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side黒子②
レジへ彼が消えたかと思えば、そっちから小さく「えっ」という声が聞こえた。そりゃそうだ。世界を誇る赤司財閥の一人息子がいるんだから。それをどうにかする手段なんて持ってないので、知らぬ振りをしてスマホを開く。そしてこれから多用するであろう園の番号を、ショートカットに登録しておいた。あまり慣れない操作に手間取ったが、一応登録が完了したとき、丁度会計が終わったのか赤司君がレジの方からこちらへ向かってきた。
「はい、これ。こんなに少なくていいのかい?たくさん必要になるだろうに」
「いえ、大丈夫です。…あの、というか、レジ大丈夫でしたか?」
「ん?あぁ、問題ない。賢い女性で良かったよ。
…あ、それと。黒子、就職おめでとう。俺からのプレゼントだ」
そう言って彼は細長い箱をこちらへ渡してきた。丁寧にリボンでラッピングされたそれは、手触りがよく見るからに高価そうだった。「で、では…」と立っている彼を見上げ、ラッピングを外す。微かに震える手で箱を開くと、そこにはペンが入っていた。おそらく本物の木で出来た、美しいボディ。磨かれたデザイン。そしてそこに彫られていたショップの名前は、誰でも見た事のある超有名店の名であった。
「……あの…これいくら……」
「聞きたいか?」
「いえ、いいです。ありがとうございます。言わないでください、お願いします」
にこにこと愉しそうな顔を浮かべる赤司と対照的に、黒子は顔を青くして無理に笑顔を作っていた。反応が面白いのかくすくすと赤司は笑い、未だ動かない黒子の腕へ先程買った品物の入っている紙袋をかけた。
「さて、黒子。頼まれてくれるかい」
「え?はい、もちろん」
「お前と座って話がしたいな。どこかカフェでも、バーでもなんでもいい。近く、探してくれる?」
さっきまでの圧は消え去り、目の前にいたのは、可憐な少女顔負けの可愛らしくいたいけな彼だった。こてん、と幼げに首を傾げてこちらを覗き込む様は、どんな男でもイチコロだろう。あぁ、僕も例外では無い。ドッ、とおかしな音を立てて己の心臓は暴れだす。ただ声を出すのに、こんな苦戦するのは初めてだった。震える口で、「はい」と、届くか届かないかギリギリの声を出す。どうやら彼には聞こえたようで「じゃあよろしく」と言って、嬉しそうにくいと目を細めた。
「…今、なんの気分とかありますか?」
「いいや、特には。黒子が気になったところにしてくれて構わないよ、会計も俺が出すし」
「……そーですか…」
反論するのはやめた。どうせまたさっきと同じセリフが彼から飛ぶだけだ。ここは彼に甘えて、ご馳走になろう。…しかし、自分も何か食べたい、というのは決まってない。でも彼の立場((超有名財団の一人息子))を考えると個室の方がいいんだろうか。だって、もし店に入ってきて目の前に赤司征十郎((超有名財閥の(ry))がいたら悲鳴が上がるに違いない。それは避けたい。だがまず彼((超有名(ry ))と歩いている時点で目立つのは決まっている。なら本当にどこでも?…いや、けど絶対に彼((超(ry)) が食事をしてる姿は公に晒されない方がいい。
うーんと先程と同じように悩んでいたが、あまり 彼を待たせるのもアレなので”個室”というワードを入れて、ある程度上品そうな店をいくつかピックアップした。最終決定権は彼に預けようとスマホの画面を彼へ見せる。
「…ここにしようか」
悩むかと思ったが、案外即決だった。ここ、と指された店の場所を調べる。すると、どうやら今いるフロアの2つ下らしい。…それによって彼を連れてこのデパートの中を移動することが決定した。あー、本当に目立ちたくない。自分だけなら良かった。しかし、この男はどうやったって目立つに決まってる。
少しげっそりとしながら目の前の彼へ声をかけて立ち上がる。…うん、確実に僕の方が大き
「何か?」
「イイエ、ナンデモアリマセン」
「よろしい」
キラリと光った彼の瞳が怖い。殺意を感じた、絶対に。気のせいじゃない。
とりあえず店から出て、人の溢れかえるストリートへ足を踏み入れた。
彼も僕の後を着いて足を進めた、瞬間…
「…え、あれ赤司様じゃ…」
店の前を歩いていた女性がそう零した。…うん、まあ目立ちますよね。知ってましたけど。
唐突にデパートに現れた超×n有名人物に辺りが騒がしくなる。
「まって、まじじゃん。うわー、テレビで見るよりずっとイケメン…」
「赤司サマ?!ななな、なんでここに」
「写真撮りたい、写真!絶対自慢する」
きゃあきゃあと抑えめながらも確実にあがる黄色い悲鳴。女性だけでなく男性にも人気のある彼は、その騒ぎを気にせず飄々とした態度をとって僕の隣に立った。
「さ、行こうか。黒子」
勘弁してくれ!!!!!!!こんなの僕のポリシー(?)に反する。もう一人で行ってくれませんかね、マジで。
じろじろとこちら(正確に言えば隣にいる赤司)を見つめる視線がウザったかった。そんな本来生涯感じることの無い初めての感情に動揺する。だが足を止めてる暇は無い。さっさと店に行ってここから逃げ出そう。そう図って進む足を早める。…と、なんということだろう。赤司君の圧倒的スターオーラ故か、まるでモーセが海を渡るがごとし、人の海から道ができていくでは無いか。ぎょっとした。確かにテレビに出るほど彼は有名人だが、こんなに?末恐ろしい子…などと意味のわからない言葉を頭にうかべながら、感情を殺してそこを通って行った。
「黒子、そんなに急がなくてもいいだろう。俺はいいが、お前の体力が心配だよ」
「いいえ、僕はいち早くこの状況から逃げ出したいんです。今だけは僕に付き合ってください」
「あぁ、ふふ。なるほど。いいよ、今はお前の言うことを聞こうかな」
後ろから悲鳴があがった。おそらく彼の、 美麗そのものと言えよう微笑みを間近で、それもリアルで見たからだろう。すたすた、と2人はフロアを駆け(ギリギリ駆けてはいない)、ようやくエレベーターへと乗り込んだ。