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「ああ。もう遅いから、送っていくよ。俺も明日、日帰り出張があって、朝が早いし。でもさ、来週の月イチの休みの日。ちょうど俺の誕生日なんだよね」

「あ、本当だ」


彼は熱を帯びた、けれども真剣な色を含んだ眼差しでわたしを見て、そして言った。

「その前日、泊まってくれないか、ここに」


その間に、しっかり気持ちを固めてきてほしいということだろう。

彼の目を見て、わたしは頷いた。


***


それからの1週間は、長いような短いような心地で過ごした。


初めて、朝まで玲伊さんと一緒に過ごすのだ。

とっても嬉しいのに、ちゃんと彼を受け入れられるか、まだ、100%の自信はない。


そのうち、ふと思った。

こんなに怖いと感じてしまうのは、自分があまりにもそうしたことに疎いからじゃないか、と。


そうだ。


店にTL漫画やTL小説があるから読んでみようかな。

実は前からちょっと気になってはいたから。


で、その日のうちに数冊買い込み、早速、その晩から読み始めることにした。


「うわっ、こんなこと、するんだ……」


ベッドに寝そべって、ドキドキのシーンにキュンキュンしていたとき……


ふすまがガラッと開き、おばあちゃんが入ってきた。

慌てて、本を枕の下に隠す。


「洗濯物、置いとくよ」

「う、うん」

「なんだい、そんな赤い顔して。熱っぽいのかい」

「なんでもないよ。ありがとう。そこに置いておいて」


あー、あせった。

でも、続きが早く読みたくて、すぐに読書に戻った。


はじめはきわどい表紙絵や挿絵に落ち着かない気持ちになっていたけれど、最後まで読み終えたときには、どの話にも大きな共感を覚えていた。


特に、さまざまな困難を経た二人が、ようやく結ばれるシーンの尊さには、感動すら覚えた。


わたしもこんなふうに玲伊さんと喜びを分かち合いたい。

予習のおかげで、前よりも強くそう思えるようになってきた。



そんなふうに過ごしているうちに、ついにその日はやってきた。


玲伊さんに、夜、VIPサロンに来てほしいとメールをもらい、午後9時をすぎたころ、〈リインカネーション〉を訪れた。


ただひたすら予習に励んでいただけでなく、もちろん、プレゼントも用意していた。

さんざん悩んだ末、ありきたりだなと思いつつ、結局、無難なネクタイにおちついてしまったけれど。


彼の制服のスーツに似合いそうな、品のいいサーモンピンクの地に黒の細かいドットが斜めに配されたもの。


「30歳のお誕生日おめでとうございます」

「お、ありがとう。開けていい?」


玲伊さんは嬉しそうな顔ですぐに包みを開いた。


「いい色だね」

「ブラックスーツに似合うかと思って」


「うん。早速、休み明けにつけさせてもらうよ。さあ、こっちへ。久しぶりに優紀にシャンプーしてあげたくてね」


通いなれたはずのサロンが、今日はまるで違う場所のように思える。

わたしの髪を扱う彼の手を、前以上に意識してしまう。


トリートメントも終わり、丁寧に乾かしてもらった後、彼は椅子を自分の方に向けるとわたしの手を取り、自分の胸に抱き寄せた。


わたしの鼓動は苦しくなるほど高まってゆく。


「もう離さない。好きだよ、優紀」

「玲伊さん……わたしも」


続きを言い終わる前に、キスで唇は塞がれた。

いつもよりさらに心のこもった彼のキスや手の動きに翻弄され、わたしの体から力が抜けていく。

彼は、頬やこめかみに口づけを繰り返しながら、とびきり甘い声で囁いてきた。


「部屋に行こうか。もう……大丈夫?」


玲伊さんの腕のなかでわたしは「はい」と言って、小さく頷いた。


そして、導かれるまま、わたしは彼の寝室につながる階段をのぼりはじめた。



***


寝室はプライベートルームの二階部分にあった。

天井は低めだけれど、背の高い玲伊さんが立ちあがっても問題ないだけの高さはある。


黒枠のスリガラスの引き戸を開けると、生成りのベッドカバーがかかった背の低いベッドが置かれているのが目に飛び込んできた。


照明はベッドヘッドの裏に据え付けられたライトが壁を照らしているだけで、全体にほの暗い。


部屋から直接、先日、食事をした屋上に出られるようになっていて、窓の前に大きな鉢に植えられたグリーンがたくさん置かれていて、それらもライトで照らされている。


まるでリゾートホテルのようだ。

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン

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