夜が明け、新しい空気と眩しい光を包み込んだ朝がきた。
俺の顔に白い光を照らす。
当たった光が眩しくて、目が覚めた。
通行人の何気ない話し声や排気ガスを出す車の通行音が俺を夢から現実に覚ましていく。
今日は珍しく午前中に目が覚めた。
今日の朝は、何故かいつもより目覚めが良かった。
身体がだるくなかった。
昨日深夜にあまりゲームしなかったからか。
と頭の中で考えながら服を着替え、洗顔をし部屋の窓を開けて風を通した。
薄い白いカーテンが開放されたように舞う
入ってきた空気が部屋の空気を入れ替える
今日は、土曜日。
学校も休みで特に用事もない、何もすることがない日だった。
とりあえず、明日叶と海に行くための用意をしようと、少し大きめの白いトートバックをクローゼットから引っ張り出した。
長らく使っていなかったため、いくつかの細かいしわが残っていたが、この位は特に気にならない。
しわを手で伸ばしつつ、バックを広げ、財布とタオル、替えの服や手持ち扇風機などを詰め込む。
ある程度詰め終わったあと、叶から着信がきた
「もしもーし、葛葉」
「どした」
「明日何時に行くか決めてなかったからさ、決めておこうと思って」
叶の電話からは、テレビから発せられるバライティー番組の司会の音声が小さく聞こえた。
「俺は何時でもいいわ」
「じゃあ、16時くらいからでもいい?」
「いいよ、お前迎えこいよ俺ん家まで」
「はいはい、行くよ。あっちに泊まっていきたいんだけど大丈夫?」
「泊まれるとこ探しといて」
「わかった。なるべく安いとこにしとくわ」
「ん」
「じゃあ、また明日」
電話が切れた。
スマホをベットの方に投げ、荷物を詰め込んだバックを見る
泊まりなのであれば他の物も詰め込んで置くか、そう思いながら作業を再開した。
準備が終わり、大きく伸びをする。
腹空いたな
時計に目をやると、13時になっていた。
そりゃ、腹も減るわな
昼飯を食べるために、2階の自室から階段を降りて1階のリビングに向かう。
今日は、父さんと兄さんが出掛けていて、俺と母さんの2人で家に留守番をしていた。
リビングに着くと母さんがキッチンで食べ終わった皿を洗っていた。
洗い終わり食器を拭いていると、俺が居ることに気づいた。
「昼飯ある?」
俺の方を一瞬ちらりと見てから、拭いている食器に視線を戻した。
少し面倒くさそうな表情に見えた。
「冷蔵庫の中にラップをしてしまったあるわ。洗い物は自分で洗って、私出掛けにいくから」
少し早口で最低限の連絡事項を述べ、リビングを後にして母さんは部屋に戻って行った。
母さんは、俺が幼い頃は、俺に甘くよく世話をしてくれていたが、最近になっては、兄に付きっきりで俺のことも飯や洗濯などは、してくれるが以前ほどではなくなった。
しかし、父さんほど俺には無関心ではない。
俺は、冷蔵庫で冷やされている昼飯を温め一人で食事をした
レンジで温めたもののできたてとは違う温かさだと感じる
食べた食器の洗い物を終えた
そういえば、母さんに海に泊まること伝えてなかったな。
と思い出し、母さんの部屋に向かった。
階段を上る。
部屋に近づく度に謎の緊張が身体に走る。
部屋の扉を少し冷たくなった指先で軽くノックした。
「何」
中から母さんの冷たい返事が返ってきた。
少し怖気付きながらも、伝えねばならないのでドアの向こう側へ話しかけた
「俺明日友達と海に泊まりに行く」
「…そう。行くのは叶くん?」
少し間が空いてから返事が返ってきた
母さんは昔からなるべく優等生や優秀な奴と接するように、小学生の俺を誘導した。
今の俺の友達に優等生は少なく、母さんはその事があまり気に入らないようだった。
しかし、俺が最近叶と友達になったと言うと、少し顔を緩ませた。
あの、生徒会の子?と言って満足そうな顔をした。母さんは何より周りからの見られ方を気にする人だった。
「そう」
「ふーん、勝手にしなさい。あんたも叶くんみたいな優等生だったら良かったのにね」
嫌味のように聞こえる。
母さんは、何も気にせずに自分の思ったことをストレートに伝えてくる。
そういう性格なのだ。
たまにそれが、きつくなるときがある。
「あんたも叶くんやお兄ちゃんを見習いなさい。」
「はい」
俺はなにも言い返すことができずに返事をし、部屋に戻った。
家族と話すのは疲れる。
ベットに背中から倒れ、吐けるだけの息を吐いた。
家にいると息が詰まる。
息を深く吸えない。
息苦しい。
軽く昼寝をした後に、カーテンを閉めた
今頃叶は、なにしんてんのか。
あいつの事だ。どうせ勉強やら習い事やらに手をつけてんだろう
夕飯の時間になると近所から家族での話し声や夕飯のいい香りがしてくる
俺の家でもそれは変わらない
ただし、その夕食のテーブルの席に俺はいない
下の階から、親と兄の話し声が聞こえる
俺はそれらを妨げるように、ヘッドホンをしゲーミングPCに向かい合った
ただただ無心でゲームをする
余計なことは考えなければいい
そうすれば、何も辛くないのだから。
時計を見るといつの間にか22時になっていた
腹もそこそこ減り、腹を満たすためリビングに向かった
俺の家は、兄の勉強に支障がでないよう生活習慣が整っており22時には、寝静まる
冷えきった夕食をレンジで温める
いい匂いのする夕食をひたすら無言で食べ進める。
いつからだっけ、俺が夕食を一緒に食べなくなったのは。
父親に会いたくないと思い始めたのは。
ここにいて、息苦しく思えたのは。
金魚の水槽の水音と俺の咀嚼音、食べる時にあたる食器の音のみが寂しく響いた。
叶は、今頃母親と再婚相手と一緒に話を弾ませながら温かい夕飯でも食ってんのか。
何故か、家族関連のことを思い浮かべる時は必ず叶が脳裏に浮かぶ。
食器を洗い、そのまま風呂に入り部屋に戻ろうとした。
廊下を歩いていたところに、寝ていて目が覚めたのだろう水を飲みに来ていた父さんに出くわした。
うわ、1番会いたくない相手に。
俺が無言で横を通ろうとする
それを止めるように声をかけられた。
「お前いつもこんな時間まで何をしているだ」
珍しく父さんが俺に話しかけてきた
その声色は穏やかではなく棘があった
お互いに目を合わせないまま時間がすぎる
「…」
ゲームをしていたなんて言えるはずがない。
勉強が優秀ではない俺がそんなことを言えば、呆れられ、その代わりに暴言に近いことを言われるまでだ。
ただ時間が流れていくのを無言で待った。
何の音もないただ沈黙の時間が長く感じる
父さんが大きなため息をする
「お前いくつだ」
「17です」
父さんがもう一度ため息をした。
「もう、17だってのにお前はそんなことも答えられないのか。呆れるな。」
言い方や声調はいつもと変わらずゆっくり。
だが、逆にそれが怖い。
それだけ言い捨てると、俺の横を静かに通って行った。
重くどろどろとした、黒い言葉を吐き捨て足音をたてずに部屋に戻って行った。
俺は無意識に手を強く握りしめ、下を向いていた。
気づけば布団の中に入っていて、もう朝になっていた。
昨日無意識に閉めたのであろう締め切ったカーテンを開けると、強い日差しが入ってきた
海に行くには最高の天気だ
それと真逆に俺のどこかは、重く暗い深海のようなところにいた
スマホを手に取ると叶から連絡がきていたことに気がついた
叶 「おはよ、葛葉起きてる?」
叶 「そろそろ迎え行こうと思うんだけど」
叶 「寝てるな、これ」
葛葉 「起きた、来い」
親切な叶の連絡にぶっきらぼうな返事を返し、寝巻きから私服へ着替えた
着替え終わったと同時に家のインターホンが鳴った
向かおうとすると母さんが俺の事を呼んだ
「葛葉、叶くん来てくれたわよ。早く降りてきなさい」
あの様子だと多分叶に話をしに行ったな
少し時間をかけて玄関まで行くことにした
下に降りると案の定母さんと叶が話をしていた
心做しか母さんが上機嫌に見えた。
コミュ力の高い叶は、会話をリードしながら笑顔の表情を一切変えずに母さんと軽い世間話をしていた。
母さんも”優等生”と話すのが誇らしいのか、嬉しいのか俺と話す時よりもワントーン高い声で頬に手をあて話していた。
そして俺に気づいた叶が、母さんとの会話を押し切りわかりやすく俺が来たとしめす表情を見せ声をかけた。
「葛葉!おはよう。」
それに気づいた母さんは少し残念そうな顔をしながら俺を手招きした。
「じゃあ、葛葉気をつけてね。くれぐれも叶くんに迷惑かけるんじゃないわよ」
外面のいい母さんの事だ。当然のように完璧な優しい母親として振る舞い、俺を叶の前に立たせた。
「あぁ」
やる気のない返事を返しながら、叶の方を見る叶は、さっき同様の張り付いたような笑みを浮かべていた。
「お邪魔しました。お話楽しかったです」
アイドルのような笑顔を浮かべ俺を先導する
「ふふ、二人ともいってらっしゃい」
頬に手を当てながら、俺たちに軽く手を振ってドアをゆっくりとしめた。
相変わらずあの変わりっぷりを見ると虫唾が走る。
横の叶をみるとさっきのような張り付いた笑みをなくし、いつもの何を考えているかわならない表情を浮かべていた
「ごめんな、叶。毎回親がしつこくて」
「大丈夫だよ、葛葉来るまでの少しの時間だったし」
そういって笑顔を浮かべ横に手を振った。
その表情を確認し、顔を前に向けた。
「んで、どこの海行くんだ。まじで俺何も知らねーよ?」
「大丈夫ー、僕が全部把握してるから。ここから少し遠いけど人気(ひとけ)がそんなになくて、綺麗な海だよ」
そういいながら、スマホを操作して画像を俺に向ける。
麦わら帽子を被った叶は、首元に汗を流していた。
暑いにも関わらず叶は、肌を晒したくないらしく薄い長袖を着ていた。
「ほーん」
「あ、電車乗るから駅行くよ」
叶の横を歩きながら、持ってきたものやホテルがどういうとこやらと話を進めた。
電車に乗ると疲れていたのか叶は、隣で寝始めた。
降りる駅だけ教えてもらい、着くまでは俺が起きて叶を寝かせることにした
このくらいは、やってやろう
「かなえー、着いたぞ。起きろ」
「んー、もう着いたの。ありがとくーちゃん」
眠たそうに目を擦りながら、叶が立ち上がった
「その呼び方やめろ」
誤魔化すように叶がふふっと少し笑った。
二人で駅から降り、ホテルにチェックインするためバスでホテルに向かった。
まだ、少し眠そうな叶は寝まいとバスの窓を開け風をあびていた。
「あのホテルだよ」
そう言って指を指した先には、小さな白いホテルがあった。
普通のホテルに比べれば多少小さいものの小綺麗だった。
ホテルにチェックインをして、とりあえず持ってきた荷物を置き、軽い休憩をしたあと海に持っていくものだけを持ち外にでた。
海辺に行くと数人の家族ずれと学生がいるくらいで、普通の海よりもすいていた。
「わー、暑いね。はやく海はいろー」
ビーチサンダルに履き替えた叶が、麦わら帽子を押さえながら時より波がくる浜辺を走った。
俺ははしゃぐ叶を見ながら海の家で借りたビーチパラソルを立て、シートをひいた。
叶が戻ってきて「日焼け止め忘れてた」と鞄のなかから日焼け止めを出し、ただでさえ少ない肌が露出している部分に日焼け止めを塗りたくった。
俺も叶から、日焼け止めを貸してもらい肌に塗る。
「わー!冷たっ!きれー!!」
子供のようにテンションの上がる叶につられ、俺も足を海の中に入れ水飛沫を叶に浴びせた。
「おらっ」
「わっ!冷たっ!覚悟しろよ」
叶が思い切り水を蹴り、俺に思い切り水がかかった。
「うわ、冷てぇ!!この野郎!」
小さい子供のように水を浴びせ合い、心の底から笑いあって服が水浸しになるくらいまで遊んだ。
叶は、ズボンが水で色が暗くなっていた。
「足、おっもいわ〜」
そう言いながら叶は、ズボンを絞り水を出していた。
それを見ながらまた笑い。笑い疲れた所でお昼休憩にすることにした。
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作者 黒猫🐈⬛
「本当の笑顔」
第4話 表と裏
※この物語は、ご本人様との関わりはございません。
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これからも、皆様を本の世界へ案内致しますので、どうぞ黒猫をよろしくお願いします。
𓂃 𓈒𓏸𑁍
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