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Kira
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勇斗side
あの日から、放課後に残ることが増えた。
約束したわけじゃない。
「明日も残る?」
なんて曖昧な言葉のまま、
結局ふたりとも同じ時間に教室にいる。
仁人「またいるじゃん」
ドアにもたれていた仁人が言った。
勇斗「そっちこそ」
ノートを開いたままペンは止まっている。
つまり勉強しているふり。
ほんとはただ、
ここにいる理由が欲しいだけだった。
仁人「今日なにしてたの」
隣の席に座る。
勇斗「普通に授業受けてた」
仁人「いや、それは知ってる」
少しだけ笑いが混じる声。
こういう、どうでもいい会話が増えた。
でもそれが、前よりずっと大事に思える。
仁人「佐野」
勇斗「なに」
仁人「昨日さ」
机に頬杖をつく。
仁人「めっちゃ眠そうだった」
勇斗「寝てないだけ」
仁人「なんで」
勇斗「……」
一瞬、言葉に詰まる。
別に大した理由じゃない。
でも、言いたくなかった。
「スマホいじってただけ」
俺は適当に答えた。
「ふーん」
仁人はそれ以上追及しない。
けど、その「ふーん」は、
全部わかってるみたいで不愉快だ。
仁人「俺さ」
「夜、たまに考えるんだよね」
勇斗「なにを」
仁人「さののこと」
ペン先が止まった。
勇斗「……は?」
冗談にしては、声が真面目すぎた。
仁人「今日どうだったかな、とか」
視線は机の上に落ちたまま。
仁人「ちゃんと笑ってたかな、とか」
胸が、変なふうにざわつく。
勇斗「なにそれ、こわ」
笑ってごまかしたけど、
ちゃんと笑えてる気がしなかった。
仁人「だよね」
仁人も軽く笑う。
仁人「でも、考えちゃうんだよ」
その声は、やっぱりどこか本気で、
どこか悲しそうな響きだった。
それから少しして、
文化祭の準備が始まった。
教室は一気に騒がしくなる。
同級生「佐野ー、こっち手伝って」
勇斗「はいはい」
呼ばれて立ち上がる。
ふと見ると、
仁人は別のグループで
楽しそうに作業していた。
その姿を見て、なぜか少しだけ
距離を感じてしまう。
いつも通りだと、
そう思うのに、胸の奥がざらつく。
放課後
いつもみたいに教室に戻ると、
誰もいなかった。
準備でみんな残っているはずなのに、
この教室だけぽっかり空いている。
勇斗「……あれ」
少しだけ拍子抜け。
机に座って、窓の外を見ると夕焼けが
広がっている。
でも今日はなんとなく落ち着かない。
そんな時、急にドアがガラッと音を成す。
「いた」
振り向くと、仁人が立っていた。
少し息が上がっている。
仁人「探した」
勇斗「なんで?」
仁人「いないと思ったから」
勇斗「今日は準備あるんじゃねぇの」
仁人「抜けてきた」
勇斗「は?」
仁人「いいから」
そう言って、いつもの席に座った。
少しだけ沈黙し、静寂が流れる。
でも今日は前みたいな静けさじゃない。
どこか張り詰めている。
「佐野さ」
仁人が口を開いた。
仁人「今日、あんま喋んなかったじゃん」
勇斗「普通だろ」
仁人「普通じゃない」
即答。
仁人「避けられてるかと思った」
そんな言葉に、思わず顔を上げる。
勇斗「そんなわけないだろ」
仁人「じゃあなんで」
勇斗「……」
答えられない。
自分でもわかっていないから。
ただ、吉田が楽しそうにしてるのを見て、
勝手に距離を感じただけ。
そんなの、言えるわけない。
「別になんでもないけどさ」
結局、それしか言えなかった。
しばらくして、仁人が小さく息を吐くと
「そっか」
それだけ言って、立ち上がる。
「戻るわ、準備」
ドアに向かって歩いていくその背中を見て、なぜか焦りを感じた。
勇斗「……仁人」
呼び止めたはいいものの、
仁人「・・・なに」
勇斗「……」
言葉が出てこない。
でも、このまま行かせたら、
たぶん何かが変わる気がする。
勇斗「明日も、来る?」
やっと出たのは、それだった。
一瞬だけ、仁人が目を見開いたけど
その後少しだけ笑った。
「行くよ」
短い返事。
でも、その声はちゃんと戻っていた。