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そのあと、中原が少しなら食べられそうな感じになってきたので、なにか作ることになった。
「おかゆがいいんじゃないか?」
と貴弘が言い、
「雑炊の方が栄養があっていいんじゃないですか?」
と飯塚が言い、のどかが、
「酒茶漬けなんてどうですかね?
あったまりますよ」
と言った。
そんなあったまるか? という顔をしたあとで、貴弘が、
「鮭あったか?」
と訊いてくる。
「え?
酒だけはいっぱいあるじゃないですか、うち」
「……待て。
もしや、鮭茶漬けじゃなくて、酒茶漬けか」
貴弘は、鮭茶漬けの素、もしくは、本物の鮭、のつもりで訊いたようだった。
「美味しいらしいですよ、酒茶漬け。
ご飯に燗したお酒かけて食べたら、体温上がりそうじゃないですか。
卵酒みたいで」
「じゃあ、卵酒にしろよ……」
と貴弘に言われ、鍋焼きうどんにした。
「卵酒、何処行ったーっ」
と言われながら。
いや、そういうときってあるではないですか、と店の方のキッチンに立ち、のどかは思う。
酒茶漬けがいいと思ったのに、じゃあ、卵酒でいいじゃないかと言われ。
でも、卵酒、ご飯じゃないし、お腹にたまりそうにないよなーと思って。
身体があったまる定番の鍋焼きうどんになったのだ。
「いい匂いだな」
と背後から言われる。
することがないからか、腕を組んで立つ男三人にのどかは取り囲まれていた。
鍋焼きうどんを作る姿を監視されているかのようだ。
「あ、じゃあ、お夜食にみなさんのも作りましょうか」
と言いながら、のどかは小さな土鍋を更に四つ出してくる。
自分も食べたくなったからだ。
「土鍋、いっぱいあるんですね」
と飯塚が言ってきた。
「雑炊出すのに使おうと思って買ってたんです」
それでこっちのキッチンにしたのだ。
中原が寝ている部屋の近くのキッチンでガチャガチャやるとうるさいからというのもあるが。
「まだメニューあやふやなのに、食器だけ増えてってないか?」
と貴弘に言われ、
いやだって、食器選ぶの楽しいんですよ、と思う。
のどかが、かなり適当に醤油を入れるのを見ながら、
「どうして、この作り方で美味しそうな匂いがするんだろうな。
すごいな鍋焼きうどんって」
と八神が言ってきた。
……なんだろう。
私が一生懸命作っているのに、すべての手柄を『鍋焼きうどん』というメニューと古来より伝わる(?)レシピに持ってかれた感じですよ、とのどかは思う。
鍋焼きうどんであるならば、誰が作っても美味しいという風に聞こえなくもないからだ。
「そういえば……」
とのどかは語り出す。
「子どもの頃から通っている、うちのかかりつけのお医者様は、お腹の調子が悪いときには、うどんはよくないって言うんですよ。
意外と消化に悪いから。
でも、それは先生が食べてるうどんが立派なうどんだからじゃないかと思うんですよね~」
とのどかが一応、味見しながら言うと、貴弘が真後ろから、
「なんだ、立派なうどんって」
と訊いてくる。
「いや、コシがある、高いうどんってことですよ。
ちなみに、これはお昼に焼うどんにでもしようと思って、私がスーパーで買ってきてたうどんなんですけど。
ちょっと煮たら、くたくたになりますよ。
でも、味がよくしみていいんですよ~」
と言いながら、うどんを投入すると、
「それ、今、かちこちに凍ってなかったか?」
と貴弘が言う。
「冷凍してたんで」
「解凍したり、別に茹でたりしてから入れるんじゃないのか?」
「そのまま投入していい冷凍うどん。
何処かに売ってた気がするんで、いいんじゃないんですか?」
と言ったが、
「いや、何処かにって何処にだ」
と貴弘はうるさい。
仕事でも細かいが、このなんちゃって妻の手料理にも細かいな。
なんか今こそ離婚したくなってきたぞ、と思うのどかに、追い打ちをかけるように、八神が暴露してくる。
「いや、こいつ、冷凍やきそばもそのままフライパンに突っ込んで、ほぐしてたぞ」
だが、そう言った八神をのどかではなく、貴弘が攻撃した。
「それ昼だろう。
なんでお前ひとりがのどかに昼ごはん作ってもらってるんだ」
「いや、たまたま帰ってきたからだよ。
っていうか、雑草カフェになったら、会社の昼、此処に食いに来たりするんだろ。
いいじゃないか。
っていうか、お前、凍ったまま適当に作られた焼きそば、そんなに食べたいか?」
……いや、手抜きは認めますが、急いでたんですよ。
っていうか、まずかったんですか、八神さん、とか考えている間に、鍋焼きうどんは出来上がっていた。
とりあえず、最初にできた分を、のどかは中原のところに運んでいく。
「すまないな……」
とちょっと申し訳なさそうに言った中原は、うどんを食べ、一口レンゲで汁をすすると、
「うん。
美味い!」
と驚いたように声を上げた。
「せっかく作ってくれたんだから、少々まずくても褒めなければと思ってたんだが」
もしもし? 中原さん?
「だが、これは、今まで食べたお前の料理のなかで一番美味いぞ、胡桃沢っ。
そうだ、これをメニューにしたらどうだっ」
……いや~、褒めていただいてありがたいんですが。
これ、何処にも雑草入ってないんですよね~、と思いながら、のどかはすぐに完食した中原から土鍋を受け取り、キッチンに帰った。