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「では、トカゲの解体をお願いできますか。もちろん代金はお支払いいたします。そして、良ければ皆さんも一緒に食べませんか? おそらく俺たちだけでは食べきれないので」
「えっ、本当ですか? それは願ってもないことです」
馭者をしていた旦那さんの顔が急に明るくなった。
「それは是非ともご一緒させてください。申し遅れましたが私は『モンソロ』の行商人で マクベ と申します。こちらの準備が終わりましたらそちらへお伺いします」
「はい! 宜しくお願いします」
そう言って俺は踵を返した。
竈のある所まで戻ってくると先ほどまで座っていた岩に腰を下ろした。
「こいつは『カモドオオトカゲ』っていうんか。顔もないのによく分るもんだな」
そう呟きながら冷ましていた白湯を水筒に移し、また新たに水をフライパンに入れ火にかけた。(水筒は2つ所持してます)
ん~、人数も増えるし薪が少ないかもな。 もう少し集めてくるかな。
空を見上げるとうすい夕焼け色、暗くなるまで1時間というところか。
俺はせっせと薪を拾い集めていく。
林を2回往復したところでマクベさんがこちらにやってきた。おそらく隣が奥さんだろう。
そしてもう一人。弓を持った女性がこちらに向かってきていた。
解体するところを見たかったのだが、薪の量が少々心許ないのでもう少し頑張って集めることにした。
解体の方はマクベさんに任せ、更に2回往復したところでかなり暗くなってきた。
簡易竈まで戻ってくると解体はすでに終わっていた。トカゲの肉っておいしいのかな?
薪拾いで疲れたし、お腹が減っているのですごく楽しみだ。
シロも待ち遠しいのか足をふみふみして待っている。――可愛い。
竈を囲むようにみんなで座っている。
俺は地べたに薪を数本並べ、その上に畳んだままの毛布をのせ胡坐をかく。
辺りは薄暗くなってきたけど、この気候なら凍える心配はなさそうだ。それでも夜間は冷えるだろうが。
フライパンに入っている白湯を飲んで、ふぅ~と一息いれた。
隣でお座りしているシロの前に俺が飲んでいたフライパンをそのまま置いてやる。
今度、うつわやコップなども買い揃えないとなぁ。
前の竈では奥さんが手慣れた感じで捌いた肉を焼いている。
「いや~、一人で薪集めをさせてしまい申し訳ない」
マクベさんが横に座ってきた。
「いえいえ、ついでですから。あっ、それで解体料はいくらになります?」
「ああ~、それは頂かなくても結構です。こんな素晴らしい肉を分けてもらえるのですから。こちらが払いたいぐらいですよ」
笑って返されてしまった。
「そうなのですか! ありがとうございます。それでは存分に食べていってくださいね」
「それでゲンさん、紹介いたします。こっちが カイア 私の妻です」
「ゲンさん、カイアでーす。お肉ありがとねー」
トングを振りながらカイアさんが笑顔で挨拶してくれた。
年の頃は20代前半、赤毛で元気よさげな人だ。
「ゲンです。そしてこっちが従魔のシロ。よろしくお願いします!」
簡単に自己紹介して返す。
「そして、あちらにいるのが私たちの護衛を務めるCランク冒険者の コリノ さんです」
「…………」
コリノさんは無言で何も言ってこない。
「ゲンです。こちらはシロ」
とりあえず頭だけ下げておいた。
ちょっと気難しい人なのかな。
んっ、暗くなって見えづらいが耳の形が違うような……。
いま目線が合ったのだが、すぐに逸らされてしまった。――あらら。
まぁ、会ったばかりだし、警戒されるのはあたり前だよな。
特にこんな世界では油断すれば即命取りになるからね。
その点いくと商人は喋らないと仕事にならないからなぁ。
だから、その言葉の中で判断していくのかもしれない。
騙し騙されることも、人による悪意も、こちらの世界だって同じだろうし。
「それで、ゲンさんはどちらまで行かれるのですか?」
「えっ……? え~と、俺はこの国に来たばかりなので何も知らないんですよ……」
わぁちゃー、それは当たり前の質問だから当然聞きますよねぇ。
『違う世界から来ました』と正直に言う訳にもいかないしな。どーすんのよ。
こういう時ってラノベに出てくる主人公たちはどうしているんだろう。
やっぱりイベントかー。 テンプレ・イベントが起きないとダメなのか?
道行くお姫様の馬車がオークやゴブリンに襲われていないとダメなのか?
「ゲンさ~ん、ゲンさ~ん、もしも~し。大丈夫ですか~」
「はっ、はい! すいません。何でしょうか」
いかんいかん、また物思いに耽っていたようだ。
「あ~よかった~、何回も呼んでいたんですよ~。はいお肉! 美味しく焼けてますよ~。そして、こっちはシロちゃんの分ですよ~♪」
「すいません、少し考え事をしていました。ありがとうございます」
お礼をいって、肉の乗った皿を2つ受けとった。
うん、すご~くいい匂いだ。
シロも隣でそわそわしている……。っておい、よだれよだれ!
肉の入った皿をシロの前に置いてやる。まだよー、まだよー、
「よし!」
言うやいなや、シロは肉に齧りついていた。よく噛んで食べるんだぞぉ。
それでは俺もいただくとしますか。
いただきまーす。
「おおー、これは旨いですね」
「そうでしょうとも。こんなに上等な肉は町に居てもなかなか口にできませんからねぇ」
マクベさんは奥さんから肉の皿を受け取りながら話してくれた。
ふ~ん、あのトカゲって意外と高級食材だったんだね。
それからは、焼いては食べ 焼いては食べ と明日の朝食の分を残して殆ど食べきってしまった。
皆さん食べましたねぇ~。
あのトカゲっておそらく20キロはあったと思うんだけど、解体して肉だけになったとしても7~8キロはあったはず。
まぁ、みんなで美味しく頂いたのだから良かったよね。
そのあとに、ミード (お酒) を勧められたのだが一口だけいただいてあとは遠慮した。
シロは食事に満足したのか、今は俺の膝上に頭を乗っけてお休み中である。