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目を開けた瞬間、違和感に襲われた。白い天井。
柔らかすぎるベッド。
見知らぬ部屋。
「ここ、どこ……?」
体を起こそうとして、シーツの感触に気づく。
ホテルだと理解するより先に……
『先輩、おはよう』
低い声が、すぐ隣から聞こえた。
心臓が跳ねる。
「……えっ?」
視線を向けると、同じベッドに佐野くんがいた。
黒髪は少し乱れていて、上半身は裸。
「……なんで」
頭が上手く回らない。
『覚えてへんの?』
佐野くんは穏やかに笑っている。
いつもの、あの人懐っこいワンコみたいな笑顔に見えるのに……
どこか違う。
「昨日、居酒屋出て……それから……」
記憶が、ぷつりと途切れている。
『先輩、ホンマに覚えてへんのや』
そう言って、彼は少し距離を詰めた。
『昨日さ、先輩……』
耳元で囁かれる声。
『可愛ええ声で俺のこと求めてきたんに……』
「……っ」
一気に血の気が引く。
「な、何言って……」
『嘘やと思う?じゃあさ先輩、今の自分の姿見てみたら?』
「……っ///」
見てみると、私も裸だった。
肌に残るかすかな熱と、体の奥に残る甘い疼き。
「……そんなはず、ない……」
声が震える。
『可愛く乱れながら、俺の名前呼んで離れんといてって……』
視線が絡む。
逃げ場を失くしたみたいに、息が詰まる。
『先輩、自分がどんな顔してたか知らんやろ?』
佐野くんの表情が、ゆっくり変わる。
無邪気なワンコの笑顔が消えて、代わりに浮かんだのは……
獲物を逃がさないと言わんばかりの、鋭くて甘い視線。
黒髪の前髪が影を作って、瞳が深く輝いている。
『録音もしてあるし、写真も撮ったで』
「……え?」
『先輩が俺にキスしてくる瞬間とか、俺の首に腕回して甘えてくるとことか……全部』
スマホを手に取り、画面を見せようとする仕草。
私は慌てて手を伸ばして止めた。
「見せないで……!」
『先輩の弱み握ちゃった』
佐野くんの指が、私の顎に触れる。
優しく、でも逃がさないように持ち上げる。
長身の体が少し覆いかぶさるように近づいて、私を見下ろす。
『……じゃあ、俺が思い出させてあげますね?』
甘い声。
でも、そこに選択肢はなかった。
背筋が、ぞくりと震える。
ああ、遅かった。
この人は最初から、従順な後輩なんかじゃなかった。
あの大型犬みたいな笑顔の裏に、ずっと飢えたオオカミが潜んでいたんだ。
完璧な日常は、この朝を境に、もう戻らない。
佐野くんの唇が、私の耳たぶに軽く触れた瞬間……
私は、もう完全に捕らわれていた。