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「闇に咲く声」
大輝Side
静かだ
ついさっきまで響いていた声の余韻だけが、空気に残っている
壁も床も、すべてがその音を覚えているようで、足音ひとつも遠くに吸い込まれてしまう
胸の鼓動が、かすかに俺の耳に届いた
――どうして、こんなに苦しいんだろう
触れれば壊れてしまいそうな彼の存在
それが怖くて、でも堪らなくて
あの日、クラス替えの日のことを思い出す
人の波の向こうから、微かに聴こえた歌声
窓の外で、誰かが鼻歌を歌っていた
――まるで風に溶けていく水のように儚くて、強く胸に残った
誰だろう、と思った
そして、世界が静止した
その瞬間から、俺の心は彼に囚われていたのかもしれない
名前も知らなかった
でも、あの声が俺を動かす
数日後、教室で偶然その声の持ち主と顔を合わせた
名前を呼ばれて振り向いた瞬間、全てが重なった
歌声と笑顔、目の奥の光――
それだけで、俺の理性は薄く溶けていった
その日から、変わっていく自分に気づいた
授業中、彼がノートに何かを書いているのを盗み見るたびに、心臓が跳ねる
昼休み、廊下でちらりと目が合うだけで、喉が渇いた
彼の笑う顔、眉の動き、息づかい――
どれも忘れられなくなった
そして、昨日――放課後のカラオケルーム
部屋のドアを間違えて開けた瞬間、彼の声が空間を満たした
――その音に、全てを持っていかれた
見たことのない、鮮烈な衝撃
胸が焼けるように痛んだ
言葉も理性も、その瞬間には必要なかった
目の前に立つ彼は、まだ眠っている
意識は薄く、体はほとんど動かない
けれど、その傍らにいるだけで心が満たされる
危険だと分かっている
狂気に近い感情だと、自覚している
――でも、抑えられない
そっと息を吐く
「君の声は、俺の中で止まらない。」
手をつきながら呟く言葉は、自分の心に向けた独白でもある
光と影
白と黒
あの歌詞が、頭の中で繰り返される
歌の意味は分からない
ただ、俺の胸を揺さぶる
彼の胸の鼓動を感じながら、目を閉じる
静寂の中で、想太の声だけが咲いている
世界の輪郭はゆっくりと溶けていく
あの声が、俺の中で生きている限り、僕は何も失わない――
闇の底で、俺は微笑む
それは祈りでもあり、呪いでもある
彼が目を覚ますとき、どんな顔をするのだろう
恐怖か、困惑か、それとも――理解か
それでも構わない
俺の心はもう、花村想太に染まっているのだから
――沈黙の中、声はまだ響き、闇の中で咲き続ける
――――