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アゼルとカインが一騎打ちをしている裏で、敵陣に突っ込む形となったレミアルの前にアーサーが立ちはだかる。
白銀の甲冑で全身を覆う重装備のレミアルとは逆に、アーサーは軽装の黒い鎧。そして漆黒の長剣をレミアルの喉元に突きつけている。
「レミアル将軍、軍人としては惜しいが……ここまでだな」
アーサーは光を宿さない灰色の瞳に冷酷さを滲ませている。前世の記憶がなく真面目な『戦バカ』であるアーサーはレミアルを敵としか見ていない。
事前にレミアルは味方だと手紙で伝えたはずだが、根っからの軍人のアーサーは敵国の将軍を信用するはずがなかった。
しかし、レミアルはアーサーと戦いたくない。やっと会えた運命の人なのだから。
「アーサー殿、私は戦いに来たのではない」
レミアルは武器の長剣を手から離して地面に落とす。この行為は戦いを放棄したと同じ。そして両手で兜を持ち上げて外すとレミアルの素顔が現れる。
ブラウンの美しいショートボブと、同色の優しい瞳。中性的で柔らかい顔立ちは軍隊の頂点に立つ無骨な将軍のイメージとは程遠い。
「どうか思い出してほしい。私の顔に見覚えはないか?」
レミアルは心臓を高鳴らせながらアーサーの反応を待つ。まるで告白の返事を待つ乙女のように。
アーサーはレミアルの素顔を初めて見るが、表情すら変えない。そして返答は短い一言。
「見覚えはない。趣味ではない」
それを聞いた瞬間にレミアルの胸は堪え難いショックの痛みを受ける。アーサーは前世を覚えていないだけではなく、面と向かって『好みではない』と言ったからだ。
レミアルはがっくりと膝を折って地面に両膝をついた。武器を捨て、兜を脱いだレミアルはもう戦えない。弱々しく唇を動かす。
「……もういい。私を斬るがいい」
意気消沈したレミアルを冷たく見下ろすアーサーだが、その瞳に殺意はない。戦意を失った者にとどめを刺すほど非情ではない。
その頃のアゼルはカインとの一騎打ちとなっていた。しかし自己暗示で強化されたつもりのアゼルと、最強の聖女の力で強化されたカインとでは力の差は歴然。
黄金の光を纏ったカインの剣が、体勢を崩したアゼルの脇腹を斜めに切り裂いた。
「ぐぅっ……!」
「ははっ! 強化しても、その程度の力……やっぱりエリーゼ様は偽物だね!」
「黙れ!! エリーゼはオレの最強の聖女だ!!」
アゼルは傷口を片手で押さえるが、指の隙間から血が流れ出るほどに出血量が多い。
距離を取って後方で戦いを見ていたエリーゼは衝動的にアゼルに向かって駆け出す。
「アゼルッ!!」
聖女の能力がない自分が加勢に行っても足手纏いになるだけなのに、なぜアゼルの元へ向かってしまうのか。
エリーゼは自分自身に戸惑いながらも、ただ『アゼルを守りたい』という心が先行して足が動いてしまった。
「……エリーゼ!?」
気配に気付いたアゼルは『来るな』と言いたげな顔で後ろを振り返ったが、エリーゼの足は止まらない。カインには思うところがあるのか、深追いはせずにその場に留まっている。
やがてエリーゼがアゼルの胸に飛び込むと、二人はしっかりと抱き合う。脇腹の負傷の痛みでアゼルが微かに顔を歪めるが、すぐに魔王らしい不敵な笑いを浮かべる。
「なんだ、エリーゼ。そんなにオレが愛しいか。あとで抱いてやるから大人しく待ってろ」
エリーゼは青の瞳を潤ませながら、決して炎を絶やさないアゼルの赤い瞳に近付いていく。
「アゼルが勝ったら抱かせてあげる」
こんな時でもエリーゼは心に反して素直に『愛してる』と返せない。溺愛だけでなくツンデレの呪いにでもかかっているのだろうかと、エリーゼはそんな自分が憎いと思う。
でもアゼルは言葉以上に愛を望んでいる事は分かっている。だからこそエリーゼは言葉ではなく愛で返す。
(そうよアゼル、あなたが愛しいから)
言葉では言えない愛を心で囁きながら、エリーゼはアゼルに唇を深く重ね合わせる。その瞬間、エリーゼの全身が黄金色の光に包まれて、唇で繋がっているアゼルをも一緒に包み込んでいく。
その光を見て驚いたカインが振り返り、後方のセレンに問いかける。
「セレン、あれは聖なる光なのか!? エリーゼ様の力なのか!?」
セレンはカインの側へと駆け寄ると、認めたくない事実の光景を見て顔をしかめる。
(あれは聖女の能力『治癒』……)
しかもセレンを遥かに上回る聖力なのは一目瞭然。それは、聖女の能力を持たないはずのエリーゼを虐げてきたセレンにとっては屈辱でしかない。