テラーノベル
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#7 アファンタジア
私は、目を閉じても風景が浮かばない。赤と聞けば定義が出てくるだけで、夕焼けの色は現れない。思い出も同じだ。写真のように再生できない代わりに、出来事は箇条書きで保存されている。日時、場所、温度、音量、心拍数。私はそれで生きてきた。
その日、展示室で私は彼女と出会った。絵の前で立ち止まり、説明文を指でなぞるように読んでいる。彼女は想像が苦手だと言った。「でもね」と彼女は笑った。「想像できないから、約束は大事にするの」
私たちは一緒に帰ることになり、橋の上で足を止めた。川の匂い、電車の低音、風で揺れる街灯。私はそれらを記録した。彼女は欄干に肘をつき、言った。「来年もここで会おう。見えなくても、同じ音を聞けるから──約束ピーポー」
その瞬間、私は初めて、見えないものが確かにあると理解した。像は浮かばない。それでも約束は輪郭を持つ。後日、私はノートの最後のページに一行だけ書いた。来年、同じ橋、同じ時間。彼女の言葉の語尾は思い出せないが、約束の重さだけは、今もはっきりとある。
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ここからピーポーの約束以外の単語も指示してストーリーを展開させています