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孔子とご飯を食べたあと、あかりはお土産を持って、実家を訪ねた。
真希絵に、
「日向、もう寝てるわよ」
と言われたが、
「寝顔見て帰る」
と言って、日向が真希絵といつも寝ている部屋にいく。
暗い部屋に真希絵の布団と日向の布団が敷かれていた。
あかりは枕元に座ると、劇場近くのファミレスに寄ったとき買った、小さな電車のおもちゃを枕元に置いた。
可愛い日向の寝顔を眺めたあとで、そっと写真に収める。
写真と寝ている日向の両方を眺めたあとで、ふふ、と笑い、
あ、そうだ。
これも一緒に、とさっきの写真と一緒に寿々花に送った。
すぐに既読になり、ありがとうっと愛嬌いっぱいなスタンプがひとつ送られてきたが。
愛嬌いっぱいなのは、スタンプだけだろう。
あのあと、劇場近くのファミレスに、結構、人、流れてたけど。
寿々花さんとは出会わなかったな。
まあ、あの人、ファミレスとか行かないだろうしな。
そのあと、あかりはおのれの部屋に行き、
最近、心乱れてるからな、と思いながら、モザイクガラスのランプを五つ、床に置く。
暗がりに透明感あるカラフルな光が溢れて綺麗だ。
あかりは、その中央に座り、目を閉じた。
瞑想して心を沈める。
「姉ちゃん、まだいるー?
帰るんなら、コンビニ行くから送ってってや……」
ぎゃーっとドアを開けた来斗の悲鳴が響き渡った。
「え?」
と振り返ったあかりに向かい、青ざめた来斗が、
「魔法陣かと思った……」
と呟く。
『瞑想と、ライトを置いたら、魔法陣』
弟に驚かれながら、あかりは暗がりで、俳句のようなものを詠んでいた。
「――てなことがあったんですよ」
翌朝。
青葉は来斗に、五芒星の真ん中に座っていた姉の話を語られた。
いやまあ、五芒星というのは、来斗が勝手に思っただけだったのだが……。
「悪魔でも呼び出すのかと思いましたよ~」
と来斗は笑っていたが、青葉は戦慄していた。
一体、誰を呪う気なんだ?
自分を騙した男か?
いや、こだわりの前庭を壊した俺かもしれんっ。
青葉はあかりに呪われることに怯えていたが。
その日のあかりは青葉を呪うどころではなかった。
仕事が休みだったので、日向と遊びながら、昨日のミュージカルの余韻に浸っていたのだが。
真希絵が、
「買い物に行くわよ」
と言うので、一緒に出かけた。
あの劇場の近くを通ったとき、
「あっ、あれ、当日券の列かな。
今日、ちょっと少なめっ」
とめざとく見る。
「まあ、平日だしね~」
と言った真希絵だったが、ふと思いついたように、
「今日、別に用もないし。
暇なら並んで観てきなさいよ」
と言って、劇場の駐車場に車をとめてくれた。
「いやー、でも、今日は日向と遊ぶし」
「日向は今からリズム教室よ。
休みなのは、あんただけ」
とすげなく言われてしまう。
まあ、たまには遊んで来ないさいよ~という意味かな、とあかりが思ったとき、横になんかすごい車が止まった。
寿々花が降りてきた。
今日はお気に入りの車を自分で運転してきたようだ。
こちらに気づいて、おや? という顔をする。
とりあえず、目が合ってしまったので、あかりはぺこりと頭を下げたが。
真希絵が慌てて、
「早く降りなさいっ」
と言ってきた。
ええっ? と思ったが、
『日向があなたみたいになったら困るから、べったり日向といないで』
とあかりに言った寿々花の言葉を思い出したのだろう。
日向の親権を争いたくない母は娘を売った。
ここまで一緒に送ってきただけですよ~という顔で、寿々花に向かい、ぺこりと頭を下げている。
仕方ないので、あかりは車を降り、寿々花に挨拶した。
「こんにちは。
あの、今日はおやすみなので、ちょっと当日券が出てないかなと思って、見に来たんですけど。
ついでのあった母に乗せてきてもらったんです。
それで、今から並ぼうかと」
という作り話をする。
すると、いつものちょっと低めの迫力のある声で、寿々花が言う。
「あらそうなの。
私もよ」
寿々花に怯え、娘を売った母だったが。
さすがに車に乗ったままでは、と思ったのか。
ちゃんと降りてきて、寿々花に挨拶する。
……前から思ってたんだけど。
寿々花さんって、うちのお母さんには当たりがきつくないんだよな。
そのとき、遅れて、とことこ、日向が降りてきた。
「グランマ?」
と寿々花に呼びかける。
来斗の『何処のパン屋だ』という言葉を思い出しながら、あかりは寿々花と孫の語らいを眺めていた。
寿々花は日向を抱き上げもせず、質問攻めにしていた。
「日向、ちゃんと暮らしていますか?
早起きはしてるの?
お勉強は?
まあ、真希絵さんがちゃんと見てるから大丈夫よね」
なんか目線も口調も厳しい修道院のシスターみたいだが、愛情があるのは伝わっているようで、日向はちゃんと寿々花に笑顔で頷いていた。
真希絵は日向を連れて、ペコペコ頭を下げて去っていき。
あかりは寿々花と二人、駐車場に取り残された。
……これからどうすれば、と思ったとき、寿々花が、あっ、と声を上げた。
「なにをしているのっ。
今、一人、列に並んだじゃないのっ。
早くしなさいっ」
「すっ、寿々花さん。
先着順じゃないんでっ。
整理券配られたあと、抽選なんで、走らなくてもっ」
あかりは高いヒールで駆け出した寿々花を慌てて追いかけた。