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ティナの存在が地球で公表されて半月が経過した。各国の熱狂はようやく落ち着き始め、専門家達の間では次回来訪時の対応や今後の付き合い方などが激しく議論されていた。
「我々地球人類にとって、最初の地球外生命体が友好的であるのは好ましいことですな」
「SF小説のようなものでなくて良かったよ」
「相手は銀河の反対側から来たのだろう?とても太刀打ちできるような相手じゃないが、マンハッタンの奇跡や記者会見での対応を見るにとても好意的で我々も好感が持てますな」
「アード人との交流は、我々地球人類の発展に大きく寄与してくれるはずだ。いや、今から次回が楽しみだよ」
上記のように好意的な意見が出される中、否定的や懐疑的な意見も少なくはなかった。特にティナの見た目が世間がイメージする天使そのものであることから、主にキリスト系列の宗教界は激しい論争が繰り広げられていた。
「彼女こそ、主が遣わした奇跡の使徒であります。彼女達を受け入れ、共に歩む道を採るべきです」
「彼女には相応な幼さが見えた。つまり子供なのです。彼女を暖かく迎え入れるのは、道義的に正しいことであります」
「あの見た目に騙されてはいけません。主の遣いを騙る悪魔なのだ!遥か彼方から友好的な使者が来るはずもないのです!」
「悪魔の甘言に迷わされてはいけません。悪魔の真意、侵略の野望を正しく理解して備えねばなりません」
宗教界の意見は真っ二つに割れた。アメリカの強い要望でバチカンは声明を発表。
「汝隣人を愛せよ。今こそ主の教えに従うのです。我々は新たなる隣人を暖かく迎えましょう」
この声明はある程度の効果を発揮して、宗教界に多少の落ち着きを与えた。だが、こんな声明が出された故に少数の過激派はより先鋭的になっていく。
「情けない、バチカンは圧力に屈したようだな」
「信者達も悪魔に騙されている。嘆かわしい限りだ」
「ならば我々だけでも正義を示さねば!」
「先ずは情報を集めよ、主の遣いを騙る悪魔を討滅する。これは聖戦である!」
一部の過激派による怪しげな動きもあるが、世界は表面的には平和であった。
アメリカ合衆国では来月に開催される各国首脳会議に向けて調整が進められていた。各国大使を初めとした外交官達は各種調整に奔走、ハリソンを中心に事前の根回しが行われていた。
「異星人に対処する法律などは存在しません。人権の定義すら対象外になります」
「つまり、ティナ嬢を人として扱えないと?」
「はい、些か強引な解釈をするなら彼女は器物扱いにすらなります。それどころか、仮に彼女へ危害を加えたとしてもその者を裁くことすら出来ない可能性があります」
「なんだと!?」
法務長官の言葉を聞いたハリソンは驚愕した。当然である。人権を初めとしたあらゆる法律は地球人を対象としており、ティナを初めとした異星人に対する法は存在しないのである。
「盲点だったな……外交にばかり目を向けすぎたか。国内法の整備はもちろん、国際的な取り決めも急がねばならんか」
「不穏な動きを見せる勢力が存在しておりますからな、早急に対処せねば大問題になります」
「新たな法の準備を進めてくれ。それまでは、超法的措置として、現行の法を拡大解釈して適用させてくれ。ティナ嬢に無用な負担をかけたくはない」
「ただちに」
退室していく法務長官の背を見送り、ハリソンは深くため息を吐いて椅子に身を沈めた。
補佐官のマイケルがそっと好みのコーヒーを差し出した。
「ああ、ありがとう」
「問題は山積みですな、大統領」
「考えたくもない問題ばかりだよ、マイケル。センチネルの存在を公表したとして、人類は纏まるか?」
「無理でしょうな。むしろセンチネルの存在を神聖視するような勢力すら現れて混迷を極めるでしょう」
「やはりティナ嬢の力を借りながらじっくり構えるしかないか。電波の発信についてはどうだ?」
「統合宇宙開発局は全ての発信を停止、個人レベルについては個別に対処しています。ただ、ボイジャー1号及び2号については観測できますが回収は不可能です」
「ティナ嬢に頼る外ないか」
「対価が必要になりますね。彼女の性格を考えれば、求めてくることは無いでしょうが」
「それではアメリカの威信に関わる。次回の来訪時にボイジャーの回収を依頼する。返礼品について直ぐにまとめてくれ」
「畏まりました」
一方異星人対策室では、ある問題が露見して頭を抱える事態となっていた。
「マンハッタンの奇跡、その当事者全員を保護するなんて無理がある…!」
「しかし、やらねばモルモットにされてしまうでしょう。娘さんとて無関係ではありません。いや、むしろメディアの報道で時の人だ」
ジャッキー=ニシムラ(ゴリラサイズ)の報告を受けてジョン=ケラーは頭を抱えていた。事の始まりは、マンハッタンの奇跡でティナから手当てを、正確には医療シートを使って治癒された人間へ民間の研究機関が接触したことに起因する。
高額の報酬を提示しているが、契約内容を精査するとまるで人体実験のような内容であった。医療シートは手に入らずともその効果を得た人体を研究すれば何らかの答えが得られる。
そう考える科学者も少なからず存在するのだ。未知を探求するのが性とは言え、異星人対策室としても無視できる事態ではなかった。
ティナの好意で救われた人々に対して人体実験が行われ、そして露見すれば大問題に発展することは目に見えていた。
「そう言えば、カレンの入院先の病院にも明らかに病院とは関係ない連中が押し寄せてきたわね。採血させてほしいとか、転院を勧めてたわ」
「それは本当か!?」
メリルの言葉にジョンが過剰な反応を見せるが、メリルはそんな兄に笑顔を見せる。
「大丈夫よ、私が追い払ったから。でも、身の安全を確保するのが最優先よ。強行するような輩も居るだろうから」
「FBIやCIA、州警察にも応援を頼むしかあるまい。政府にも法の整備を急がせよう。カレンについては、ここに住まわせるしかないな……」
「胃薬から解放されるのはまだ先のようですな……」
「ミスター朝霧、苦労を掛けるよ」
アメリカ政府はただちにマンハッタンの奇跡で医療シートを使われた人々を保護し、また彼等との研究目的の接触をどんな理由があろうと禁じる布告を出した。
とは言え、この問題はいたちごっこであり解決には問題が山積みとなる。