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文化祭当日。
教室は人でいっぱいだった。
「いらっしゃいませー!」
クラスの出し物で忙しく動き回る。
ふとした瞬間に、
仁人の姿を探してしまう自分がいる。
(なにやってんだろ)
自分で呆れる。
でも、探すのをやめられない。
「佐野!」
後ろから声がし、
振り向くとそこには仁人がいた。
仁人「交代!」
勇斗「え、もう?」
仁人「休憩入っていいって」
勇斗「まじ?」
仁人「まじ」
そう言って、さりげなく腕を引かれ
一瞬だけ、距離が近くなる。
すぐに離れるのに、その感覚だけが残る。
外に出ると、少しだけ空気が涼しかった。
勇斗「疲れたー…」
仁人「顔にもろ出てる笑」
勇斗「うるさい」
仁人「でもさ」
少しだけ真面目な声になる。
仁人「今日、ちゃんと笑ってた」
その言葉に、心臓が跳ねた。
勇斗「……なにそれ」
仁人「いや、なんとなく?」
仁人は空を見上げる。
仁人「よかったなって思っただけ」
その横顔を見て、佐野はふと思った。
(ああ、やっぱり)
俺の居場所は、ここなんだと。
言葉にしなくても伝わるものと、
言わなきゃ伝わらないものの間で揺れながらそれでも確かに、
俺たちは同じ場所に立っていた。
文化祭が終わったあと、
学校は一気に静かになった。
あれだけ騒がしかった教室も、
今は元通りで、
机と椅子がきちんと並んでいるだけの
ただの場所に戻っている。
でも、俺にとっては違った。
勇斗「……いる」
ドアを開けると、
もうそこに仁人がいる。
仁人「おそ」
勇斗「今来たとこだし」
いつものやりとり。
でも、文化祭が終わってから
少しだけ何かが変わった気がしていた。
仁人「佐野」
勇斗「なに」
仁人「最近さ」
仁人はふと真面目な声を出す。
仁人「前より、ちゃんと笑うよね」
勇斗「……そう?」
仁人「うん」
あっさり頷く。
仁人「いいと思う」
その一言で、胸の奥がじんわり熱くなる。
勇斗「なにそれ、上から」
仁人「別に上からじゃないし」
少しだけむっとした顔をする仁人に、
思わず笑ってしまう。
その瞬間、
仁人「あ、今の」
仁人が言う。
仁人「それ」
勇斗「なに」
仁人「今の笑い方、好き」
一瞬、時間が止まる。
「……は?」
聞き返すしかできなかった。
仁人「いや、だから」
仁人は一切照れずに続けた。
仁人「作ってない感じでいい」
勇斗「……」
何も返せない。
言葉が追いつかない。
心臓が、うるさい…
その日から、
少しずつ距離感が変わっていく。
触れるか触れないかの距離で
座ることが増えたり、
何も話さない時間が長くなったり。
でも、不思議と気まずくはなかった。
むしろ前よりも自然だった。
ある日、珍しく仁人が来なかった。
勇斗「……来ない」
時計を見るともうとっくに
いつもの時間を過ぎている。
(部活か?)
そう思っても、なんとなく落ち着かない。
机に座っても全然集中できない。
外を見たり、廊下の音に反応したり。
でも、来ない。
「……なにやってんだろ」
ぽつりと呟いたその時、
ガラッ、とドアが開いた。
仁人「ごめん!!」
息が少し上がっている。
勇斗「遅い」
自分で思ったより強い声が出てしまい
少し驚いた。
仁人「悪い」
勇斗「……別に」
露骨に目を逸らしてしまった。
安心したのがバレたくなかった。
仁人「ちょっと呼ばれてて」
座りながらそう淡々と仁人は言う。
勇斗「誰に」
仁人「女子」
一瞬で空気が変わるのを、
この身で感じた。
勇斗「……ふーん」
それしか言えなかったが
仁人「告白された」
さらっとこいつは続ける。
勇斗「で」
「どうしたの」
仁人「断った」
即答だった。
勇斗「……なんで」
聞いてから後悔した。
なんでそんなこと聞いたのか、
自分でもわからないが。
仁人は少しだけ考えてから話し出した。
「他に、気になるやついるから」
――呼吸が止まった。
「……へえ」
俺は精一杯、平静を装う。
「誰」
軽く聞いたつもりだった。
でも、声は少しだけ震えていた。
仁人は、すぐには答えなかった。
ただ、じっとこっちを見ている。
その視線に直ぐに耐えられなくなって、
目を逸らした。
いつもは目なんて合わないくせに
こういう時だけ吸い込まれそうな瞳で
こっちを見てくる。
仁人「……言わない」
勇斗「なんで」
仁人「言ったら、たぶん」
少しだけ言葉を探していたが、
「今のままじゃいられなくなる」
その一言で、全部察してしまった。
(ああ、そういうことか)
胸がぎゅっと締め付けられる。
でも同時に、
どこかで納得している自分もいた。
その日は、それ以上踏み込まなかった。
踏み込めなかった、
の方が正しいかもしれないが。
それから、少しずつすれ違いが増えた。
前みたいに自然に話せない。
距離も、微妙に遠い。
何かが壊れたわけじゃない。
でも、確実に変わってしまった。
#ご本人様とは一切関係ありません
Kira