F:「」
K:『』
※登場人物および物語は全てフィクションです。
「お先に」
髪を拭きながら現れたキミのわずかに上気した頬が、俺の目線を奪う。
「どうした?」
『ううん、なんでもない』
「あ、これ飲んでいい?」
『どうぞ』
喉を鳴らして水を流し込むキミを横目に、急いでバスルームのドアを閉めた。
見慣れたはずのキミの風呂上がりも、自分の部屋の中で見ると全くの別物に感じる。
F side
お互い核心には触れずにここまできた。
何も言わなくてもお互いに分かっている。
俺たちは今、恋をしている。
『そっちよりこっちのバスローブの方が暖かいのに』
「んー、まあどうせすぐ脱ぐからいいよ」
『そっか』
普段ならそんな平凡な返し、しないだろ。
振り返ると何やらいい香りのするオイルを髪に揉み込んでいる。
「あ、いつもの匂いだ」
『ああ、これ?』
「お前の後ろ歩いてると香ってくる」
『香水よりほのかでしょ』
「エロくて好き、その匂い」
『……………』
なに赤くなってんだよ。
お前のドキドキが耳元まで聞こえてきそうだよ。
後ろから腰を抱き寄せ首元に顔を埋める。
「もう、いい?」
『…いつでもどうぞ』
ゆっくりと俺の手を取り寝室へ向かう。
チュッ
左手の薬指に軽く口付けたのは、お前なりの意思表示なの?
「…後悔しない?」
一瞬驚いた表情をした後、すぐに腕が伸びてきて抱き寄せられた。
『俺がするわけないじゃん、そんな意味のないこと』
「そっか」
『するとしたら…そうだな、今よりもっと愛を知ってしまう事に対して、かな』
「俺はきっと、もう戻れないけど」
『戻らないよ、進むだけ』
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