来ない状態なのだという。
橋を越えて行く先は他にもある為、沢山の人が橋の修理を待つ事になってしまっているのだ。
パフィとクリムが悩む横で、買ってもらったケーキを食べ終えたアリエッタは、2日目となるラスィーテの光景を見回し、改めてじっくりと考え始めた。
(凄い所だなぁ……全部お菓子の家に見えるけど、食べられたりするのかな? それに、空に浮かんでるのって、雲じゃないよね。なんだかツヤツヤしてるけど、なんだろう?)
アリエッタが眺める街並みは、チョコレートやクリームなどを模った可愛い家が建ち並ぶ、見た目からして甘い風景だった。
この街に限らず、全ての材料が食材で出来ているラスィーテでは、食べるのが勿体ないと思える家ほど、ステータスになるのである。
そして空に浮かぶのは雲ではなく飴。水飴のように形を変えながら漂い、天気が悪い時は綿アメを降らしていく。他のリージョンの人々から見れば、アメからクモが降ってくるという、とても不思議な光景となっているのだった。
(それに……今まで聞く手段が無いからスルーしてたけど、ぱひーやくりむの頭に浮いてるあの丸っこいの。同じのがある人が沢山いるんだけど……ここって2人が関係している場所なのかな?)
初めて出会った時にも思っていた、パフィの頭の何か。ついに気になったアリエッタは、それを確かめる為に行動を起こした。
「ぱひー、ぱひー」
「ん? どうしたのよ?」
(えーっと、屈んでもらうか抱っこしてもらわないと……ゴメンぱひー)
とりあえずパフィの足元で、両手をあげて小さくジャンプしてみた。すると、あっという間にパフィが笑顔になり、屈んでアリエッタを抱き上げた。
「もー、なーに可愛い事してるのよ。んふ♪」
「あ、いいなー」
デレデレするパフィの頭をジッと見つめるアリエッタ。ついにアリエッタの頭の物体に手を伸ばした。
掴むのではなく、ツンツンと突いてみると、ふよんふよんと揺れ、元の場所に戻る物体。
「??」
「あら、私の髪の毛が気になるのよ?」
なんと、頭の上に浮いている丸みを帯びた物体は、髪の毛だった。
「あー、そういえば当然よね。あたしも最初は気になって、引っ張ったりしてたもん」
「そんな恐ろしい事してたし!?」
「あれは痛かったのよ……」
「ごめんって……あっ」
丁度その時、アリエッタが両手を伸ばし、パフィの髪の毛を掴んだ。そのまま手元に引き寄せる。
「いだだだだだ!? アリエッタだめだめ!!」
浮いてはいるが、髪の毛の動きに連動して、パフィの頭が引き寄せられる。
悲鳴とパフィの動きに驚いたアリエッタは、すぐに髪の毛から手を離した。
(えっ、痛いの!? ど、どうしよう。たぶん凄く悪い事しちゃったんじゃないかな……)
パフィは涙目になりながら、そっとアリエッタを地面に降ろした。アリエッタはというと、泣きそうな顔でパフィを見上げている。
その様子を見て、クリムがあえてちょっと怒った顔で、アリエッタの頭を小突く。
「めっ!だし」
「うぅ……めっ……」(これはきっと怒られてるんだな……)
アリエッタは「めっ」を覚えた。
怒られているのは分かったが、どうしたら良いか分からないアリエッタ。
そんな泣きそうな様子を見ていたミューゼが、そっと頭を撫でた。そのまま耳元で、ある言葉を教えてみた。
不思議そうに振り返るアリエッタに、笑顔でパフィを指差すミューゼ。その行動の意味は……珍しく通じた。
「ぱひー……ごめんなさい……」
言葉を教える事に成功したミューゼは、喜びのあまり満面の笑顔でガッツポーズ。屈んでいた為、ケーキを食べる為に座っていた椅子に肘をぶつけ、1人で悶える事になる。
謝られたパフィは驚いた後、アリエッタの頭を撫で、抱きしめた。
そして嫉妬するクリム。
アリエッタは「ごめんなさい」を覚えた。