重大なナニカを記憶の奥底に沈めてしまった気がする…
ざわざわと胸が波立つ様。
眼は開いているが何も見てはいない。
脳の中の記憶を探ろうとするが
やはり、欠片の一つも掴めない。
諦めと同時に目の前の景色がズレたピントを合わせるようにクリアになっていく。
わからないものにいくら思考を投じてみても意味はないんだ…
ふいに冷めた気持ちになる。
今の僕には、目の前に広がる現実しか″確か″なものがないんだ…
それ以外は何も持っていない。
再び背後から忍び寄る絶望に失笑する。
いよいよ、現実を受け入れるしかなさそうだ…
心の何処かで、これが悪夢であればと願っていたのかもしれない…
僕に出来ることは、現状把握と記憶の欠片を拾い集める事。
手がかりもなしにそれらをやるしかない。
確かなものが何一つもない中で
確かなものを拾い集められるものだろうか?
拾ったものが確かかどうかも判別が出来ないのに?
己を知らない、記憶がないという事は、そういう事だ。
絶望は脳を支配していく。
そして、身体も支配していく。
再び立ち上がる力さえも奪っていく。
狭い通路の端で力無くへたり込む僕は、不審者でしかないだろう、きっと。
客観視するとそうなる。
だからなんだと言うんだ?
まともでないのにまともなフリなどして、なんになるという?
何の為のフリなのか?
だんだん沈んでいく。
深い闇の海へ。
さっきの男等に見つかって、寧ろ捕まった方が記憶を辿る近道では?
嫌だ
正解不正解もわからない己で、どうして失くした積み木を拾う事ができる?
それでも…
空っぽでも、唯一の命が惜しいと?
…死にたくない
それは何から来る恐れなのか?
……。
まだ死に直面した訳でもないのに、両手は小刻みに震える。
知り得ない恐怖を想像してこうなるものだろうか?
僕は、広げた手の平をまじまじと見た。
頭は冷静、手は震えている、そんな状態が不思議でならなかったのだ。
暫く見つめていて閃いた。
記憶は失っていても身体は憶えているのかもしれない。
そう思えると少しばかりの希望にも火は灯る。
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