テラーノベル
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「そんな……どこって……」
「ママっ!早く、高いもの、高価なものからスーツケースに入れて!田中さん、広瀬さん」
「「はい」」
「荷造りを手伝って、運んで」
「申し訳ございませんが、引っ越しは私たちの業務外ですので」
「お手伝いいたしかねます」
サンドイッチのお皿やグラスを片付けに来た田中さんたちは、さらりと頭も下げずに断った。
私も取り皿を重ねて手伝うと
「湿布、新しくした方がいいわ。足は自分で出来る?」
と広瀬さんが手を動かしながら私に聞いた。
「ありがとうございます、大丈夫です。部屋に湿布を持って行ってもいいですか?」
「ええ、一度ワンピースを脱いで全身を確かめた方がいいんじゃない?」
「真奈美さん、そうして。土曜日の午後だから病院が救急対応しかしていないと思うけど、知り合いの医者にどこへ行けばいいか聞いてみる。それまでにアカウントの対応もしてくればいい」
篤久様がそう言ってくれたので、病院はどちらでもよかったのだけれど、私は一度自室へ戻った。
ああ……腰骨、打ってるね……よくワンピースのポケットにあったボイスレコーダーが無事だったよ。
そう思った途端
“終わった”
と脱力感を感じる。
遥香たちは、今また目の前の引っ越しに必死だけれど、彼女たちのこのあとの人生には必ずこれまでの言動が返ってくる。
簡単には逃げられないものに、ずっと追われる。
見ず知らずの人から、噂され、指を差され、罵られるのよ……
やり切った……でも爽快感なんていうものはなかった。
どちらかというと、これまでに感じたことのない無気力に襲われそうだ……
ダメよ、アカウントにお礼と削除のアナウンスをしなきゃ。
私は湿布の交換をしてから、もう一度ワンピースを頭からかぶると、椅子に座ろうとした。
そこには、出て行く時に着ようと思っていた着替えが一式置いてあり
「ほんとにこのままここにいていいのかな……」
と呟く。
ダメだ……ひとつずつ終わらせないと、何も手につかないくらい次々と頭が忙しい。
私は【奴隷家政婦】を開くと
「わっ……バグ?……異常に多くて読めない……」
一つ一つのコメントは読めない数になっていて、何語かも分からないコメントも見られる。
何て書こうか…お礼を書くことになるとは思っていなかったな。
キーボードの上で固まる10本の指が動き始めたのは、数分後だった。
『私の特別な体験をご覧いただいた皆様へ
たくさんの応援や励ましのコメントをいただき
ありがとうございました。
このあと24時間後に、このアカウントは削除し
私は新しい生活を見つけたいと思います。
これまではずっと過去が今に引っ付いてきたけれど
そうでない未来があったらいいな…と
少しの希望を持って……
奴隷家政婦:管理者:まなみ 』
コメント
5件
やっと終わったね。最後の真奈美ちゃんのメッセージにジーンとした。きっと真奈美ちゃんの未来は明るいと思う
今迄の苦労が真奈美ちゃん一家が報われる新しい未来,希望の未来はあるよ。案外すぐ側に幸せな未来が待ってるかも。
荷物を持って出で行けることを感謝して欲しいよ!!そんな感覚あるわけないか〰 真奈美ちゃんお疲れさまでした👏👏👏 感謝の言葉、確かに受け取りました😊 これからはゆっくりとね〜 例えば、篤久様とデートとか〰😍