「でも、やっぱり。オレは素の透子さんでオレに素直に甘えてほしいです」
「・・・確かに。そりゃそうだよね」
「はい。なんか卑怯ですよね。男としては正直甘えられるのも嬉しいし、素直な彼女見れるのは嬉しいですけど」
「そだね。じゃあ、頑張りな。透子を好きにさせて、素の透子で甘えてもらえるように」
「はい。頑張ります」
「よし。あ~あ、透子また寝ちゃった。透子~はい、バッグ持って~」
「あっ、オレ持ちます」
「そっ? ならお願い」
片腕は彼女にしがみつかれたままで、もう片方の腕で自分の荷物と彼女のバッグを持って席を立つ。
でも、さすがに今のこの状況は嬉しいながら、なんかまだ彼女の気持ちがないのが不本意で。
そして彼女にもなんか悪い気がして。
しがみつかれていた腕の力が緩んだタイミングで、彼女の両腕を支えながら席を立たせる。
「あっ、今日の代金は透子におごらせるから。今日介抱してもらうお礼ってことで」
「あっ、すいません。ありがとうございます」
「大丈夫? 一人でいける?」
「大丈夫です」
彼女を片手で支えながら美咲さんに答える。
「じゃあ、透子よろしくね」
「はい。ごちそうさまでした」
「うん。またね」
「また」
そして美咲さんに挨拶した後、彼女を抱えて店の外へ。
幸い車の通りも多い場所なので、店のすぐ前で走っていたタクシーを拾って、彼女を先に乗せて一緒に乗り込む。
マンションの名前を伝えて、少し一息つく。
ここまで飲み過ぎたら、いつもはこうやって美咲さんが連れて帰って介抱してあげてるんだろな。
だから、彼女はきっと安心しきって、美咲さんの前ではここまでなるまで飲んだんだろうし。
そして隣で静かに寝ている彼女が、少しずつ体制を崩して、しばらくするとオレの肩にいつの間にか首を傾けて更に深く眠りについてることに気付く。
さすがにそのことに気付いた瞬間ビックリしたけど。
でもこの後何もしないって約束するから、せめてこれだけはこのままで許してくれるかな。
ただ家に着くまでの少しの時間だけ。
せめてこの時間だけ、この幸せを味わわさせて。
せめてこの時間だけ、あなたを感じさせて。
そしてようやくマンションに着いて自宅へ彼女も連れて入る。
リビングのソファーに座らせて、荷物を置いてると。
「お水・・・」
「え・・?」
「お水・・ちょうだい・・」
すると、少し目が覚めたのか水が欲しいと言い出す彼女。
「あっ、ちょっと待って」
急いで冷蔵庫に入ってるペットボトルの水を出して来て、彼女に渡す。
「はい」
「んっ」
「何?」
「フタ・・」
「えっ? 何? 開けてほしいの?」
「うんっ・・・」
うっすら目を開けながらそんなことをねだってくる彼女。
マジか・・可愛すぎかよ。
あまりにも普段の彼女と違い過ぎて調子狂う・・・。
てか、今も半分寝てるし。
大丈夫かよ。
にしてもここまでなるって、マジで心配なんだけど。
これ美咲さんオレだから信じて任せてくれたんだとは思うけど、これまさか他の男にもさせてないよな・・・?
てか、ここまでなかったとしても、こんな酔った状態で声かけられたら絶対ヤバいだろ。
この人、こんな酒飲んでこんなヤバい可愛い状態なるとか気付いてんのかな。
これ男が見たら絶対速攻気持ち持ってかれちゃうヤツだし。
絶対男ならこんなのその気になるって。
はぁ・・・これ絶対心配で不安なヤツだわ・・・。
マジ酒飲ませたくないんだけど・・・。
水飲んでる姿も可愛すぎだし、これマジで誰にも見せたくない。
こんなの余計気持ちがデカくなるだけだ。
この人のことドキドキさせるとかデカいこと自分で言っておきながら、酔って普段と違う姿見て、すでにオレの心臓がかなりヤバいことになってることに自分でもわかる。
ずっと見てただけの人が目の前にいて。
強気に勢いでドキドキさせるとか言って近づいたのはいいけど、いきなりこの急展開は、さすがに女慣れしてるオレでもちょっと戸惑ってしまう。
オレこんな余裕ない男だったっけ・・・?
あまりにも今までの女たちとは違いすぎて。
そんなのと比べるまでもなく、大切すぎる人だから。
逆にこんな状況どうしていいかわからない。
大切なモノ扱うのってこんな大変なのか。
でも、自分の部屋にずっと好きだった人がいるってすげー変な感じ。
酔ってる時にズルいとはわかっていても、ずっと彼女の寝顔を見てしまう。
やっぱ好きだな・・この人・・・。
こんなに好きな人が一つ屋根の下にいて、こんな無防備で目の前で寝ていて。
きっと昔のオレなら、どうにかしていたかもしれないけど。
ホントはめちゃくちゃ気持ち抑えるの大変だけど。
でも。
ホントに大切な人だから。
今は彼女にちゃんとオレのこと信じて好きになってもらいたいから。
それを思って今は我慢。
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