エマちゃんからの救援要請が来たので、足早にS.S.MOTERを目指す。
中学生だけで温泉旅行なんて普通は反対されるだろうから、ヒナちゃんの家には直接出向いて説得に行った。お父さんが警察だと聞いていたので、どうやって攻略しようか悩んでいたが…泣き落としに弱いとも情報もゲットしたのでお涙頂戴作戦を実施した。
半年前に父親が居なくなって、昔家族で行った思い出の温泉にもう一度行きたくて、お小遣いを貯めて母親に旅行をプレゼントしようとしたんだけど母親は仕事でどうしても行けなくなった。なので、ヒナちゃんに一緒に行ってほしい…と。
狙ったところはあるのだが…ヒナちゃんのお父さんは、借金残して勝手に出て行った私の父を不慮の事故か何かで亡くなったと勘違いくれて、私は母親思いの孝行娘という認識をすんなり獲得した。あとは夜は旅館から出ないとか、到着したら連絡入れるようにするとかの安全対策を並べていけば、しっかり者の称号まで追加されて、ヒナちゃんの温泉参加が許可された。
ヒナちゃんのお父さん……警察だよね………そんなチョロくて大丈夫??
エマちゃんのところはお爺さんから許可はもらったというので安心していたのだが、真一郎くんが反対しているらしい。
いや、あなたのとこは暴走族とかで夜中バイクで走り回ってる兄弟なのに…反対するの?
S.S.MOTERに到着すると、ガラス戸を開けて店内に入る。中にいたのはワカさんとベンケイさんだった。一時期、色んなとこで出くわしていた二人だが、最近はあまり見かけなくなった。挨拶をして、エマちゃんは?と聞くと、ワカさんが奥に案内してくれた。
奥の部屋に通されると、ソファに座った真一郎くんにエマちゃんが食ってかかっていところだった。真一郎くんの隣には明司さんが座っていて、我関せずといった雰囲気でタバコをふかしていた。
「なんでマイキーは無断で帰ってこなくても何も言わないのに、エマはダメなのよーー!!!」「お前は女の子だからだ!それに万次郎は強いから一人でも問題ない」「マイキーなんて一人だと朝すら起きれないじゃん!エマの方がしっかりしてるもん!」
「キリコちゃん、来たよー」「…あの……お邪魔します」「おっ、久しぶりだな。どうしたんだ?」「明司さん、こんばんは…えっと、兄妹喧嘩の仲裁に来ました」
「キリちゃーーん!!この頑固ジジイが反対するんだけど!!!」「おい、エマ。ちょっとキリコちゃんにお茶いれてきてやれよ。一回落ち着いてこい」
明司さんが間に入ってくれて、エマちゃんは頷いて部屋を出て行った。
「真一郎くんは私達が温泉行くの反対なんですか?」「だって中学生の女の子だけなんて、何かあったらって心配するだろう…」「自分とかマイキーくんの事は棚にあげて?」「俺らは男だから…未成年の女の子だけは危ないからダメ!」
「未成年にお酒飲ましたくせに?」「女子中学生と同衾したくせに?」
正論で反対している真一郎くんだが、明司さんとワカさんには正論で散々煽られている。
でもお酒飲ましたのはワカさんと明司さんだし、同衾って言っても雑魚寝だし…。
真一郎くんは罪悪感に苛まれながらも口を一文字に結んで耐えている。
意外と頑固なんだな………仕方ない、奥の手を切りますか。
「………じゃあ真一郎くんも一緒に行くならOKですか?」
「…ぉへぇ?」
急なお誘いに驚いたのか、真一郎くんの口が緩んで変な声が返ってきた。思わず笑いそうになったが何とか堪えた。明司さんとワカさんも堪え……きれなかったのか、顔を逸らして震えている。
「いや、さすがに俺がキリコちゃん達と一緒に行くとか……絵面的にマズイ……だろ……」
「温泉で浴衣姿の女子中学生3人侍らす悪い大人か…」「ん?先に通報しとくか?」
「待って待って待って!それはそれでダメだから!!!」
「そうですか…真一郎くんがダメなら仕方ないですね。明司さんとワカさんは温泉好きですか?」
「俺らが行っていいの?温泉とかめっちゃ久しぶりだわ」「お誘いしてくれるなら喜んで。俺らが一緒なら問題ないだろ?…なぁ、真」
「……………俺も行く」
真一郎くん陥落。ワカさんと明司さんの援護攻撃のおかげですんなり制圧できました。
「じゃあ俺らの分も追加で予約しねぇとな、ベンケイも参加だろうし…4人分か」「あっ、旅館は貸切で用意してもらったみたいなので、人数増えても大丈夫ですよ」「えっ、そうなの?貸切ってVIPじゃん!」「はい、間先生のお得意様のご好意で用意してもらったんですけど、先生は行かないから代わりに行かせてもらうので」
…ということにしておいた。実際は九井くんが予約してくれて、支払いは私なんだけど、借金返済の目処もついたのでここらでパーっと散財したい気分である。九井くんが常連さんのようで、かなり良心的な価格にしてくれたようだ。
良心的な価格と言っているが、キリコの金銭感覚は崩壊している。闇医者なんてやっていれば、数百万単位のお金が簡単に動く。そんな生活をしつつも、ただの中学生に擬態する時には、数百円のお菓子を高いね〜なんて友達と会話したりもする。
お茶を淹れて戻ってきたエマちゃんに条件付きでOK出たよと伝えると、嬉しそうに笑みを浮かべてくれたが…兄同伴というのはちょっと嫌だったようで真一郎くんに恨めしそうな視線を向ける。
「キリちゃん…人数増えていいなら………」「うんうん、追加しとくね♪」
エマちゃんの言いたい事は皆まで聞かずともわかりますよ。ドラケンくんも気苦労が絶え無さそうだし癒してあげないとね!
そうなると東卍のもう一人の保護者にも声をかけた方がいいんだろうか?でも妹さん達がいるし…とりあえず聞くだけ聞いてみようかな。
真一郎くんとエマちゃん、ドラケンくんが参加なら、マイキーくんも絶対付いてくるだろうな。エマちゃんとこがカップル参加になると、ヒナちゃんもタケミっちくん呼びたくなるよね。
今回は成人済みのリアル保護者もいるし…呼べる人皆に声かけてみようかな。中途半端な人数よりもいっそ大人数の方が、ゆっくり一人になりやすいし。今回はお世話になった人たちへの慰安旅行ってことで♪
…あれ?…むしろお世話した人達の方が多い?
……………ま、いっか。温泉♪温泉♪
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そんなこんなで女子会温泉ツアー改め、東卍温泉旅行が開催されることとなった。
場地くんと千冬くんは、期末テストの結果報告を受けた時に声をかけた。
「ご褒美か?行く」「場地さんが行くなら俺も!」と食い気味に参加が決定した。
ちなみに中間テストよりも点数が下がっていたので、ご褒美ではない。それでも全教科で赤点は回避していたので、良しとしよう。場地くんは怪我で休んでたし、温泉で傷を癒やして、また勉学に励んでいただこう。
パーちん先輩とぺーやん先輩は不参加だ。
その日は家の用事でパーティに参加しないと行けないらしい。着飾った二人を見てみたいので、ぺーやん先輩に写メを送ってもらうようにだけお願いした。なぜかお土産に木刀を買ってきて欲しいと頼まれた。
修学旅行じゃないから…しかも先輩達は木刀買ってきたら、本来の用途の通りに使用しちゃうでしょ……。木刀は売切だったってことにして温泉まんじゅうをお土産にすることを決めた。
スマイリーくんとアングリーくんはラーメンマップを作成するのに忙しいからと断られた。たしかにあの温泉地付近に有名なラーメン屋さんは無かったし、旅館の料理でラーメンはさすがにオーダーできないだろう。
一応東卍の幹部には声をかけているので、面識がないが伍番隊にも声をかけるかドラケンくんに聞いてみたのだが、「あいつらは来ねぇだろう」と言っていたのでいいか。
何度か見かけたが伍番隊の副隊長のマスクの子がめちゃくちゃ美人だったので、機会があれば話してみたい…いや、近くでご尊顔だけ拝んでみたい。
三ツ谷先輩にも声をかけたが、やはり妹の面倒見ないと行けないからな…と悩んでいた。副隊長の八戒くんにも聞こうと思ったが、話しかけても固まってしまうので聞けなかった。あとで柚葉ちゃんに電話したのだが、「大寿がうるさいから、さすがに泊まりは厳しいかな」とのことで八戒くん、柚葉ちゃんは不参加。
彼女の弟にまで口出しするなんて、DV彼氏…じゃなくなったのか、変態彼氏は何様のつもりなんだろうか。
一虎くんにも声をかけようと電話したが、既に場地くんから話を聞いて参加するつもりだったそうだ。
ちなみにココくんも誘ってみたのだが、「そんな東卍の連中だらけのとこに行く訳ないだろ」と一蹴された。
後日、電話があって「この前の温泉って初代黒龍の人たちも居たってホントか?」と聞かれたので、真一郎くん、明司さん、ワカさん、ベンケイさんが一緒だったことを伝えた。どうもココくんの推しのイヌピーくんは初代黒龍推しだそうで、俺も行きたかったと後で知って拗ねてしまったようだ。
参加者が増えたので、エマちゃんとドラケンくんにも連絡などを手伝ってもらおうと事前打ち合わせを設けた。喫茶店で前に座る二人に、まずは参加者を整理しようと名前を書き出してみる。
私、エマちゃん、ヒナちゃん、マイキーくん、ドラケンくん、タケミっちくん、場地くん、千冬くん、一虎くん、真一郎くん、明司さん、ワカさん、ベンケイさんの総勢13名。
なんか大変そうなメンバーだなと、ペンを持つ手が止まる。横に置いた携帯が震えてメールの着信を知らせる。
「1名追加で、総勢14名に変更っと」
メールの送り主は三ツ谷先輩だった。ダメ元でお母さんに聞いてみたら、「行ってきなさい!ルナとマナの面倒なんてお母さんに任せて、あんたは頑張ってきなさい」と猛プッシュで参加を薦められたそうだ。
「三ツ谷先輩も参加できるそうです。三ツ谷先輩は東卍でも手芸部でもご家庭でも頑張ってるから、温泉にしっかり癒してもらわなきゃいけない人ですもんね〜」
三ツ谷先輩のお母さんの意図は全く伝わらなかったが、参加の意図だけは間違いなくキリコに伝わった。キリコは紙に「三ツ谷先輩」と書き足すと、呑気にホットコーヒーを啜った。
「現地集合とかでもいいですかね?ワカさん達は仕事の都合で夜から合流予定だそうなんで」「あー俺らはバイクで流しながら向かうわ」「真にぃが車出してくれるから、荷物も邪魔だったら乗せさせてもらえば?」「それなら一回集まってから向かった方が良さそうだな…寝坊する奴とか迷う奴とかいそうだしな」
「じゃあ交通手段はバイクと車で、集合場所と時間はドラケンくんの方で連絡回してください」「わかった」
「食事は…アレルギーとか何かあれば私に連絡するようにも伝えておいてください」「マイキーのやつ、旅館のメシとか食えるんか?」「ワガママ言うなら連れて行かないって約束させたから大丈夫だと思うけど……どら焼きとかは買って持っていく。あと夜にみんなで食べるお菓子も買っていくね♡」「ありがとう、よろしく!」
紙に決まったことをメモしていく。あと決めなきゃいけないのは、部屋割りか…
「えーっと…二人には申し訳ないけど、今回は男女で部屋は分けたいなと…思ってるので、同室は諦めてね」「…は?」「そ、そんなの当たり前だから!!!ちょっとキリちゃん!!」
思わず頬がニヤける。エマちゃんは顔を真っ赤にして動揺している。対してドラケンくんは……こっちも耳まで赤くなってる。ヤバい…この二人の初々しさ…可愛い♡
とりあえず大人組で一部屋、女子で一部屋、残りは大部屋使うか、分かれてもらうかは当日でも良さそうだ。何せ貸切なので部屋も使い放題だから。
女子部屋は客室露天風呂付きの特別室を使わせていただこう。今回は私がスポンサーだし、そのくらいの優遇は許されるだろう。
決めなきゃいけない事も決まったので、あとはよろしくと二人を残して席をたつ。人数も増えたのでしっかり稼がないといけないっと、張り切って仕事に向かう。
「……なぁ、キリコってしっかりしすぎてねぇか?」「……うん、大人っぽいというか…あれは惚れるわ」
必要な決定事項をサラリとまとめて、やるべき内容は各々にメモ書きで渡された。帰り際も伝票をさっと持って会計まで済ませて去っていく姿に、呆気に取られたままの二人は視線も合わさずに呟いた。
最近コメn、、、((殴殴殴殴殴殴殴殴殴殴
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コメント
2件
とっても楽しみにしてました!面白かったです!次も楽しみにしています!
投稿ありがとうございます!! 今回も面白かったです、! 温泉旅行編も楽しみー!! そして次の投稿する条件?がいいね700とコメント2つかあ コメント1つといいね700くらいしかできないのが悲しい、! 誰かもう1人コメントしてくれ〜笑