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「逃げ出しただと…?!」
余程の事があったのだろうとコチラからでも感じるくらいの声色に音量である。
立派な髭を携えた中年で細身の男が動揺していた。
「静かに!声を抑えてくれ!」
と慌てふためいて続く言葉を遮った小太りの男。
彼らにとんでもない事が起きたのは、遠目の僕からでも察してしまうほどであった。
髭の男「逃げたって…見張りもつけていただろ?!」
信じられんといった形相で小太りの男に詰め寄る髭の男。
小太りの男「それが…俺が行った時にはもう付けていた看守は…」
眼前でその事件を再生しているのだろうか、小太りの男の両手は小刻みに恐怖から震えていた。
髭の男「ならん…それはならんぞ…!早く見つけ出さなければ公になってしまう…」
誰かが一人犠牲となったようなワードが飛び出しているが…
小太りの男「見つけ次第、処分に?」
小太りの男は焦りから次々と出る汗を白いハンカチで額を拭いている。
それを目の前にした髭の男は、白いハンカチを見て何かを記憶から見つけ出したように慌てて尋ねた。
髭の男「おい、待て…あの白い花はどうした?」
気のせいだろうか?
僅かに声が震えている気がした。
小太りの男「え…?あの花の事がなにか?」
小太りの男はピンときてないのかキョトンとした表情で髭の男を見る。
髭「服用量だよ!いつも通りの分量で与えたのか…?」
小太りの男は、その言葉にもピンときていないように、答える。
小太りの男「…いつも通りだと思うんですけどね…」
自分の管轄外と言わんばかりの無責任な返答に髭の男は落胆と怒りが合わさった様な顔をした。
髭の男「愚者が…」
小太りの男「え?」
髭の男の肩は震えていた。
行き過ぎた言葉に聞き間違えたのかと聞き直す小太りの男。
髭の男「貴様と話していても埒があかない。現場に向かう。お前はすぐにでも皆に伝えて、なんとしても捕まえろ、No.3を。」
小太りの男「分かりました⋯。すみません…。」
きっと小太りの男は、髭の男を落胆させてしまったのだろう。
そして、その服用量の重大さはその髭の男しか理解出来ていないらしい。
いや…待て…
白い…花と言ってた…か…?
物影に身を潜めながら、僕はよろよろと壁に背をついた。
何かを感じる、その言葉。
……。
突如ぼやける視界。
シャンデリアの光と暗闇が交互に視界を狭めた。
蹌踉(よろ)めく身体。
油断すると意識を手放してしまいそうになる。
僕は今にも崩れそうな身体を壁でなんとか保っていた。
「なんだ…?この感覚は…?」
いや、何かを感じるが、思い出せない…
気色悪い…。
白い花など、どこにでもあるはずなのにどうして…
そこまで思考したところで足はついに力を失い、床へへたり込んだ。
だが、まずい。
このままここにいて、あの2人に見つかれば不審に思われるか…
そう思い、壁に手をかけ立ち上がろうとするが、視界がはっきり見えない…
これはなんだ?
逃げろ、早く…!
心と身体が一致しない。
動け…ない…
動いてくれ…
僕の話では、ないはず…
証拠もない…
いや、僕の記憶がないだけか…
看守…?
知らない…
髭の男も小太りの男も、知らない…
白い…花…
白い…
知ら…ない……はず…だ……