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💛ちゃんの💙への想いがずっと、嬉しいと悲しいがワンセットで、絶望と希望だなと思いました〜🥹 でも、また一緒に暮らすと、💛ちゃんの想いが溢れて壊れちゃいそうで、オロオロ心配してます。笑
ヤバイ…この💛ちゃんも見たくて見たくて😭(私ヒドい人ですみません🤣) 💙様の(現状の記憶の)若さ故の素直さと本来の優しさがより残酷に💛ちゃんを傷つけてますよね😞 絶望パートなのにツラいよねって思いながらニマニマして読んでました笑 いつも更新ありがとうございます!最後にやっぱり魔王カッコイイです😍
最高です!感動しました🥲
意外と用事が手早く片付いたので更新できました。
りょさん視点。
若井の病室を出ると元貴が待っていて、僕よりもずっとつらそうな顔をしていて思わず小さく笑ってしまった。
口では厳しいことを言うし、作詞業もこなし、必要とあれば辛辣な言葉を敢えて選ぶ元貴だからこそ、人が吐き出す言葉にもひどく敏感で、人一倍繊細がゆえに受け止めてしまうのだ。
若井が吐き捨てるように言った本音を僕以上に重く受け止めて、僕よりも先に憤ってくれたやさしいひと。
そんな泣きそうな顔しないでよ。分かっていたことだから。
むしろ若井からしたらほんとしんどいことだと思うよ? 目が覚めたら大切な彼女さんと別れてて、苦手な僕と付き合ってて同棲までしてるなんて聞かされたらさ。
「……涼ちゃん」
「大丈夫だよ」
ふらふらと僕に抱きついた元貴を受け止めて、車に行こうと声をかけ、小さく頷いた元貴と身体を寄せ合って駐車場へと戻った。元貴が引っ付いてくれなかったら、僕の方がその辺でうずくまって泣き叫んでいたかもしれない。
平気そうに大丈夫と口にできる自分に自分が一番驚いている。なにひとつとして大丈夫じゃないのに。
マネージャーネットワークがしっかりと機能していたらしく、若井の容態は僕らを支えてくれる主要メンバーには過不足なく伝えられており、今後の対応の概要を車で待機していたマネージャーから説明を受けた。
スタジオでの出来事だからマスコミにはすでに広まっており、救急搬送されたことはニュースになっている。全ての対応は社長とチーフが行うため、三人での仕事はしばらく若井抜きで二人で行うこと、容体を問われても今検査中で命には別状がないことのみ答えることなどの指示を受ける。記憶障害についてはどの程度で若井が回復するかが分からないため、取り敢えず無言を貫くようだ。
仕方ないという言葉を嫌う元貴だけど、今回ばかりは仕方がないねと頷き、若井の両親への説明には自分も同席することを告げていた。僕もいた方がいいのだろうか、と元貴を見ると、ゆるく首を横に振った。全部背負わなくていいんだよ、と眉を寄せると、そうじゃないから、と微笑んだ。
「明日の収録は全て変更してもらっていますが、どうされますか?」
お見舞いに来るかどうかの確認だろう。先程のやりとりはマネージャーがいないところで行われているから、僕らのことを純粋に気遣ってくれているだけだ。
「そうだね、決めなきゃいけないこともあるし」
僕が迷うことなくそう答えると、元貴が苦々しく顔を歪めた。元貴の表情に気付きながらも僕の答えに頷いたマネージャーは、途中でほっぽり出した現場に戻りますと車を発進させた。
「……元貴も行くでしょ?」
マネージャーには聞こえないくらいの小さな声で訊くと、元貴は唇を尖らせて頷いた。僕と違って幼馴染の二人ならどんなことがあっても大丈夫だよと、元貴の手をぎゅっと握った。
……いやぁ、本当に大丈夫だったわ。
「だーかーらーそこ違うって!」
「わっかんねぇわ! ちゃんと説明しろ!」
「ジャンジャンジャカジャン、ジャカジャンジャカ! はい!」
「あぁん!?」
頭部の怪我以外は大したことがないということで、翌日若井のギターを病室に持ち込んだ。僕らの立場を考慮して特別室を用意してくれているから許されているけれど、あまり騒ぎすぎると流石に怒られそうだ。
でも、ギターを鳴らす若井はいつも通りで、口でリズムをとる元貴もいつも通りで、そこはやはりグループとしては安心材料になった。すぐにステージやレコーディングに戻れないかもしれないけど、近いうちに演奏はできそうだ。合わせとか通し練習には参加しても問題ないんじゃないかな。
気まずい空気になるかななんていうのは杞憂に過ぎず、やっぱり二人は分かり合えるんだなと微笑ましくも寂しくなる。
「あ、大森さん、ちょっといいですか?」
「あ……はーい」
騒ぎすぎに対するお叱りではなく業務連絡で元貴がマネージャーに呼ばれる。僕のことを気にする元貴に行ってきなと手を振ると、小さく頷いて外に出た。途端に少し気まずい空気が流れる。若井は頑なに僕を見ようとしない。まぁそれも仕方のないことだ。
悲しくて泣きそうになるのをぐっと抑えて、なんでもないように若井に話しかける。
「お勉強は進んでる?」
ベッド脇の雑誌を指で示すと、チラリとこちらに目を向けてすぐに逸らす。
「……まぁ。どんだけリリースしてたのかってこととかどんだけ忙しくしてたのかってことは分かった。あと、三人になった経緯とかも」
泊まり込んでくれたマネージャーが眠そうにしていたのはこれが原因かな。状況を知りたがる若井の質問に全部答えて寝不足になったってところだろう。
焦らないでと下手に慰めるわけにもいかない。記憶を失った若井はある意味でとても孤独で、僕のどんな言葉も気に障ってしまうだろうから。
「……元貴、すごいな。なんかどんどん先に進んでる」
ぽつりとこぼれた言葉は、若井の焦りと寂しさを過分に含んでいた。記憶を失っていない、いつも傍にいる僕も抱く感想に、そうだねぇ、と素直に頷く。
若井は遠い過去を思い出すような目をして、苦しそうに続けた。
「これがあのときから思い描いてた世界なのか……」
置いていかれているという恐怖を隠さない声音に、抱き締めそうになるのを手のひらを握り込んで耐える。今の僕は、この若井にとっては気に食わない人間なんだから踏み込んではいけない。
だけど、知っておいてほしい。そんなふうに寂しくなる必要も、恐怖を抱く必要も全くないってことだけは。
「……若井もすごいよ」
「え?」
顔を上げた若井に、にっこりと笑いかける。
「今の曲、聴いたでしょ? あれ、若井が弾いてるんだよ?」
指がもげそうになるギターの旋律。僕らの名を世界に評価させた大切な楽曲。そこには若井の存在も確かにあるんだよ。若井の存在がなかったら、この楽曲は世に出ていないんだよ。だから安心してほしい。
「……実感ないから」
ふい、と顔を背けて返された言葉に、やっぱり僕の言葉は若井に響かないかと寂しくなりつつも、忘れないでほしいから言い募る。
「……元貴、いつも言ってるよ。どれだけ難しい曲を作ったって、できるよ、若井ならって。若井を信じてるから、ああいうの書くんだって。実際モノにしてるしね」
「……ふぅん」
少しだけ明るくなった声にホッとする。僕の言葉は響かなくても、元貴の言葉だと言えば若井の心を多少なり軽くできるだろうという予想は当たったようだ。
「それに、元貴の世界の中に若井もいるから。若井がいなかったら成立しないんだから」
だからどうか焦らないで。
そんな祈りを込めて言葉を伝えると、若井が何かを言いたげに僕を見た。何度か視線をうろつかせたあと、初めて僕にしっかりと目を合わせた。
「昨日はごめん」
「え……」
「元貴の言う通り、言葉は選ぶべきだった。スマホ、あの数字で開いたし、中も見た」
……あぁ、好きだなぁと思う。
きっと謝りたくなんてなかっただろうに、それでも今の若井なりに状況を飲み込んで、元貴の怒りに触れたこともあって僕を傷つけたことを悟って、こうやって直接謝罪ができる潔さは、僕が好きになった若井のままで、嬉しくて悲しくなる。
だって、この後に続く言葉なんて、分かりきっているから。
「でもごめん、今の俺は、涼ちゃんと付き合ってるって言われても受け入れられない」
ほらね。あの数字で開いたって事実が少しだけ僕の救いになって、目の前にいる若井が“僕の恋人の若井”ではないことを僕に刻みつけてくる。僕が愛した彼の声と表情で、僕に絶望を与えてくる。
「……あー……まぁ、そうだよね」
なんと返したらいいのかが分からず曖昧に笑顔を浮かべる。決めなければいけないことは、僕らの関係をどうするか、ということだと昨日から思っているのに、いざ話を進めようとすると心がそれを拒絶していた。それでも若井は強引に、残酷な話を進めていく。
「記憶が戻るか分かんないけど、戻るまでは、その」
「うん、分かってる。今の若井に恋人として接しろなんて言わないよ、安心して」
若井の口から終わりを告げてほしくなくて食い気味に言葉を遮る。少し驚いたように目を瞬かせたが、僕の言葉に硬かった表情を和らげた若井は、言いたいことを言って満足したのか再びギターに触れ始めた。指がもつれて舌を打ち、それでもまた同じところを練習する。僕が知る、僕の好きな若井なのに、僕を見ない、僕を嫌う若井がそこにはいた。
泣いちゃだめだ、まだ。若井の前でだけは、泣いちゃだめ。
「喜べ若井、退院が決まったぞー」
タイミングよくガラッとノックもなしに入ってきた元貴がにこにこの笑顔で宣言した。
一日しか入院していないのに病院生活に飽きていたらしい若井はマジで!? と喜び、
「もう一回検査して、退院は明後日。退院後はできる限り今までと同じ生活をした方がいいってさ」
元貴が続けた言葉に表情を曇らせた。
すぐに顔に出ちゃうところ、可愛いなって思うけど、今はただただ酷いよね。あは、やっぱり泣きそうだ。
「……俺、涼ちゃんと住んでるんだよね?」
「そ。なに、なんか文句あんの?」
「文句じゃないけどさ……」
凄みを効かせた元貴の視線に晒されて、昨日の恐怖があるのか若井が言い淀む。だめだよ元貴、そんなふうにいじめたら。
「ねぇ元貴」
「涼ちゃん、今は黙ってて。記憶戻すためにも以前と同じ生活をすること。異論は認めない」
気まずい沈黙にしんとなる病室。
「……分かった」
少しの間を空けて、休止直前に同居生活を渋々許諾したときと同じ調子で若井が溜息まじりに頷いた。
その態度に僅かに眉を寄せた元貴が僕を振り返って、涼ちゃんもいいね? と念を押す。若井がいいなら僕には元々異論はない。小さく頷くと、元貴はコロッと表情を変えて、弾けたの? と若井に詰め寄った。
「そんな簡単に弾けるかっ」
「弾ける弾ける。若井ならいける!」
再びわぁわぁと騒ぎ始めた二人を眺め、表情だけは笑顔を作って痛む心には必死で気づかないふりをして、終わりを告げるなら、終わりを告げられるなら、僕を愛して僕が愛した若井に伝えたいなぁと、現状叶いそうにない願いにどうにか蓋をした。
今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならで言ふよしもがな(左京大夫道唯)
続。
引き続き絶望パートでした。これ、ちゃんと夢と希望あるのか自分……。