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つい、数時間前まで、私は愛しい人の熱に抱かれていました。
「愛している」
と、聞いているだけで落ち着く声で、囁かれていました。
だけど今、その人は氷のように冷たく、石像のように全く動かなくなってしまいました。
次も貰えるものだと思っていた彼の愛が、露のように消えてしまったのです。
全ては、私のせいです。
本当ならば、死ぬのは私のはずでした。
そのまま大人しく、朽ちていれば……オリバーをこんな形で死なせることはありませんでした。
私は、自分を呪いました。
何故、浅ましく私なんかが生き残ってしまったのでしょうと。
オリバーを失ったのは、神様が決めた命の期限を破ろうとした罰なのでしょうか。
私は毎夜、オリバーに愛された日のことを思い出しては悔やみました。
そして、オリバーの体を土に還してから暫くしてから、私はあの泉に行きました。
オリバーの後を追うために。
泉は、オリバーと恋人になった日と、何も変わらない美しい姿をしていました。
唯一違うのは、オリバーがこの世界に存在しないことだけでした。
「オリバーに会いたい……」
私は、泉の中へと入りました。
このまま進めば、あっという間に底がない水の中に引き摺り込まれることでしょう。
そうすれば、意識など、あっという間に消え去り、私は死者の仲間入りができることでしょう。
そうして、私のお腹まで泉の水面が来た時のことです。
ぽこん。ぽこん。
私のお腹の中から、何かが蹴り上げる感覚がしました。
自分の細胞以外の何かが、私に向かって存在を主張しているのが分かりました。
この時になって、ようやく思い出しました。
「赤ちゃん……いるんだ……」
そう。
オリバーと最初で最後に愛し合った時、確かに赤ちゃんが宿っていたのです。
私のお腹は、気付かぬ内にあっという間に大きくなっていたのですが、私はちっとも気づいていなかったのです。
「あっ……どうしよう……」
泉の水温はとても冷たく、このままでは赤ちゃんが死んでしまうと思いました。
「いけない、早く……戻らなくては……」
さっきまで、オリバーを追いかけたいと思っていた私の心も本当でした。
ですが、オリバーとの間に芽吹いてくれた赤ちゃんの命を、私はどうしても守りたいと思いました。
「オリバー……ごめんなさい……」
私は、泉の淵の花畑の上で、空に向かって謝りました。
ごめんなさいオリバー。
私のせいで、死なせてごめんなさい。
だけど、あなたとの間にできた命を、私はこの世界に産み落としたいと思ってしまったのです。
「どうか……許して……」
決してあなたを忘れるわけではありません。
あなたの種を、守りたいだけなのです。