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それは、唐突に起こった。
「突然ですが、僕と結婚を前提に御付き合いしませんか?」
それは、放課後の教室。
2人きりの空間。
目の前には、絶世のイケメンと噂される美青年。
そして、恋愛青春ドラマのようなシチュエーション。
しかし、しかし、告白されているのは、平々凡々という言葉がお似合いの俺こと、我妻 彩斗(あがつま あやと)だ。そう、絶世の美青年こと狼谷 柊磨(かみたに とうま)が告白したのは、絶世の美女ではなく、幼なじみの女の子でもなく、平々凡々な男であった。
「えーっと、」
顔を真っ赤にしながら告白してきた柊磨を前に、俺はなんて返したら良いか分からずに戸惑う。柊磨とは同じクラスで部活も同じ。それなりに仲の良い親友寄りな友達だと思っていた。
嫌いと言われるよりは嬉しいと思う。だが、その好意は確実に友達ではなく、恋愛であるということは理解した。
「えーっと・・・」
女の子なら二つ返事で了承したのだと思う。しかし!俺は、れっきとした男である!
「あの、これは罰ゲームとかなんかか?」
この間、隣のクラスのヤツが罰ゲームで男に告白して、マジで付き合うことになったと言っていた。それと同じことが繰り返されているのだろうか。
俺って、そういうターゲットになりやすいし、コイツもからかわれやすいからな〜きっとそうだろ。
「え?違うけど?」
キョトンとして柊磨が返す。
「彩斗が好きだから告白したんだよ?彩斗は、僕の運命の人だからね!」
「運命??」
どうやらマジらしい。
運命をどこで感じたんだ、おのれは?
「そう、彩斗は僕の運命の人と決まっているんだよ!彩斗と始めて会って、目が合って、こう、胸に突き刺さるものがあったんだよ。僕はこの人と結婚するって!!」
「けっ!!!こん!!!」
思わず、大声で繰り返してしまった。
最近は、男同士でも結婚が許される時代となっている。有名人でも公にしている人も多く、だいぶ恋愛や結婚観が変化してきた時代だと社会の先生が言っていた気がする。だからといって、俺は女の子が好きだし、男が恋愛対象になったことがない。
「そう、僕は確信しているんだよ!彩斗は、僕の想いに答えてくれるって!」
「ど、どんな自信だよ。俺は、」
お前の気持ちに答えるつもりは・・・。
『ない』と伝えようと言葉を発するその瞬間、柊磨はスっと何かを取り出した。それが夕日を反射する。キラリと光ったそれが何かを認識した瞬間、柊磨はにっこり笑ってこう言った。
「拒否したら、ここで死ぬよ」
柊磨の左手首にはカッターの歯が当たっていた。そこからじわりと血が、
「な、なんで、」
柊磨の顔は笑っている。その笑った顔のまま、グッと右手に力をいれる。
「ここで死んで、ずーっと彩斗で生き続けてあげる」
ぽたり、と血が床に落ちる。
俺の頭が、真っ白になる。
「ね、答えは、決まってるでしょ?」
こ、たえ。
答えは・・・・・・。
「やっぱり、頷いてくれたよね」
俺は受け入れてしまった。
グッと掴まれた手が熱い。もう離さないと言われているような気がして、俺は恐ろしくなった。だけど、なんでだろう?
俺に執着する柊磨を、俺はなんだか嬉しく思うような気もする。
「僕は彩斗のこと、誰よりも理解してるし、彩斗は誰よりも僕のことを理解してくれてること、僕は分かってるから」
いつものように爽やかに笑う柊磨に視線を向けれなかった。
なんだか、図星のような気もして、俺は柊磨を見れなかった。