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先日はわざわざ窓を開けてくれて、どうも。
ティートの素肌に触れた瞬間、アネモネはそう言ってやろうかと思った。
きっと彼は、驚くだろう。それとも話が早いと手を打ち鳴らすだろうか。はたまた、気持ち悪い目で見るのだろうか。どちらにしても、構わない。自分を利用しようと企んでいることに変わりはないのだから。
そんなことを考えながら、アネモネは素知らぬふりをしてスカートの皺を払った。けれど頭の中は、わちゃわちゃと忙しい。
ティートの肌に触れた時、彼はしっかりと自分に対して良からぬ感情を持っていることがわかった。それは怒りや憎しみとかではない。良い様に利用してやろうという、よこしまなもの。
紡織師はたぐいまれな力を持ち、人の心の奥底に踏み込む職業だ。
人の記憶に留まることがないという特権を利用して、時には目的を果たすために使えるものは何でも使う。強引な手段を使ったことなど数知れない。
でも、決して利用されてはいけない。これは代々紡織師が守り続けてきた掟だ。アネモネは新米紡織師だが、利用されてしまえば、そんなものは何の言い訳にならない。もちろんアネモネは利用される気はない。
逆に徹底的に利用やろうと、アネモネは職業意識を強く持って気持ちを切り替えた。
「ティートさんは、ソレールと同じ服を着てますね。ってことはアニス様の護衛騎士なんですか?」
「ああ、そうだよ。あれ?僕たち初対面だったかな?」
「……どうでしょうか。覚えているような……覚えていないような。ま、もうこうしてお話しているんですから、どっちでも良いですよね。ところで、あんなお坊ちゃんに仕えるなんて大変ですね」
「はっはははっ。仕事中だし、ここは人の目もあるから、何て答えて良いのかわからないなぁ」
「……つまり、それが答えなんだ」
「そうだねぇ」
のんびりと答えるティートを見上げ、アネモネはわざと口を閉ざして、心底嫌そうな顔を作る。
「……私も、困っているんです」
肺の中が空っぽになるほど、アネモネは溜息を吐いた。
「そうなの?」
「うん。アニス様に会えなくて、私、とっても困っているの。あのお方のお爺様から、大切な伝言を預かっているのに、それを伝えることができなくて……」
「それは大変だね。僕で良かったら相談に乗るよ。話してごらん」
案の定、ティートは食いついてくれた。
アネモネはしめしめと内心思いつつも、ティートの袖の端っこをちょっと摘まんで愚痴る。
アニスが頑として伝言を受け取ってくれないこと。伝言を渡さなければ依頼主から叱られてしまうから、家に帰ることができないこと。ソレールに頼んだけれど、いつまで経っても会う時間を作ってもらえないこと。
そうすれば予想通りティートは伝言の内容を聞き出そうとするが、アネモネはもちろん答えない。
とっても大事な内容で、誰にも知られてはいけない極秘のことだから本人じゃないと駄目と強く突っぱねる。
「ねえ、ティートさん。ソレールに内緒でアニス様に会う時間を作ってもらえないかな?そうすれば……あなただって気になる伝言の内容を知ることができるよ。」
少し苛立ち始めたティートに、アネモネは共犯者を求めるような口調でそう囁いた。
ティートはニヤリと笑い、即座に頷いた。