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そう……私はユーヤさんに謝らなければならないの……
出発の日の早朝、私はユーヤさんの家へと来ていた。
今、ユーヤさんは準備した旅の荷物をまとめている最中。
私はどうにも話を切り出せず、扉にもたれながら黙ってユーヤさんの作業を眺めていた。
ずっとこのままって訳にはいかないのは分かっているんだけど……
「どうした?」
纏めた荷物を軽々と抱えると、私と向き合ったユーヤさんの問いかけ――
「俺に話があるんじゃないのか?」
――それは私のために話すきっかけを作るためのユーヤさんの優しさ。
だから、私は意を決して口を開いた。
「ユーヤさん……どうしても行くの?」
「ああ、『魔王』をこのままにしていては、いつかリアフローデンも『魔族』によって蹂躙されてしまうからな」
「それはシスターのため?」
ああ、とユーヤさんはためらいなく頷いた。
「昨夜、彼女に俺の気持ちを伝えた」
「そっか……それじゃユーヤさんはもう日本に帰るつもりはないんだ」
ユーヤさんは目を見開き驚いた。
「シエラ、お前はまさか!?」
「うん、転生者だよ。だからユーヤさんが召喚された『勇者』だってのには初めから気づいてたの――」
私はユーヤさんに全てを告白した――
私は転生者であると。
この世界が『聖なる花に祝福を』に類似していると。
私がそのゲームの2作目『ヒロイン』であると。
シスター・ミレが前作の悪役令嬢であると。
カッツェが『攻略対象』の1人であると。
そして『魔王』は本来2作目『ヒロイン』が『攻略対象』と共に倒す存在なのだと言う事も全て……
「エリーが言ってたのとだいたい同じだな」
黙って私の話を聞き終えたユーヤさんが、ポツリと独り言の様に漏らした。
エリー……それって確か……
「処刑された元王太子妃?」
「そうだ……あいつも転生者だった」
やっぱりそうだったんだ。
「ごめんなさい……もしかしたら私がちゃんと『ヒロイン』をしてなかったから、ユーヤさんが『勇者』として召喚されたのかも」
しゅんと、うなだれた私に向かって、ユーヤさんの大きな手が迫ってきたので、私はびくりと体を震わせた。叩かれるのかなと思って身構えたんだけど、その手は私の頭にポンと軽く乗せられただけだった。
「俺が召喚されたのは10年以上前だぞ。シエラはまだ小さかったんだ。お前のせいじゃない」
慰めてくれてるんだ。
やっぱりユーヤさんは優しい。
だけど……
「『魔王』討伐は本来なら『ヒロイン』の私の仕事で……」
「バカ」
突然、乗せられていた手がくしゃっと私の頭を撫でた。
「シエラが『ヒロイン』で、『攻略対象』のカッツェと『魔王』を倒すのが本来の辿る道だったとしても、俺はミレの子供達にそんな責任を押し付けるつもりはないぞ」
「ユーヤさん……」
「任せておけ。俺が全て終わらせてやる」
そう言って泣きそうになる私にユーヤさんは優しく笑いかけてくれた。
「シエラはカッツェとのことだけ気にしておけばいい」
「ユ、ユーヤさん!」
「あいつを好きなんだろ?」
「それは……分からないんです」
ずっと抱えていた悩み……
私のカッツェへの想いが本物なのかどうか、その全てをユーヤさんに打ち明けた。
「そんなことを悩んでいたのか」
「だって私の好きって気持ちが偽物だったら……カッツェの私への想いも『攻略対象』として作られたものだったら……」
「シエラが『ヒロイン』だとか、カッツェが『攻略対象』だとかそんなのはさして問題じゃない」
ユーヤさんは扉を開けて外に出るといったん立ち止まった。
「お前もカッツェもこの世界で確かに生きている。重要なのはお前がそれを信じるかどうかだけだ」
それだけ言い残してユーヤさんは旅立った……