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絶望と浪漫、最高過ぎました🤭 💙の態度は致し方ないとはいえ、♥️くんが変わりに怒ってくれたので私は浄化出来ました〜🙌いつもの2人の立ち位置が逆で、これも好きです。笑 ♥️💛の絡みを見て、無意識に胸を痛める💙に、浪漫感じちゃいました!記憶がなくても、本能で覚えてるというか、求めてるというか🫣 興奮のあまり、長文ですみません🙏💦
藤澤さんかなしいですね...😭 若井さん気狂いますよね、、そりゃあ目覚ましたらあんまし好きじゃない人と付き合ってるんだから。数字にも意味が......?🤔 まじでこのお話だいっっすきです😆😆
すみません、実はこの💙様が見たかったんです🫣そのためのリクエストだったんです、ありがとうございます✨記憶無くして苦手と思ってる人と付き合ってるって知ったらこうなるよねー、そんな態度されたら💛ちゃんツラいよねー、切ないよねーて妄想がこんなにステキに上手にお話にしていただけてほんとに感無量です😭 数字はアレですよね、大事な数字で合ってますか?🥹
記憶喪失の絶望と浪漫の部分です。
若様視点。
見知った別人といった感覚しかない元貴から訳が分からないままに次々と要求を出され、だけど同時にこの無茶振りは確かに“元貴らしい”感じがして、未だに違和感は拭えないながらもすんなりと受け止めることができた。
頭を打って前後の記憶が曖昧な自覚はあったし、そもそも目が覚めたら病院でいろんな検査を受けさせられたんだから、頭になんらかのダメージを受けたことは分かっていた。
自分が同級生とバンドを組んでメジャーデビューをして、Mrs.のギタリストだという記憶はあったけれど、俺に付き添ってくれていた人はマネージャーだと名乗ったのに記憶にない人だったし、医者との会話や先ほどの元貴の「今年で29ね」という具体的な数字、それから押し付けられた雑誌に載っている自分の姿を見れば、今が2025年で、デビューしてから10年目の節目の年だということを、信じがたくても信じるしかなかった。
なんで雑誌には三人しかいないのとか、なんでこんな髪色してんのとか、訊きたいことはいっぱいあったけど、聞いたところで受け入れるのに時間がかかりそうだった。タイムマシンで未来に来るって、こういう感じなのだろうか。
読めと言われた雑誌に全部書いてあるからこれを寄越したのだと分かったから、あれこれと問い掛けるのを我慢していたところに、超特大の意味不明な爆弾を涼ちゃん――“今の俺”の記憶と最もかけ離れた姿をした男が投げ込んだ。
誰と誰が付き合ってて、誰と誰が一緒に住んでるって?
付き合っている彼女とは別れたんだろうなと、なんとなくそう思っていた。今の俺自身の記憶の中でもうまくいっていなかったし、他人の記憶のような感覚だけど、別れたってことを公表したような気がしていたから。でも全てが曖昧で、靄がかかったみたいな断片的なものだったから、手っ取り早くスマホを見て明らかにしたかっただけなのに、こいつは今、なんて言った?
「……は……、なに言ってんの……?」
「まぁ、信じられないよね」
鼻で笑うように吐き出した俺に、涼ちゃんは力なく苦笑しながらそう言った。その大人びた表情が初めて会ったときから俺は苦手だった。急に元貴が連れてきて、なんだこいつという眼を向けた俺を子ども扱いする表情。そのときと全く同じそれが、俺の不安定に揺れる神経を逆撫でした。
「あのさぁッ、俺の記憶が曖昧だからって、言っていい冗談と悪い冗談があるだろ!」
思わず大声で怒鳴りつけると、横に立っていた元貴が涼ちゃんを庇うように前に出た。静かに俺を睨みつける元貴の表情に、怯むように息を呑む。前々から眼力の強い奴だったけど、俺が知るよりもずっと鋭い眼光だった。そこにまた、俺の知る元貴と現実に目の前にいる元貴との隔たりを感じて舌を打つ。
俺を睨み続ける元貴を涼ちゃんが大丈夫だからとそっと押し退け、再び俺の前に立った。随分と伸びた髪を耳にかけ、悲しそうに笑う。なんだよその顔……、俺が悪いみたいじゃんか。
「冗談じゃなくて本当のことだよ。スマホを見たら分かると思うから先に伝えておいた方がいいかなって思ったんだけど」
「……ッ」
それはそうだ。だから俺もスマホを見て今の自分を知ろうとしたんだから。
スマホを開いて彼女の名前があろうがなかろうが、誰と連絡を取り合ってるかくらいは分かるだろうと思って、見たいと要求したのだ。それが一番手っ取り早いだろうと思って。
確かになんの前情報もなくバンドメンバーで自分と同じ男で、しかも苦手としている涼ちゃんと付き合っている証拠みたいな写真ややりとりを見たら発狂していたかもしれない。何かの間違いだと叫んでいたかもしれない。そう思えばこれは彼の優しさなんだろうか。
決して同性愛に偏見があるわけではない。俺にとっては数年前のことだけど、東京ではパートナーシップ制度が導入された。7年が経過した現在ならそのへんはもっと進んでいるだろうし、好きな人と一緒になる権利はどんな人にだってあると思っている。
だからって、なんでよりによって涼ちゃんなんだよ。元貴と付き合ってるって言われた方がまだマシだわ。
俺が失った7年という短くはない期間の中で、俺にどんな心境の変化があったというのだろうか。あれだけ大切にしていた彼女と別れたから男に走ったとでもいうのだろうか。誰でもよかったのかよ、俺。
「……最悪だわ。趣味悪過ぎんだろ」
現在の俺を嘲るように笑みを浮かべてぼそっと吐き捨てた俺の呟きに、一番最初に動いたのは元貴だった。
「おまえ……ッ!」
「元貴!」
勢いよく、そして容赦なく胸ぐらを掴まれ、息苦しさに顔をしかめる。俺のことを殴りそうな勢いの元貴の腕を、眼を見開いた涼ちゃんが必死に掴んで止めていた。
机に乗っていた雑誌が掴まれた衝撃で床に落ちる。
「もときっ! 怪我してるんだから!」
「おまえこそ記憶がないからって言っていいことと悪いことの区別もつかねぇのかよ!」
ボイトレもしないくせになんでそんな声出せんだよ、といつもなら笑い話にする声の大きさで怒鳴られる。こんなふうに怒りの感情を露わにする元貴なんて知らなくて、ゾワッと背中に恐怖が走る。
だけど、怒鳴られても、たとえ殴られたって、俺にとっては到底受け入れ難い事実なのだ。なにが起きたら、なにがあったら、こいつと付き合うってなるんだよ!
息苦しい中でも負けじと元貴を睨み返すと、涼ちゃんが元貴の腕から手を離して後ろから包み込むように抱き締めた。まるで慈しむようにやさしい表情を元貴に向けていて、涙で霞むその光景に息苦しさが原因ではない痛みが胸に走り、眉間にしわを寄せる。
「元貴、大丈夫だから」
「……けどッ」
「おねがい」
涼ちゃんの震える声に元貴の手から力が抜けていく。解放されて僅かに咳き込み、ギッと元貴を睨みつけた。元貴は静かに俺を見下ろして、涼ちゃんが元貴から離れた。元貴が何かを言おうと口を開いたその瞬間、抜群に最悪なタイミングでマネージャーが入ってきた。
「お待たせしまし……って何かありました?」
「……べつに」
ふいっと顔を背けて入れ替わりに出て行った元貴を不思議そうにマネージャーが見つめ、涼ちゃんがなんでもないよ、と笑って床に落ちた雑誌を拾い上げた。
何かあったなと言いたげなマネージャーが、言いたいことを我慢して俺にスマホを差し出した。見覚えのないスマホに俺は“俺であって俺じゃない”ことを思い知る。
それでもこれで知りたいことが知れるはずだ。知りたくないことも知らされるはずだ。
すみませんと受け取り画面をつける。見覚えのある自分のギターのロック画面をスライドすると、パスコードの入力画面が表示された。記憶の中にある数字を打ち込もうとして指が止まった。
「6桁……?」
俺の記憶にあるパスコードで4桁だった。取り敢えず思いつく数字を入力する。解除されることはなく、今度は俺の誕生日を入力する。それもダメだった。彼女の誕生日でもダメだった。ミスしすぎると時間を空けなければならなくなるからマネージャーだという人に視線を向けると、すみません、流石に、と首を横に振られた。
途方に暮れる俺をじっと見ていた涼ちゃんが、
「……031822」
6つの数字を口にした。
「は?」
「違ったらごめん。でも、試してみて。お大事に、また元貴と来るから」
そう言って、やさしく笑って出ていく。酷いことを言ったのに、なんでそんな風に笑えんの?
マネージャーのあなたはいいのかという顔をすると、別のマネージャーがつきますのでと言われて驚いた。話を聞くと、いつの間にか事務所も変わっていて、今の所属事務所はMrs.のマネジメントだけをしているという。この人は俺付きだそうで、今日はこのまま病室の隣室に泊まり込んでくれるそうだ。その事務手続きを済ませてくると病室を出ていった。
雑誌の表紙に載っている文言を見れば、レコ大二冠達成だとか、○○アワード受賞だとか、主題歌賞受賞だとか、華々しい記録の数々にあふれていて、これを俺たちが成し遂げたのだと言われても信じられず、それこそ他人事のような感覚だった。
「031822……だっけ」
一人になった部屋で、独り言のように呟いてその数字を入力する。
「……はは……マジかよ」
パッと開いたホーム画面。
パスコードのロックが解除されたことにも驚きだが、何よりそこに映し出された写真に頭を抱えたくなった。
どう見てもそれは、涼ちゃんの寝顔だった。プライベートでしか撮りようがないようなその写真に、涼ちゃんが言っていた意味を理解する。前情報を与えられずにこれを見たら、俺のスマホじゃないと叫んで投げつけていただろう。
取り敢えずLINEを開くと、元貴、涼ちゃん、事務所、それから見知った名前と知らない名前が混在して並んでいた。外部と接触するなと元貴が言っていたから連絡をする気はないが、彼女の名前を探してみる。当然のように名前はヒットせず、連絡帳からも削除されていた。残念なような、記憶と感覚の一致に安心したような、妙な気分だ。
「……見るか」
涼ちゃんの名前をタップする。
『今日は何時になりそう?』
『夕飯は若井の好きな冷麺だよ! だから頑張って』
『ごめんけど洗剤買ってきてくれる?』
『明日の朝、入りの時間早いから今日はひとりで寝させて』
そんな涼ちゃんからのメッセージに、
『今日は早く帰れそう』
『まじ!? 涼ちゃん愛してる!』
『りょー』
『えー、俺も早く起きるから一緒に寝よ』
とアホ丸出しな俺の返事。
酒によって記憶がない人よろしく身に覚えがなさすぎる言葉に、もう一度マジかよ、と呟いて机に突っ伏した。
心底認めたくはないが、本当に俺と涼ちゃんは付き合っていて、一緒に住んでいたらしい。
かくとだにえやは伊吹のさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを(藤原実方朝臣)
続。
夢と希望のパートはやってくるのだろうか。
明日は多分更新ができません、すみません。