テラーノベル
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これは黒矢凌の小さい頃から現在にかけてのお話。
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小学一年生の俺(黒矢 凌)は、早く家に帰りたかった。なぜなら、小学校に入ってから初めてのテストで高得点を取れたから。
お母さんは俺になんて言って褒めてくれるかな。偉いよって言って頭を撫でてくれるかな。楽しみだな。早く帰りたいな。
帰路を一生懸命に走っていつもより早く家に着いた。扉を開けて開口一番。
「お母さん!お母さん!俺、テストで良い点を取ったんだよー!」
お母さんは嬉しそうに微笑んだ。
「えっ、本当に?そのテスト見たいな。お母さん楽しみだなあ。」
「えへへ!見せてあげるー!」
ランドセルからテストを取り出してお母さんの目の前につき出す。
そのテストに書いてあった点数は98点。
瞬間、お母さんに頬をぶたれた。
「どうして100点じゃないの!?ねえ!ねえ!!!どうしてよ!ねえ凌!どうして100点を取れないの!!???うちの子はどうしてこんなに駄目なの!!????」
褒めてくれると思っていた母にぶたれて困惑した。
「お、お母さん…?」
「どうして!!!どうして!!!!!!」
どうして、と言いながら俺の腹や腕をずっと殴ってくる母に恐怖を感じて涙が止まらなくなった。痛い。痛い。誰か助けて。誰か。
暴力が終わったのはそれから10分経った頃だった。殴られた箇所が痛くて痛くて既に泣き疲れた俺に、お母さんは言った。
「お母さんは病気なんだから、苦労させないで!!」
そう言うとキッチンの方へ歩いていった。
俺は、100点を取らないと駄目なんだ、と思った。100点を取らないとお母さんに苦労させちゃう、と。
それから100点を取れるように沢山勉強をした。100点を取ることができるようになって、褒められるようになった。だけど、凡ミスや暗記不足でどうしても100点を取ることが出来ない時があった。その時はいつも最低でも10分は殴られて蹴られた。小さい頃からそうだったからそれが普通だった。
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中学校に上がって、テストが更に難しくなった。そして俺の時間の全てが勉強で埋まった。それでも100点を取れないときがあった。小学校の頃は殴られる、蹴られる、だったけれど中学校に上がると更にエスカレートし、包丁で脚や腕などを切りつけられるようになった。そしてそれを隠すように、夏でも長袖長ズボンを着るようになった。
ある日友達に言われた。
「凌、夏なんだから半袖着れば?熱中症なるぞ。」
半袖にしたら痣や切り跡が見えてしまうから、とは言えなかった。母にいつもこう言われていたから。
『お母さんは病気だから仕方ないの。それに苦労させないでって言ってるのにテストで満点取れない凌が悪いんじゃない。殴られるのは仕方ないの。仕方ないのよ。だから、誰にも言わないで。』
分かってるよ、お母さん。誰にも言わないよ。病気だから仕方ないんだよね。
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高校生になって、バスケを始めた。母から『部活はしないの?凌が活躍してる姿を見たいわ。』と言われたからだ。
それから勉強も部活も頑張った。勉強は全て100点を取ることが出来た。
そして部活も一年生の時も二年生の時も優勝は出来なかったものの、全国大会に出ることが出来た。でも母は満足しなかったらしい。
「どうして優勝出来ないのよ!?ねえどうして!!!!」
いつものように暴力を受けた。もう痛いとも感じなかった。ただ突然、憎しみという感情が初めて湧いた。
なんで暴力を受けないといけないんだよ。俺は、勉強も部活も頑張った。誰のせいでこんなにつまらない人生になったと思ってるんだ。全部母の思い通りに行動して、期待に応えられなければ、殴られ蹴られる。凶器で切りつけられる。俺が自由に行動したことはない。本当に俺の人生ってつまらない。お母さんのせいで、つまらない。
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高校三年生になって、生徒会長に推薦された。成績優秀で部活でも全国大会出場者。そんな俺は多数の生徒からの支持と先生からの信頼もあり、他の立候補者との大差をつけて生徒会長になった。
その知らせを聞いた母は泣いて喜んだ。
「凌、よくやったわね。凄いわ。さすが私の子。」
中学生までの俺だったら、泣いて喜ぶ母を見て嬉しいと思っただろう。でもその時の俺は、イラつきが心を支配した。本当に、都合のいいお母さんだ。
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あの日、潾に出会った。
それから俺の人生は随分変わった。一生つまらない人生だと思っていたのに、潾がカラフルにしてくれた。幸せだった。 俺は、勉強や部活を疎かにして潾の所に入り浸るようになった。
お母さんは俺への暴力をこれまで以上にするようになった。痛いけど、別に良かった。暴力を受けることがどうでも良くなるほど、潾の側が心地良かったから。
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そして潾と付き合った次の日。
お母さんが死んだ。
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