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日曜日に凌太からの連絡は無かった。
松本ふみ子との話し合いはどうなったのかと考えてしまうのはやっぱり凌太が好きなのかもしれない。
正人も凌太も母親がクセが強めだ。
そんな事を考えてため息がでる。
そして、また月曜日が来る。
コーヒーを淹れていると宇座課長がやってきた。
ヒマなの?って言ってやりたいけど悲しいかな尊敬できない上司でもヒエラルキーの中では何も言えない。
「離婚したばかりでもう男がいるとはな。それともあの色男が原因で離婚したのか?思った通り奔放な女だったんだ。だったら一回くらいいいだろ?」
そう言って肩に置いた手を滑らせるように背中に這わせる。
怖い。
本当に怖いと思うと声が出ないと言うことがわかったし、うまく逃れる方法が思いつかないほど考えがまとまらなくて頭のなかが空っぽになってしまった。
でも、それを悟られたらエスカレートしそうで声が震えないことを祈りながら声をだした。
「ここには監視カメラがありますよ」
そう言うと背中に回した手でポンポンと叩いて「頑張れよ」と言ってリフレッシュルームを出て行った。
本当にあるのか定かで無かったけど、慌てた事を考えると”監視カメラ”という言葉は抑止力の一つになるかもしれない。
壁に頭をつけて下を向いて大きくため息をついてから頭を上げると深呼吸をしてからデスクに向かった。
翌日、昼食を食べながらラインを確認していると松本ふみ子の投稿が削除されていると里子からメッセージが入っていた。
話はついたんだろうか?
こんな風に連絡が来るのを待っている段階で自分の気持ちがわかってしまうことに母との話が思い出されて苦笑してしまう。
頭を切り替えないと。
明日、Ryoさんと会う前に里中くんからいくつかのイラストの入ったUSBを提出された。その中には、ギフトBOXを持ったクマ、ハートで表現された宇宙、花とうさぎ、シンプルなラインだけで構成されたタータンチェックをベースにしたものなど8点ほどのデザインが入っていた。
うさぎのイラストを見て、先日気になったあのイラストを思い出した。
何となく落ち着かない動物家族のイラスト
「奥山さんどうです?」
「ふぃにゃい」
泣いている虎の子と窓から覗くハイエナを頭の中で映像化しているときに不意に声をかけれて変な声を出してしまった。
「なんか子猫ぽいですね」と言いながら笑う里中くんに「子猫って」と笑って返した。
「会議にかけて絞って行こうと思うけど宇宙が何気に好きかも」
「それ可愛いですよね、ただ年齢層は限られそうです」
「そうね、三種類のデザインを考えているから無難なものにこういうのが一つ入ってもいいかなって思けど、他の人の意見も聞かないとね。それより、明日がたのしみね。SNSを見ても本人の顔は出てないから。ただ、セレブっぽいのかな?って感じはする」
「あ、それ僕も思うんですが、メッセージのやり取りはすごく気さくな感じですよ」
「そう言えば、リフレッシュルームの近くって監視カメラとかある?」
「防犯カメラね」
と言い直して里中くんは笑っている。
監視カメラと防犯カメラ言い方の違いでイメージは雲泥の差だ。
「リフレッシュルームに向けているわけじゃ無いですが映っている可能性があるのはありますよ。何かありました?」
いい年して背中を撫でられたくらいで騒ぐのも大人げ無い気がするし、言おうかどうか迷っていると「自分が嫌だと感じたらそれはセクハラですよ」と言われ昨日の事を話した。
「ああ、あの日のかっこいい人。ウッザーは負けた気になったんすかね?完敗ですけど」
「里中くんってハラスメントに対してすごく積極的というか」
「いや〜社会人になって本当にそんなことがあるんだなと思って、ははは」
「なんか怪しい」
「怪しく無いですよ」と言ってそそくさと自分のデスクに戻って行った。
怪しいですと言ってるようなものだと思う。下手に目立つと宇座課長に目をつけられるかもしれないと心配したけど、里中くんのバックには総務部長がいるとなるとその心配はなさそうだ。
でもやっぱり、ちょっと謎だわ。
先日の事もあり、帰りは最後にならないようにしているが、お陰で落ち着かない。
人事とかに相談をするべきだろうか?ただ、相談をした事が宇座課長にバレてその上、宇座課長が上手く逃げてしまえば私がここにいられなくなってしまう可能性がある。
この仕事は好きだし、なにより課長のせいで移動とか退職は嫌だ。
残っている人達に「お先に」と声をかけて会社を出る。
スマホを見ると凌太から連絡が入っていた。
[土曜日に話がしたい]
会って話しをしたい。
自分の気持ちを認めてから凌太の連絡を待っていた。
松本ふみ子とどんな話しをしたのか、もしかしたら彼女に情がわいたかもしれない。
そんな風に考えると会うのが怖かったりもするが、それ以上にやっぱり会いたかった。
[わかった]
返事のメッセージを送るとすぐに着信が入る。
『そんなに日にちは経ってないのに、長く感じた。そして、声が聞きたかった』
反則だ
「話はついたの?」
『話したよ。嫌な気持ちにさせてごめんな』
「そうね」
『やっぱり否定はしないよな』
「だって事実だもの」
『本当にごめん、土曜日に直接話しをするよ。10時に駅でいい?』
「わかった。じゃあ」
凌太の『ああ』という言葉のあとすぐに通話を切った。
色々と考えることはあるけど、まずは仕事だ。
そして水曜日
「はじめまして、SNSをいつも拝見してます」
そう言って目の前の男性に名刺を渡す。
失礼な言い方をすれば、特に目立ったところはないどこにでも溶け込みそうな雰囲気の感じがいい青年。
何処に居ても目立つ凌太とは対極にいるような感じだ。
って、なんでここで凌太を思いだすのかなあ。
慌てて思考を目の前のRyoへ移すと私の名刺を見て一瞬一重の切長の目が大きく開いた。
何だろう?と思うまもなく先ほどまでの“感じのいい”表情に戻った。
「奥山瞳さん、姿同様に綺麗な名前ですね」
セレブ特有の社交辞令なのかしら?だとするとちょっと寒いと思いつついつもの営業スマイルで「光栄です」とだけ返す。
里中くんは先日会った時に名刺を渡しているらしく、隣で里中スマイルを放射している。
Ryoさんはポケットから名刺入れを取り出すと名刺入れの上に名刺を載せて差し出す姿は営業慣れをしていそうに見える。
「イラスト関連では名刺とかは無いので、会社の名刺をお渡しします」
そう言って渡された名刺には
株式会社甲斐商事
甲斐Eg事業部
主任 三島 亮二
と書いてあった。
父もだけど、やけに甲斐商事と縁がある。